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第68話 領地に向かう僕
馬車に揺られながら、真っ赤に実る林檎の果樹園や春小麦の稲穂が黄色く色づく畑を眺める僕。
毎年領地には夏に訪れていたので、この時期に移動したのは初めてだった。
スペード伯爵領は王都から近い方だけれど、馬車で移動するとなると他領地で一泊して次の日の昼ごろ到着という感じだ。
だからお兄様はツノのある騎馬で1日でやってきたりしてたな。
僕はまだそこまで長時間乗り続ける事が出来ないから、セブと護衛騎士達と馬車組だ。
お父様とお母様は既に領地に入っていて、僕は学院の授業の関係でこの時期になったんだ。
「こうしてセブと一緒に居るのも久しぶりで、僕、嬉しいよ。」
「私もリオン様とご一緒出来て嬉しく存じます。学院でお過ごしになってお屋敷を離れてる間にすっかりリオン様がご成長をされた様に感じます。」
僕たちはにこやかに情報交換などをして楽しく会話していた。ああ、セブの側にいると子供になっちゃうね。
護衛騎士がそろそろ今日の宿泊先に到着すると先触れをくれた。
今回は僕がひとり領地に向かう事を知った通過領地のワコレール侯爵が、伯爵が御心配されるでしょうから是非、館にご宿泊下さいとご招待頂いたんだ。
ワコレール侯爵家には、御子様がいらっしゃるけれど、残念ながら御三方に僕はほとんどお目にかかった事がなくて、今回の機会はちょっと緊張する様な、楽しみな様な複雑な気持ちなんだよね。
堅強でありながら優美さも散りばめられている絶妙なバランスの館、いやお城?を僕はすっかり気に入ってしまった。
前庭の薔薇園には秋薔薇が咲き乱れ、中心にはドラゴンの彫像が猛々しくも設置されていて、僕はすっかり少年心をくすぐられた。
「お気に召しましたか?我が家の紋章は竜なんです。」
僕が見入ってると後ろから柔らかくも高い声が聞こえてきた。
僕が慌てて振り返ると、学院で見たことのある女の子が面白そうな顔でこちらを見つめていた。
「すみません、ご挨拶もせず。僕はリオネルン スペードです。今日はこちらへご招待頂きありがとうございます。」
「私はシャルロット ワコレールですわ。学院ではリオネルン様のひとつ上の学年になります。
こちらこそお噂のリオネルン様が寄ってくださると伺って、私達は本当に楽しみにしていたんです。」
ワコレール侯爵は王宮で法務大臣を務める厳格さもありつつ、気持ちの良い方だった。
侯爵夫人とシャルロット様はとても気さくな楽しい方々で、僕はすっかり仲良くなってしまった。
「パロスお兄様は今日は何としてでも帰宅すると頑張ってらしたけれど。もう直ぐお帰りになると思いますわ。
それより、リオン様の白騎士団の演習の話を是非お聞きしたいですわ、ね?お母様。」
お二人のレディは目を煌めかせ、心無しか頬を赤らめて根掘り葉掘り聞いてきた。
『まぁ…萌えますわ。罪ですわ…。』
ちょっと何か聞こえた気がするのはきっと空耳に違いない。
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