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This is the moment ㉗

「あれ?」  気づくと、真っ白な部屋の中に立っていた。いや、部屋というよりは空間。壁も何もない。ひたすら白い世界がどこまでも広がっている。きょろきょろと周りを見回すが、晃良以外、誰の影も形も見えない。服装を見ると、川に落ちた時に着ていた服装のままだった。しかし、濡れているわけでも、汚れているわけでもない。  俺、もしかして、死んだのか?  そう思った。殺風景な場所だったが不快な感じはしない。ということは、天国か何かなのではないだろうか。ただ、天国というものはもっと花畑かなんかあって死んだ人間同士きゃっきゃっする場所なのかと思っていたが。こんなひとりぼっちの世界なのは予想外だった。  さてどうするか。とりあえず歩いてみようか。そう思い、一歩踏み出そうとしたが。 「お兄ちゃん」  突然、後ろから声をかけられ驚いて振り返る。 「あれ……」  さっきまで誰もいなかった空間に、男の子が1人現れた。その子は晃良が誰よりも知っている少年だった。  小学生ぐらいの幼い姿の晃良がじっとこちらを見つめて立っている。真っ白なTシャツとパンツを身に着けていて、この空間の一部であるかのように馴染んでいた。 「どっから来たの?」  変な質問だなと思いながらも男の子に聞いてみる。 「僕、ここにずっといたよ」 「ここに? そうなんだ。気づかなかった」 「お兄ちゃんが来たんだよ。ここに」 「そうなの? ここって天国?」 「違うよ。お兄ちゃんの中だよ」 「俺の?」 「うん」 「そしたら……俺、まだ生きてんのかな?」 「うん、生きてるよ」 「で、これはなんだろ、夢かなんか?」 「夢じゃないよ。だけど、夢みたいなものだと思う」 「そうか……。よく分からないけど、俺はどうしてここにきたのかな?」  少年の晃良は、晃良の質問には答えず逆に質問を返してきた。 「……お兄ちゃん。お兄ちゃんは、未来の僕なんでしょ?」 「……ああ、うん、そうだね」 「今、大きくなったヒョウちゃんと一緒にいるんでしょ?」 「……そうだね」 「それで、ずっとずっと一緒なんでしょ?」 「……そうなったらいいなって思ってるよ」  すると、幼い晃良がニコリと笑った。 「僕ね、気づいたらずっとここに1人ぼっちだったんだ。誰もいないし、何の音もしないし。だけど、時々、頭の中にお兄ちゃんとヒョウちゃんが出てきた」 「俺と……黒崎?」 「うん。大きくなったヒョウちゃん。お兄ちゃんといつも楽しそうにしてた。ちょっと寂しい気もしたけど、ヒョウちゃんとずっと一緒にいるって約束が叶って良かったなぁって思った」 「…………」

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