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This is the moment ㊴

 そう。晃良は、結局黒崎からの同居の誘いを断った。それは黒崎が病院を退院して引き続き自宅にてリハビリをするために数週間晃良と過ごす間に晃良が出した結論だった。尚人たちにはかなり驚かれたけれど。  もちろん、晃良にしても悩みに悩んで出した答えだった。黒崎と離れていることで不安もあるし、何より会いたい時に会えないのは辛い。しかし、今の自分がアメリカを生活拠点にしている姿がどうしても想像できなかった。  そして、仕事を休んでいる間、自分はいかにBGという仕事が好きだったかにも気づかされた。アメリカでも仕事は続けられるが、アメリカでの場合、有名人などの要人警護がほとんどだ。自分はもっと日本で助けを必要としている一般の人たちをできる限り助けたい。そう思った。  それに。家族のように暮らしてきた尚人と涼とまだ離れたくない気持ちがあった。尚人は有栖という存在ができたことで心配ないとは思えたが、涼はまだ兄のような、親のような気持ちの自分からしたら気にかかる要素があった。  まあ、親馬鹿とか過保護とか言われればそうなのかもしれないが。もう少しだけ、この2人と過ごしていたいと思ったのだ。晃良にとって、初めてできた「家族」だったから。 『俺はまだ尚人と涼と家族でいたい。だから、もうしばらく俺を置いてくれないか?』  そう2人に言った時。当たり前じゃん、と2人とも泣きそうな顔で快諾してくれた。仕事や大事な家族。晃良の都合だけでは決められない色々な要素が混ざり合って出した結論。国際結婚を悩む人は結論を出す時、こんな気持ちなのかもしれない。  黒崎には自分の気持ちを正直に伝えた。仕事に対しこだわりがあることも、自分には尚人と涼が家族同然だということ。そのことは黒崎も理解してくれた。 『……分かった』  ふて腐れた顔をしながらも了承はしてくれた。もう、いつになったらアキちゃんは俺の専属ボディーガードになんのっ、と文句を言いながら。  もちろん、始めから簡単に黒崎が了承してくれたわけでない。晃良は遠距離になってしまう代わりに、1年の内半年は黒崎と一緒に過ごすことを提案した。ビザなしで晃良がアメリカに1度で留まれる90日間と、黒崎が1年の間で日本に滞在可能な90日間、仕事の関係で連続では会えないかもしれないが、通算で約半年会える。そう考えれば半同棲みたいなものじゃないかと黒崎を説得したのだ。 『半同棲……?』  どうやら黒崎は『同棲』という響きが気に入ったらしい。 『同棲って一緒に住むってことだよね?』 『まあ。半年はそういう状態でいれるってことだな』 『……2人きりで?』 『まあ、ジュンや尚人たちがいるから。常に2人きりは無理かもだけど』 『えー、そしたら嫌』 『なんでだよ』 『だって、2人きりじゃないんだったら同棲感ないじゃん』 『だけど、一緒に住んでるんだから同棲だろ?』 『違う! アキちゃんと2人きりじゃなかったら同棲じゃないっ!』 『もう……』  で、どうしたかといえば。アメリカに晃良が行く時はなるべく有栖が入れ替わりで日本へ尚人に会いに来ることになり、日本に黒崎が来る時は旅行に出たり、別のところへ泊まったりして2人の時間をできる限り増やすことにしたのだった。それでやっと黒崎が首を縦に振ったのだ。

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