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This is the moment ⑪

「……影武者だから」 「は?? なに?」 「今まで、関係持ってきたやつら、みんな。アキちゃんの『影武者』だった」 「……意味が分かんないんだけど」 「俺はもともとアキちゃんしか興味ないから。アキちゃんと直接再会するまでは遠くから見るしかできなかったし、時々発作が起きて」 「どんな?」 「アキちゃんに触りたい発作」 「はあ……」 「そんな時、アキちゃんに似たヤツを見かけたりとかすると、こう、ふわ~となって。ついつい関係を持ったりして。まあ、だけど、どの関係も数回止まりだったけど。虚しくなるから」 「なにそれ……」 「大抵、向こうから言い寄ってきてくれたし。だけど、割り切った関係でっていう条件でしか関係持たなかったから。ほとんどの関係が後腐れなかったんだけど」 「……クリスは違ったみたいだな」 「まあ……。あ、クリスは影武者その26な。最後の影武者だった」 「はあ……」  先月、晃良をピンチに陥れようとしたアメリカ人俳優のクリスを思い出す。確かに、BG仲間にも似ているとは言われた。自分ではあまりそうは思わなかったが。 「それ知られたらさすがに引かれるだろうと思って。ジュンにも口止めしてた」 「いや……引くというか……」  呆れはするけれど。でも、もともとは自分を想ってくれてのことだったと思うと、自分の身代わり目的で他と関係を持った不謹慎なやつだと片付けることもできなかった。 「まあ……ビックリはしたけど。理由に。でも、過去のことだし、俺を想ってくれての苦肉の策だったんだろうし。別にもういいけど」 「ほんとに?」 「うん」 「引かない?」 「うん」  良かった~、とほっとしたような顔で運転する黒崎の横顔を見る。こいつは一体、あとどれくらいの秘密を抱えているのだろう。結構ありそうな気もするし、えげつないものも多そうだ。それを考えるとちょっとだけ先行きが不安になった。  しかし今はそれよりも。自分に似た人間がこの世にそんなに存在して、都合よく次々と黒崎の前に現れたことに驚いた。それに加え、思わぬところで黒崎の経験人数が暴露される形となったことの方に興味も沸いた。  26人。これを多いと取るか少ないと取るか。実を言えば、晃良の方が経験数は少し多い。なぜならば、いつからか影でこっそりと人の恋路を邪魔するやつ(目の前のストーカー男)がいたからだ。そのおかげで、出会いと経験の回転率は高かった。 「……まあ、アキちゃんよりは少ないけど」 「…………」  なんで知ってんだよ、という言葉は言わずもがなだな、と晃良はお互いの経験人数についてはそれ以上何も触れないことにした。

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