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This is the moment ㉒

 女性と別れ、施設を出た頃には夕方近くになっていた。雨も止んで、雲の切れ間から僅かだが太陽も顔を覗かせていた。ふと思いついて黒崎に話しかける。 「なあ、雨も止んだし、裏山ちょっとだけ見ていかね?」 「いいけど……足元ぐちゃぐちゃだと思うけど」 「うん……だけど……もう、ここには来ない気がするから。最後に少し見たいなって」 「……分かった、そしたら行こ」  車に一旦乗り込み、裏山のハイキングコースの入り口にある駐車場へと移動する。さすがにこんな雨の日にはハイキングをしようなんていう物好きな人間はほとんどいなかった。入り口近くにある売店も一応は開いているが、全く人気がない。  雨は止んでいたが、念のために晃良だけ傘を持って車を降りた。足下に気をつけながら穏やかな山道を2人並んで上っていく。数メートルほど歩いたその時。 「…………」  一瞬で、空気が変わったのを感じた。ぴりぴりとした痺れる感覚が晃良を襲う。 「……アキちゃん」 「ん……分かってる」 「……俺もさっきまで気づかなかった」 「……てことは、プロだな」 「そうだね。この前の素人に毛が生えたやつらとは違うな」 「……どうする?」 「とにかく、このまま気づかんフリして橋のとこまで行こ」 「分かった」  なるべく時間をかけて景色を楽しむフリをしながら進む。こんな天気では誰もいないかと思っていたが、驚いたことに何組かのハイキンググループとすれ違った。人気が少しでもある内は相手も下手に手は出してこないだろう。 「またお前を拉致するつもりなのかな」 「どうだろ……こんなとこまで付いてくるくらいだからな。もっと簡単なんじゃない?」 「……襲う気か」 「そんなとこだろうな。別に、俺から無理やり情報仕入れなくても、俺さえいなくなればその秘密兵器とやらも作られないわけだし? 俺を消した方が楽だろ。アメリカ恨んでる国からすれば」 「……面倒だな」 「まあ……プロさんみたいだしね。俺らの素性もちゃんと調べてるだろうしな」 「なあ……こんな時になんだけど……お前の作ってる秘密兵器って本当になんなの?」 「あれ? アキちゃん、そしたら俺の専属ボディーガードになる気になった?」  ニヤッとした顔で黒崎がこちらを見た。以前、同じ質問をして、教える条件に黒崎の専属ボディーガード及び結婚を提示されてそれを丁重にお断りしたことがあったのだが。

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