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No matter what ㉕
少しの沈黙の後、黒崎が口を開いた。
「なんで、そう思ったの?」
その質問の意味を、ゆっくりと考える。なぜ黒崎が「アキちゃん」ではなく、「アキ」を求めていると思ったのか。
「……お前と一度も最後までヤったことない」
「……いちゃいちゃはしてたじゃん」
「それは、過去の俺ともしてたからだろ。似たようなこと。だから、俺のことを『アキ』として見ることができた」
「…………」
「だけど。最後までするのは、お前はどうしても抵抗があった。『アキ』としたことがないからな。『アキ』とするまでは俺とヤりたくなかったんだろ」
「他ではヤってたのに?」
「他は違う。お前が俺と再会する前、お前がどれだけのヤツと関係持ったか知らねえけど。そこに特別な感情がない分、簡単にヤることができたじゃないのか? 逆に俺とは『アキ』ではないけど『アキ』に限りなく近い『アキちゃん』だから、俺といると『アキ』の存在がチラついて『アキ』を裏切ってるような気がしてできなかったんだろ」
「……アキちゃん、凄いなぁ。なんか、心理学者みたいだな」
「誤魔化さなくていい。そんなのは、お前といたら誰でも気づく」
お前に惚れたヤツなら。
黒崎の表情がふと真剣なものに変わった。静かな口調で晃良へと話し掛けてきた。
「……アキちゃんと再会した時。俺言ったよな。『アキちゃん』に惚れたって」
「それは、お前がそう思い込んでただけだろ? ……いや、違うか。そう、自分に言い聞かせてたんじゃないのか? 俺の傍で、『アキ』が戻るのを待つために」
「…………」
重い沈黙が広がった。
この部屋は、4月にしては冷房が効きすぎていて肌寒い。防音対策がされてないのか、隣の部屋の物音がひっきりなしに聞こえる。
向かい合ったまま視線を絡ませる。
ホテル特有の乾燥した空気がその2人の周りを漂う。晃良は静かに口を開いた。確認なんてしたくなかった。でも、もう後には引けない。
「お前が本当に必要なのは、俺じゃないだろ」
黒崎は表情を変えない。沈黙が続く。ふと、黒崎が小さく笑って答えた。
「そうなのかもな」
覚悟はしていたのに。黒崎が肯定する言葉に深く傷つく自分がいる。
晃良は、その感情を黒崎に悟られないよう、拳を握り締め、必死で無表情を貫いた。そんな晃良を真剣な眼差しで黒崎が見返した。表情を変えないまま、再び口を開いた。
「昔の俺だったら、そう思ってたかもな」
「…………」
その言葉の意味が分からず、困惑する。
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