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This is the moment ㊵

 こうしてまた離ればなれの生活が始まった。黒崎がアメリカへ帰って数ヶ月。晃良にも黒崎にも以前と変わらぬ生活が戻ってきた。離れている時は相変わらず毎週、黒崎から花束が届くのもいつもどおりだった。  実は。黒崎との同居を断ったのにはもう1つ理由があった。 「黒崎くん、めちゃくちゃ待ってるだろうね。晃良くんに会えるの」 「……ちょっと、怖いけどな」 「そうだよねぇ。入院中と退院後、ほんと凄かったもんね。我儘ぶりが」  黒崎が目覚めた後、筋力回復のためのリハビリが行われ、晃良が傍に付き添ってリハビリに協力していたのだが。この時の黒崎の晃良への甘え具合がいつもの10倍ぐらいはあった。 『アキちゃん、あーんしてご飯食べさせて』 『アキちゃん、添い寝して』 『ぎゅってして』 『チューして』 『お風呂一緒に入って体洗って』 『それでついでに口で慰めて』  晃良が病院内だぞっ、と拒否すると、ベッドの上で手足をバタバタさせてぐずり、頭の傷がうずくだの(もうほとんど痛みはないはず)、左腕が動かないだの(左手もバタバタしながら)、アキちゃんが慰めてくれなかったら一生動かないしリハビリもしないっ、とわめいて結局晃良が折れるということの繰り返しだった。  筋力が完全に戻るまでは約1ヶ月を要した。退院してからも数週間、黒崎は晃良と一緒に晃良のマンションへ戻り、リハビリをしながら一緒に過ごしたのだが、ここでも相変わらずの我儘ぶりだった。晃良への独占欲が半端なかった。尚人も涼も、そして有栖ですらも軽く引くぐらいだった。  今まで最大7日間しか連続して黒崎と過ごしたことがなかった晃良は、単純に、色んな意味で自分の体力と精神力のリミットに不安を感じたのだった。黒崎と365日、四六時中一緒にいたら一体どうなるのだろう。自分がまた原始人生活を送る姿を想像してぞっとした。  黒崎と一生一緒にいたいとは思う。だが、0から100へ突然全て切り替えるには免疫がなさすぎた。だから、少しずつ。黒崎との時間を増やしていきたいと思った。いつか。黒崎と現代人並みの生活も送れるように。黒崎だけの問題ではなくて。今の自分だってきっと、黒崎を求めすぎてしまうから。  でもこれは。黒崎には内緒にしておこうと思う。絶対納得しないだろうし。

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