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第63話「止まれる」
「鷹夜、くん、、?」
すぐそこにある目は異様な色香を放っていた。
吸い込まれそうな茶色の目。
表面の水分が艶やかで、ポカンとした表情の自分が反射で写り込んでいるのが見える。
愛しい茶色。美しい瞳だった。
(鷹夜くんの目だ。俺のこと、好きって言ってくれる、鷹夜くんの目)
途端に、脚の間に熱が集まってきた。
(ヤバい、久々すぎて、こういうの、)
息苦しさを覚えるくらいに誰かに欲情するなんて、動物か何かにでもなったのかよ、と頭の中で自分を抑制しようとするが、気を逸らそうとすると余計に芽依の身体は熱くなっていく。
「バカだなあ、芽依」
そう言いながら頬を撫でて微笑む鷹夜を見て、ますますそんな愚かな激情が膨らみ、手がつけられなくなってしまった。
身体が熱くて胸が苦しくて一度、ハア、と息をつき、尽きない欲を今夜は彼に求めてもいいのだろう、と少し伺いながらも芽依は掴んだベルトの金具をゆるゆると外していく。
BGMにでも、とテキトーにつけたテレビからは深夜帯に良くやっているカリブ海の水中の映像が映し出されていて、色とりどりの魚が泳ぐ中で聞いたことのないヒーリング音楽のような音がかすかに部屋に流れていた。
「心配する身にもなってよ」
「お前がそれ言うなよ」
「っ、確かに」
もっともなご意見だ。
鷹夜は芽依に跨ったまま彼を見下ろし、フッと笑んで、彼の薄く形のいい唇の端に右手の中指で触れる。
そこから、顎をなぞるように肌の上に指先を滑らせた。
まるで誘うような仕草、動作に芽依の喉は思わずゴクンと生唾を飲む音を響かせる。
「飯食いながら勃ったの?」
意地悪な質問に、意地悪な視線がこちらを見下ろしていた。
部屋の空気は濃くなっていて、これから行われるだろう行為を想像させるような重たくて甘ったるい質感に変容している。
いつぶりだろうかとまた考えながら、芽依は先程のキスでとろけた表情を鷹夜に向け、ねだるように少し唇を尖らせた。
「違う、おあずけくらいすぎてチューで勃ちました」
「ふうん。かーわいっ」
鷹夜は芽依がベルトに伸ばしている手を絡め取って彼の顔の横まで持ち上げるとラグに押し付け、覆いかぶさって、ねだられるままにキスを落としてやった。
チュッ、と素早く唇が重なり、一瞬で離れていく。
遊ぶようにそれを繰り返していると、芽依の硬くなったそれが服越しに鷹夜の尻を押し上げてくる。
「んっ」
「ごめ、も、久々で刺激強い」
「いや、うん、俺も割とダメそう」
「え」
自分の手首を押さえていた手の力が緩くなった瞬間、するんと抜け出して思わず鷹夜の腰を掴み、グイ、と彼の脚の間を確認してしまった。
ズボンには、緩められたベルトがハンパに巻き付いている。
そして、少しだけダメージ加工のある黒いスキニージーンズの股間部分は、芽依のそこと同じように盛り上がっていた。
「鷹夜くんのも勃ってる」
「実況しなくていいんだが」
「ヤバい、触りたい」
途端に、キラキラとした曇りのない瞳が鷹夜を見上げた。
久しぶりに恋人が目の前にいて、久しぶりに心が通じ合っていて、久しぶりに欲情してくれている。
この現状が芽依にとっては頭がクラクラするくらいに嬉しい出来事で、軽く興奮状態に陥っていた。
どことなく息が荒い。
「いや、怖い、怖いから、待て待て待て」
「え。待って?そんで、お尻、どうなの?」
「え?」
キラキラしていた表情は一瞬にしてスッと現実に戻り、今度は急に口角が下がって苦い顔をした。
「い、入れたんだろッ、俺以外の、!」
「あ、、、ぁあーー。」
何だその、浮気者に向けられるべきだろう言葉は。
どこかに似たようなセリフがあったような気がしたが。
そう言えばそんなものも買っていたな、と思い出しながら、鷹夜は一瞬首を傾げ、まあいいか、と元に戻して再び芽依を見下ろし、少しだけフン、と鼻から息を吐いた。
「オ、モ、チャ、な?」
お前がいない間に俺、すげえことしたんだぜ?
と言いたげな勝ち誇った表情に、芽依は目を見開いて口をパクパクさせた。
「な、なッ!」
「試したよ、もちろん」
「ッ、、まさか、よ、良かった、の?」
「よ、良かった?んーー、うーーんと、おっと」
ガバッと芽依が起き上がり、今度はするんと背中に彼の手が回って鷹夜の身体を支えた。
バランスを崩しつつ咄嗟に芽依の肩を掴んだ鷹夜は、そのまま彼の膝の上に座り先程の質問について考える。
結局のところ、芽依と会わない期間に使ったのはアナルプラグで、あの一度だけだ。
それも、そのすぐ後に芽依との一件があり、ほぼお蔵入り状態になっていた。
プラグ以外の他のものはもはや手の付けようがなく、届いたときに入っていた小さめの段ボールに戻して何となくクローゼットに仕舞ってしまっているのだ。
「良かった、つーか。まあ、」
それでも、強烈だったあの一回の記憶を思い起こす。
ひとりで、酒を飲んだ状態でやった馬鹿みたいな体験だったがそれでも、少しは後ろのそこが広がったようには思えるものだった。
プラグだって連なったボールの4個目までは中に押し入れることができたのだ。
「あの、」
「うん」
芽依の顔がすぐそこにある。
何故だかちょっと不安げな表情が至近距離で鷹夜の顔を覗き込み、彼の答えを待っている。
とてつもなく言いにくい。
そう思いながらも、口元をもたつかせながらも、鷹夜はフッと息を吐いてから芽依の瞳を真っ直ぐ見下ろし、一思いに発した。
「イッた。普通に」
「イッ、、」
その瞬間、芽依は顔を歪めて泣き出しそうな表情をした。
「た、た、鷹夜くんの、お尻の、初めてがッ!」
「は?」
「スンッ、うっ、俺が、俺のちんこでッ、イかせたかっ、うっ、ぅぐっ」
「え?マジで泣いてんの?こわ」
ぎゅううう、と鷹夜の背中に回した腕に力を込め、ゴニョゴニョ言いながら芽依は彼の胸元に顔を押しつけて本気で泣き始めてしまった。
(あ、ガチ泣きだ)
カットソーの胸元がじんわりと温かく濡れていく感覚がして、鷹夜は仕方なく泣き出した大男の頭を抱きしめ、整髪料のついた髪をふわふわと撫でてやる。
いつもの匂いだなあ、なんて呑気に思いながらだ。
「怖いって言わないでッ!鷹夜くんの穴に、ズポズポ挿れてッ、目一杯可愛い声出させて、ぐっちゃぐちゃにして!俺がッ、うぅぅ、俺のマグナムでイかせたかったのにいッ!!」
「うるさっ」
馬鹿だった。
愛しい馬鹿に戻っていた。
芽依が喋るたびにほとんどないぺったんこな男の胸の間が吐息で温まるのは何だか面白い感覚がする。
ぼんやりそんなこと考えながら、この厄介な奴がさっさと泣き止まないだろうかと鷹夜は面倒くさがってしまった。
別にオモチャなんだから良いだろう、と。
人と人の浮気ではないし、何にせよ、この抱きしめている馬鹿な男のイチモツは身長にも相まって大きく、何より太いのだ。
誰のせいでオモチャなんて買うことになったか、とため息すら出そうである。
「はいはい、よしよし」
「嫌だ!!乳首出せ!!吸わせろ!!」
「なッ、!?大声でそんなこと言うな!」
しかし馬鹿は暴走していた。
鷹夜が面倒くさがっている様にも気がつくことなく、自分も満足に奥まで入れたことがない彼のナカにオモチャが侵入し、呆気なく鷹夜を絶頂させたと聞いて芽依は死ぬ程悔しがっていた。
下手な意地である。
ガバッと鷹夜の白い長袖のトップスの裾を捲ると頭をねじ込み、生地が伸びるだとかも考えずに目の前にある久々の鷹夜の生乳、生乳首に「はあ、はあ」と再び息を荒くすると、酸素が薄い服の中で、はむっと突起に吸い付いた。
「ぁんっ、!」
乗っかったまま前から抱きしめた体勢だと、鷹夜の股間は芽依の臍の上辺りに位置する。
勃起したそれはジーンズを押し上げていて、芽依の臍から10センチ程上ったところにググッと押しつけられていた。
「ん、出せ!ちんこも!見せろ!」
「コラ!!お前なッ、ちょ!!待て、待ちなさい!」
「うっ、」
そのとき、「待ちなさい」の一言に芽依が反応した。
「ん、?」
鷹夜はピタッと動きを止めた芽依の顔を見るため、自分のシャツの襟をグイと右手の人差し指で引っ張り、中を覗き込む。
「、、ごめん」
また泣きそうな顔をした彼が、襟の奥からこちらを見上げてきていた。
恋人と言う関係性でしか見られないだろうそんな竹内メイの表情、そしてこの光景に、不本意ながらもぎゅんっと鷹夜の胸は高鳴ってしまった。
(俺、本当に面食いになったな)
フン、と鼻から空気を抜いた。
喧嘩した意味はあったようだな、と弱った表情で動きを止め、必死に自分に触れることを我慢している芽依を見つめて、鷹夜もまた、弱ったような困ったような顔をして返す。
「こういうのは、いいよ。前のときと違うだろ」
確かに、あの夜の本気の「やめろ」とは、今は違う。
「ん、でも、止まれるからって、分かってもらいたくて」
「うん。ありがとう。ちゃんと聞いてくれて」
「ん」
「だから、さ、」
「ん?」
芽依の肩に乗ったままの左手を離して、シャツの布ごしに彼の後頭部に触れる。
鷹夜は芽依の頭をゆっくりと一度撫でてから、後頭部を押さえて軽く自分の方へと引き寄せ、彼の唇がちょうど左の乳首のすぐ脇に来るように肌に押し付けた。
「吸って、乳首」
「、、、ん」
言われた通り、れろ、と肉厚な舌がぷっくりと立ち上がったピンク色の突起を舐る。
「んふ、んっ」
悩ましげな吐息が漏れた。
その声を聞きながら、芽依は襟の中から鷹夜を見上げて、とろけた表情の鷹夜は襟の外、彼の上から芽依を見下ろす。
「どのくらい?」
「ぇ?」
「どんな風に、どのくらいの強さ?」
「んあっ」
くちゅんっ、とまた舌先が鷹夜の左の乳首を下から強めに舐め上げる。
途端にビリリッと甘い電流が頭の先まで駆け抜けて、脚の間の熱が増した。
「それ、くらいの強さで、」
「うん」
触って欲しい。
触りたい。
鷹夜の中でもその欲は、我慢ができないほどに膨れ始めている。
「もっと、しつこく、して」
「ん」
舐めとるように下から上へ、ぺろぺろと乳首が舐められて、時折り少し強く吸われると鷹夜の腰がびくんっ、と揺れた。
器用に舌先で横方向に弄ばれると、また違う甘さの刺激が下肢を駆け抜け、ズボンが苦しくなっていく。
「あっ、んっ、んっ、ぁんっ」
芽依の舌が乳首を掠めるたび、いやらしくて情けない声が鷹夜の唇から溢れる。
いつの間にか、鷹夜は一定のリズムで腰を揺らして芽依の身体に自分のそれを擦り付け始めていて、無意識にしているその行動に気が付いていない彼を見上げ、芽依はゆっくり目を細めた。
(可愛い。めちゃくちゃえっち)
芽依自身のそれもズボンの布を押し上げていて、正直そろそろ窮屈さが痛くて苦しい。
けれどこの本能じみた鷹夜の腰振りをまだ見ていたくて、あえて彼は何も言わずに乳首を舐り続けた。
「あ、アッ、ぁん、んっ」
久しぶりの刺激に、声を抑えようだなんて想いは一瞬もよぎらない。
ただこの気持ちの良い感覚に酔って、いやらしい顔をした自分を芽依に見てほしくて、見られる恥ずかしさすら快感で、鷹夜はおかしくなりそうになりながら胸元にある彼の頭にコテン、と自分の頭を乗せて、左の乳首にしゃぶりつく芽依を撫で続ける。
「んっ、んっ、」
「鷹夜くん、、ん。服、捲って」
「んっ、ん?」
頭を上げてもう一度襟を引っ張り、芽依を見下ろす。
切なげな視線が襟の向こうから芽依の視線と絡まった。
「舐めづらいから服捲って。自分で」
「ん」
スルスルっとシャツの裾が捲り上げられ、すぽん、と芽依の頭が出てきた。
服の中から解放されると、酸素が薄かったせいか、「ぷはっ」と大きく息をする芽依。
「脱げる?」
「ん、待って」
腕を抜いて、頭を抜いて、久々に着た白いカットソーを脱いでテーブルの向こう側にそれを放ると、鷹夜はついでに芽依に半端に外されていた自分のベルトをシュルッと腰から引き抜いて、また同じようにテーブルの向こうへと追いやった。
「ちんこ、痛い」
自分の体を見て下腹部を撫でながら、鷹夜はポツリと言った。
「あ、俺も」
「ふはっ、んふふ、芽依も脱いでよ」
「ん、脱ぐ。ねえ鷹夜くん、オモチャ持ってきて」
「え。使う?」
「使う。鷹夜くんがひとりでどんな風にシてたのか見せて」
「趣味悪いな」
「これ以上オモチャに嫉妬させる前に実演してよ」
「何だそりゃ」
立ち上がり、お互い服を脱ぎ捨てながら会話をして、2人はクスクスと笑い合った。
さて仕方がない、と鷹夜も観念し、少し綺麗になったクローゼットの中から、奥に隠れていた箱を取り出して持ってくる。
靴が入っているくらいの大きさのものだ。
「ん」
とりあえず、と2人してベッドへと移り、向かい合って座る。
芽依からすれば、ここに座るのですら久しぶりだった。
「おお、これが、、、って、えッ!?なに、何これッ!!」
「え?」
パカッと箱の蓋を外して中身を芽依に見せた後、その反応で鷹夜は「やっちまった」と思い出した。
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