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This is the moment ⑲
以前通された応接室に着くと、一応ノックをしてから入った。が、まだ誰もいなかった。黒崎と並んでソファへ腰をかける。しばらくすると、コンコン、と軽いノックの音がして、ドアが開いた。見覚えのある顔が覗く。
「アキちゃん」
「先生、こんにちは」
元職員だった女性が嬉しそうに部屋に入ってきた。が、黒崎の顔を見た途端、驚いて足を止める。
「まあ……もしかして、氷雅くん?」
女性が晃良と再会した時と全く同じセリフ(名前は違うけど)を口にした。黒崎は軽く微笑んで、女性を見返した。
「お久しぶりです」
「あらまあ……。やっぱりイケメンになったわねぇ……」
昔とそっくり。と女性は少し興奮気味に黒崎を上から下まで見回した。
「今、日本に住んでいるの?」
「いえ、休暇で」
「ああ、そうなの? どう? アメリカは? ご両親はよくしてくださってる?」
「はい、とても」
「そう……良かった。心配してたのよ。言葉も習慣も違う国だし……」
「黒崎はめちゃめちゃ優秀な科学者なんですよ」
「あら、そうなの? でもそうよねぇ。氷雅くんは頭が良かったし」
ふふふと、女性が自分のことのように嬉しそうに笑った。そこからソファに腰を下ろして、しばらく昔話に花を咲かせた。晃良の近況もかいつまんで報告する。女性は終始、興味深そうに2人の話を聞いていた。と言っても、話しているのはほとんど晃良で、黒崎は慣れてない人間に対して人見知りするらしく、質問される時だけしか口を開かなかった。一通り話し終えると、女性は感慨深げな表情を見せた。
「私たちはね、施設から出て行った子たちのことはみんな覚えてるのよ。元気でやってるとか、嬉しい知らせとかあると本当に嬉しくて。自分の子供のことみたいに」
だから、良かった。2人が元気そうで。そう言って女性が2人を交互に見る。晃良は黒崎と顔を見合わせて微笑み合った。
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