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This is the moment ㊱

 大丈夫。俺はどんな結果になっても笑顔でいる。  気合いを入れて黒崎に向かって歩く。が、緊張していたのか近くに置いてあった簡易椅子の存在を忘れており、思いっきり足をぶつけてつまずいた。 「おわっ」  がちゃん、と椅子が派手に音を立てる。黒崎がその音に気づいてこちらに顔を向けた。ばっちりと目が合った。  数秒見つめ合った。  黒崎の名前を呼ぼうと口を開くが、なぜか出てこなかった。笑顔を向けようとするが強ばったまま顔が動かない。  どうしようと焦る晃良を黒崎がじっと見ていた。が、やがて黒崎の方がゆっくりと口を開いた。そして。 「……何してんの? アキちゃん」  そう口にした。 『アキちゃん』  確かにそう言った。確かに名前を呼ばれた。いつもと同じ。少し呆れたような、面白がるような、その中に優しさも含んだ黒崎の声で。  覚えていてくれた。  胸の奥から抑えていた感情が一気に溢れ出す。 「……距離感……間違えた」  震える声でそう答える。ここで泣いたりするものか。そう思う。笑顔でいると決めたのだから。  黒崎がふっと口角を上げて笑った。 「相変わらずおっちょこちょいだね」 「うん……ごめん」 「謝らなくていいけど、気をつけてな」 「……うん」  2人で微笑み合った。そこへ、先ほどの看護師と一緒に医者とスタッフが何人か慌ただしげに入ってきた。さっとベッドの脇へと移動する。晃良が目覚めた時と同じように、黒崎も体に異常がないかの確認を受けていた。  結果、どこにも異常は見られなかった。晃良は心の底からほっとする。ただ、長い時間寝たきりになっていて筋肉が衰えているため、リハビリをする必要ができ、数日は病院に留まることは余儀なくされた。  医者たちが晃良に微笑みかけながら部屋から出ていく時。先ほどの看護師が晃良に話しかけてきた。 「良かったね」 「……はい」  晃良も笑顔で返す。看護師はニコリと笑って部屋から出ていった。  ごゆっくり。悪戯っぽくそう呟いて。

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