69 / 124

第69話 ワコレール侯爵家の夜

「噂の人魚はいらっしゃったかい⁉︎」 僕はキョトンと突然の乱入者を見つめた。 ワコレール侯爵の咳払いと二人のレディの苦笑いに、青年令息はハッと気を取り直すとささっと服を整え、キリッとお顔を戻されて?僕と目を合わせた。 「お初にお目にかかります。パロス ワコレールです。麗しいリオン様にお会いできるのをとても楽しみにしていたんですよ。 君の社交界デビューの頃から遠目にお姿を拝見するばかりで、僕と同級の君の兄上の妨害も酷く、おっとこれは失礼。 とにかく今宵お目通り出来て嬉しく存じます!」 ちょっと人懐っこい大型のワンコが尻尾振ってるなぁと思いつつ、赤みのかかった顎までの金髪を波打たせて、緑がかった明るい茶色のヘーゼル色の瞳を見つめた。 僕と見つめ合ったパロス様はグッと息を詰められて、急にウロウロと視線を彷徨わせたと思うと口元に手を当ててモゴモゴと何か仰った。 『ヤバイ、ヤバすぎる。破壊力凄すぎ、マジ天使。』 「パロスお兄様はこれから身支度がおありでしょうから放って置いて、あちらに行きましょう、リオン様?」 僕はため息混じりのお二人のレディに引き摺られるように、ティールームを出た。 「恥ずかしいわ、お兄様ったら。ぶしつけでごめんなさいね。どうもパロスお兄様はガサツでいけないわ。驚かれたでしょう?」 僕は先程のワンコパロス様を思い出してクスクスと笑いながらシャルロット様を見つめた。 「僕はこう見えて面白い事が大好きですし、水の中を泳ぎまくってしまう様な男ですから、きっとパロス様とは気が合うと思いますよ。」 「まぁお優しいのね?」そう言いながらやっぱりモゴモゴ言ってたのでやっぱり兄妹だなぁと笑ってしまった。 『…イイかも。天使が義弟とか。萌えだわ!お義姉様とか呼ばれちゃう?』 晩餐は始終和やかな空気だった。もともとうちの領地とは隣り合っていて何かと行き来はある様だった。 食事後は子供達だけでという計らいで僕たちはファミリールームに移動したけれど、すっかりリラックスした僕は疲れも出たのかソファで意識を失った。 「お兄様、リオン様ったら眠ってしまわれたわ。お疲れだったのね。私はオニイサマに気を遣って先に休みますから、リオン様を客間に運んで差し上げてくださいね?」 シャルロットはウインクをすると部屋を出て行った。 私はリオン様を部屋まで連れて行こうと甘い香りを感じるほど近くまで寄った。 「…リオン様。お部屋へ行かれますか…。」 「…んっ。おにいさま…、ねむい…。抱っこしてぇ…。」 リオン様は閉じられた瞼の長い睫毛の影を頬にさして、寝ぼけているのか甘い吐息と共に腕を伸ばして囁いた。 私はドキドキとして身体が熱くなるのを感じた。あぁ、なんて愛らしいんだろう!しっかりと抱きしめたい。 でも起こしてしまったらこの可愛い小鳥が逃げ出してしまう。 そっと抱き上げるとリオン様は私の首筋に両腕を絡めて顔を埋めた。 私は思わずリオン様の額に口付けると、リオン様は顔をあげて私の唇に吸い付いた。 リオン様は呆然とする私の唇を舌でなぞると口の中に押し入ってきた。 戸惑いと興奮で震えながら私はリオン様と舌を絡め続けた。 我に返ると、リオン様は静かな寝息をたてていた。 私は慌てて客間にリオン様を運ぶと、待機していた従者に気取られない様に挨拶して辞した。 リオン様は寝ぼけていて覚えていないだろうけれど、何て甘美なひと時だったろう…。 私は熱い気持ちと身体を持て余して眠れない夜を過ごすのだった。

ともだちにシェアしよう!