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No matter what ㉖
「アキちゃんの心理分析は、鋭いところを突いてるかもしれないけど、完璧じゃない」
「……どういう意味だよ」
「確かに。俺はアキを待ってた。アキちゃんと再会するずっと前から。それこそ、アキと施設で離ればなれになった時から。だから。アキちゃんと再会した後も、アキちゃんを通してどっかでアキを探してたのは事実だと思う。……最後までヤらなかったのも、俺の中で勝手なこだわりがあったことは確かだし。あいつとした約束に心のどっかでこだわってた」
『……そしたら、アキの最初は俺にくれる?』
『当たり前じゃん。俺、ヒョウちゃんとしかしないもん』
幼い頃の晃良が黒崎にした約束。実際には約束は守られることはなかった。けれど、きっと黒崎の中では、晃良が記憶を失った時点で「アキ」の時間は止まったまま。「アキ」としての晃良は処女のまま。
だから、黒崎からしたら、晃良と関係を持つのなら、「アキ」と最初に関係を持ちたかったのではないだろうか。
「でもな。年明けだったかな、アキちゃんが風邪ひいて倒れた時。アキちゃん、思い出してくれただろ? 約束。それで、謝ってくれたじゃん。そん時、思った。俺、何を小さいことにこだわってたんだろうって」
「だけど、お前にとったら小さいことじゃないだろ?」
「小さいことだったんだって。俺が勝手に大きくしてただけで。そこで色々気づいた」
「…………」
「俺はアキにこだわり過ぎて、アキちゃんとちゃんと向き合ってなかったって。ていうか。気づいてなかった」
「……何を?」
「『アキちゃん』にめちゃくちゃ惚れてること」
「…………」
「アキちゃん、さっき言ったよな。俺がアキを待つためにアキちゃんに惚れてると自分で思い込ませてたって。そうじゃない。惚れてるって言い聞かせてたんじゃない。俺はアキを待たなきゃって、思い込んでた。再会した時、アキちゃんに惚れたって言ったのは嘘じゃない。だけど、アキよりアキちゃんに惚れるのが怖かったんだと思う。アキに義理立てしてたんだと思う。それに自分自身が今の今まで気づいてなかった」
黒崎が優しく笑った。その笑顔に晃良の胸がぐっと苦しくなる。
「さっき、アキちゃんがクリスに言ったこと。アキちゃんが俺のために努力してくれてたこと。アキにはない、アキちゃんの強いとこ。アキちゃんの話を聞いて、自分の気持ちがようやくはっきり分かった」
ゆっくりと黒崎が近付いてきた。そのままふわりと抱き締められる。
「アキちゃんの記憶が戻らなくても。もしアキちゃんと施設で会ってなかったとしても。どんな状況でも。アキちゃんに会ったら、俺はなにがどうしたってアキちゃんに惚れるんだろうなって」
黒崎の爽やかな香水の匂いが晃良を包む。目を瞑って、その匂いで黒崎の存在を確かめる。
「今の、このアキちゃんにどうしようもなく惹かれてまうんだろうなって」
黒崎がそっと晃良の体を離す。晃良が黒崎を見上げると、額にキスが落ちてきた。チュッと軽く触れて離れていく。黒崎が見つめている。真っ直ぐに。自分だけを。
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