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This is the moment ㊲

 再び黒崎の傍へと近づいて椅子を引き寄せて座った。その動きをじっと黒崎が目で追っていた。 「……俺、どれくらい寝てた?」 「2週間ぐらいだな」 「そうか……」  黒崎がふと片手を伸ばしてきた。そっと晃良の頭の包帯に触れる。 「アキちゃんは大丈夫だったの? これは?」 「ああ……。頭岩で切った。だけど異常はなかったし大丈夫」 「そうか……良かった」  しばらく黒崎が晃良の髪を撫で続けた。晃良はされるがままじっとしていた。久しぶりの黒崎の手の感触に全身を集中させる。黒崎が再び口を開いた。 「なんか……長いこと夢見てた」 「そうか……」 「ん。施設の時の夢。アキが出てきた。お兄ちゃんがどーたらこーたら言ってんだけど、意味が分からなくて」 「…………」 「だけど、アキが笑って言ってきて。お兄ちゃん待ってるから早く行ってって。だけど、アキを置いて行けないし。どこに行くかも分からないし。そう言ったら、アキが大丈夫って。お兄ちゃんと一緒に待ってるからって。そしたら先行くね、ってアキが走ってどっか行っちゃって」 「……長い夢だったんだな」 「ん。アキが消えてから、周りに誰もいなくなって。施設も消えて、真っ白な部屋みたいな中に俺1人になった。どうすんのこれ、って思ってたら、アキちゃんの声が聞こえた」 「俺の?」 「ん。天気の話とか。ジュンの話とか。久間くんや酉井くんの近況とか。俺の両親に会ったとか。ぽつぽつアキちゃんが言ってるのが聞こえた。あ、あと変な本の朗読みたいなのとか。だから、1人でいたけど、寂しくなかった。アキちゃんがずっと話しかけてくれてたから」 「……不思議な夢だな」 「そうだな。だからしばらくそれ聞いてのんびりしてたんだけど……さっき……アキちゃんの泣きそうな声が聞こえた」 「………」 「アキちゃんが俺を呼ぶ声。早く返事しなきゃなってそう思ったら」  頭にあった黒崎の手がそっと降りてきて、親指で優しく晃良の頬を撫でた。 「目が覚めて……アキちゃんがいた」 「……うん」 「……アキちゃん」 「……何」 「泣いてもいいよ」 「…………」 「俺のための嬉し泣きだろ?」 「……バーカ」 「……アキちゃん」 「なに」 「チューしよ」 「…………」 「2週間ずーっとアキちゃんに触われなかったし、そこは寂しかったよ、俺。ほら、再会のキス、しよ」 「…………」  晃良は何も言わずに立ち上がった。寝たままの黒崎を見下ろす。じっと晃良を見つめる黒崎へと顔を近づけていく。優しく唇を重ねて、ゆっくりと唇を離した。黒崎と見つめ合う。  ふっと黒崎が笑った。 「しょっぱ」 「……黒崎」 「ん?」 「俺、全部思い出した」 「…………」  黒崎が少しだけ驚いたような表情を見せた後、そっと微笑んだ。 「そうなんだ……」  そう言って、腕を伸ばして晃良の後頭部をそっと包んだ。ぐっと引かれるまま、再び唇を重ねた。  長く、甘いキスが2人を包む。重なり合った唇から2人の体がゆっくりと溶け合って、混ざり合って、また再び1つになった。それは、そんな感覚のする瞬間だった。

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