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This is the moment ㉞

 尚人たちが帰ってから、晃良は1日のほぼ全てを黒崎の病室で過ごすようになった。読書をしたり、テレビを見たり、時々は黒崎にも本を読んで聞かせたりした。目が疲れると休憩がてら黒崎に話しかけることもあったし、ぼうっと病室から外の景色を眺めることもあった。  着替えや体を拭く作業は病院側に許可をもらって晃良が全てした。洗濯物もホテルへ持ち帰り、コインランドリーで自分の物と一緒に洗濯を済ませた。食事の時だけ病室を後にして、運動がてら病院周辺を散歩してからまた黒崎の元へと帰った。そんな風にして面会時間終了の時間までを過ごし、黒崎におやすみの挨拶をしてホテルへと戻る。そんな毎日だった。  今日も、面会時間の始まる時刻に合わせて病院に到着した。すっかり顔馴染みとなった看護師や医者に挨拶しながら黒崎の病室へ向かう。 「おはよう」  いつもと同じように、寝たままの黒崎へと話しかけた。穏やかな顔で目を閉じている黒崎をじっと見つめる。頭の傷に触れないよう気をつけて黒崎の頭に触れた。そっと撫でる。 「明日な、ジュンがとりあえず向こうも落ち着いてきたからこっちに来てくれるって。良かったな」  何気ない話をしながら頭を撫で続ける。 「今日は暖かくなるらしいぞ。夏日ぐらいの日になりそうだから、汗かくかもな。そしたら今日は何回か体拭くか。着替えも丁度洗って持ってきたし」  反応がない黒崎に向かって話し続ける。 「そういや、昨日コンビニに行ったらお前の好きなお菓子の期間限定のが出てたぞ。期間終わる前に食べられるといいな」  ふと、笑顔の黒崎が浮かんできた。 『アキちゃん』  そう言って笑いかける黒崎の姿。最後に交わした会話を思い出した。 『本当にアキちゃんは最高だな。最高過ぎて今、押し倒したいところだけど、あいつら始末してからな』  堪えていた何かがじわじわと溢れてくる。髪を撫でる手が微かに震えた。 「……あいつら始末したら、俺を押し倒すんじゃなかったのか?」  返事はない。 「なあ……返事してくれよ……」  唇も震え始める。それを止めようと必死に踏ん張った。

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