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ダイヤとメイド

ハロウィンの夜は賑やかにふけていく。 駅からアパートへ続くアスファルトの道を歩いてると、吸血鬼やら狼男やらの仮装をした子供たちとすれ違うが、どの子もぶら下げたカゴにお菓子を回収してご機嫌だった。 「お菓子くれなきゃいたずらするぞーがおー」 「がおー」 兄妹だろうちびっこモンスターが仲良く駆けっこするのを見送り、俺と足並み揃えたフジマが微笑ましげに呟く。 「実に健全にハロウィンて感じ」 「近くの商店街でスタンプラリーやんの、その参加者だろ。仮装してきた子にお菓子配るんだってさ、っても一口サイズのチョコやキャンディーの詰め合わせだけど」 楽しげに騒ぐ子供たちを眺めるフジマに説明してやれば、何か勘違いした幼馴染が思わせぶりな流し目を使ってくる。 「巧も行きたい?」 「俺が?」 乾いた笑いしかでてこず脱力感と共に肩を竦める。 「じょーだん、ハロウィンは卒業したの。バイトで立ちっぱでもーくたくた、早く部屋帰って休みてえ」 「小4の時覚えてる?近所のピアノ教室のパーティーに参加した……」 「岡崎さんがやってたトコ?子供好きなおばさんでピアノ教室の生徒じゃなくても呼んでくれた」 「で、ご近所さんの俺たちも図々しく上がりこんだ」 「言い方……歓迎してくれたんだからいいじゃん」 「俺の分までカボチャのプリン欲しがったろ」 「覚えてねーよンなこと」 「食い意地張ってるってあきれたよ」 フジマがおどけて肩を竦めるが、表情がだらしなく緩んでるのを見過ごさない。コイツが思い出話をすると何を語ってものろけにしか聞こえない、と言ったらのろけになるのか。俺の都合が悪いことまで記憶力ばっちりなのはどうにかしてほしい。 「俺が覚えてるのはジョンにケルベロスのコスプレさせたこと」 ジョンはフジマんちの飼い犬。 「傑作だったよな、右と左にボール紙で作った犬の首くっつけて」 「俺と巧の合作。ジョンはすごい邪魔くさそうにしてたけど」 「ぐるぐる回りながら噛みついて」 「ケルベロスっていうかウロボロスだったな」 二人で馬鹿笑いをする。 幼稚園から大学まで腐れ縁を続けてりゃ語り尽くせぬ思い出も自然と嵩む。 俺の片手には店長自慢の秋の新作、カボチャのタルト入りの洒落た箱がぶらさがっている。 フジマの片手の袋にゃ綺麗に折り畳まれたメイド服。 「…………」 どうしたもんかなマジで。 フジマは袋の中身を知らない。知る由もない。 ご褒美だと偽って咄嗟に渡しちまったが、下手にガードが固いので取り返すタイミングが掴めず難儀する。 部屋に帰ったフジマが袋を開けちまったら、店長は臨時バイトの大学生にメイド服を進呈した変態に成り下がる。 コスチュームプレイが趣味のバツイチおっさんでも、一応俺のバイト先の店長だ。 残り物のケーキを毎度持ち帰らせてくれる親切な上司が、ダチに変態と見なされドン引かれるのは忍びない。たとえ事実だったとしても、だ。 個人経営のケーキ屋にとっちゃ臨時でバイトに入ってくれるイケメン学生は貴重な戦力なので、離脱は痛い。 店長の評価の暴落を懸念する一方、メイド服を見たらフジマどんな顔すっかなといけない悪戯心がもたげてくる。 普段からスカしたコイツがあんぐり口を開けて固まるさまを想像したら愉快痛快胸が透く、なんて思っちまう俺は嫌なヤツだろうか。 道の先にアパートが見えてくる。フジマと競うように階段を上って部屋の前に立ち、鍵をさしこむ。 「お茶淹れるよ」 「頼む」 フジマが玄関で靴を脱ぐ。きちんと踵を揃えるあたりお育ちがいい。 俺は安物のローテーブルの前にどっかり座り、膝を崩してリラックス。 「あー肩こった、あの被り物けっこー重いんだよな」 「お疲れ様」 「お前もな。完璧執事になりきってて笑えた」 肩を回して嘆けば、できたフジマがすぐさま労わってくれる。 「いますぐにでも執事喫茶で働けそうだな」 「遠慮しとく。所詮はまねっこさ」 フジマがマグカップに紅茶を淹れ、タルトと一緒に運んでくる。 「待ってました。いただきまー……」 さっそくフォークを掴んでいただこうとすりゃ、フジマに軽く手をはたかれる。 「洗ってこい」 「えー」 「巧?」 「……へいへい」 目が笑ってない笑顔で命じられ、渋々腰を上げてシンクへ行く。ハンドソープを泡立て、素早く手を洗って戻ると、フジマが袋から出したメイド服に見入っていた。 遅かった。 「フ、フジマそれは」 「店長からのご褒美だって言ったよね」 フジマは膝においたメイド服に真顔で見入っている。 どうしようめちゃくちゃ気まずい。慌てて言い訳をさがす。 「そうだよ功労賞だよ、お前のおかげで売り上げよかったから特別に……店長一押しのメイドの制服だと、なかなか通だよな。須藤さんに着せたらセクハラになるから代わりに俺、じゃないフジマにって、ひっでー話だよなはははははただの厄介払いじゃねーかっての!別れた奥さんにも着せたのかなーおさがりかなー。店長がコスチュームプレイにハマってたなんて意外ってゆーか、人様の性生活はあんま想像したくねーよなはは……」 まずいまずい、音速で墓穴を掘って埋もれてる。 フジマの背中はうなだれている。 ひょっとして、本気でご褒美を期待してたのか?俺の部屋で袋を開ける瞬間を心待ちにしてたのか?なのによりにもよってメイド服でがっかりしてるのだとしたら 「本当に俺にくれたんだよね」 フジマがメイド服を見詰めたまま、無表情な声で確認をとる。 どんより不穏な気配を漂わせる幼馴染の背中に向かい、噛み噛みでフォローに入る。 「いやでも店長は悪気ねーんだ、そこだけはわかってやってくれ。ほんのジョークっていうかお茶目っていうか、お前キレイな顔してるしガチで似合うんじゃねーの?なぁんて」 「俺がもらったんなら好きにしていいよな」 「もちろん!!」 絶妙に微妙な空気の圧に耐えかねた挙句盛り上げようとして空回り、寒い独り芝居がド滑りして俺は、フジマの秘められた思惑にも気付かず、その言葉を強く強く肯定する。 「じゃあこうする」 フジマがにっこり微笑んで俺を手招き。 嫌な予感が頭の奥で膨れるが逆らえるはずもなく、ちょこんと向かいに正座する。 きちんと膝を揃えて座った俺に対し、フジマが有無を言わさずメイド服を突き付ける。 「着て、巧」 嫌な予感的中。 「ぜっっっっっっってえやだ」 「そんなこと言わず」 数呼吸ためて断固拒否すれば、間髪入れず畳みかけ、うきうきとメイド服をあてがってくる。 幼馴染の馬鹿げた提案に、俺は音速で首振り腰を浮かす。 「嫌だって言ったらやだ、女装なんざごめんだ!誰がメイド服なんてこっぱずかしい衣装着れるかってのアホも休み休みぬかせ!」 「へえ、俺ならいいんだ?」 「べ、別にそーゆー意味じゃなくてだな……冷静に考えろ、俺のメイド服なんて誰得よ?カボチャ怪人ならまだイロモノ枠で笑えるけどフツーに考えて女装はキツい」 「俺得」 「きょう一日カボチャ頭の立ちんぼで恥かきまくったってのにマイルームの安息まで奪われるのか。安住の地はどこよ押し入れに引っ越しゃいいのか助けてフジえもん」 「あの仮装も悪くはないけど、巧の素顔が見れないで物足りなかった」 楽しみにして行ったのにと小声で付け加え、潤んだ目で上目遣いで罪悪感を突付いてくる。 「だめかな」 「だめに決まってんだろ」 言葉とは裏腹に声音が萎む。 フジマのヤツ、俺がおねだりにからきし弱いの知っててぐいぐい付け込みやがる。 上げて上げてまるめこむのが得意な性格をよく知ってても流れそうになるんだから、美形はごね得ねだり得を痛感。 うっかりほだされそうになって踏ん張れば、フジマがメイド服を俺の胸元に合わせ、爽やかにごり押す笑顔で追い討ちをかける。 「二人だけ。これっきり。な?」 「やだって」 「お願い聞いてくれたら食堂のハンバーグ定食おごる」 「その手はくわねーぞ」 「大学芋の小鉢も付ける」 「もう一声」 「デザートにプリン」 「~~しかたねえな」 そして俺はあっさり買収された。 認めるのは大変癪だが王子様は俺転がしの達人、駆け引きじゃ勝ち目がねえ。さらに付け加えるなら、うちの大学のハンバーグ定食はマジうまい。大学芋とプリンの追加で最強の布陣。 そもそもが既に女装より恥ずかしい事をしまくってるからして、今さらメイド服に着替えた所でダメージは浅いと開き直る。 店長からメイド服を託されたのは本来俺であるからして、ダチにお荷物押し付けてトンズラここうとした時点で、不本意の極みの女装を強いられるのは因果応報自業自得のオチ。 ああそうだとも、あの時きっぱり断らなかった俺こそがすべての元凶で諸悪の根源なのだ畜生。 「わかったよ着替えるよ、メイドさんのかっこでとことんご奉仕すりゃ気が済むんだろエロ王子」 「やったね」 フジマが計画通りという表情をする。こんのムッツリスケベめ。 ハメられたのはわかっちゃいてもどうしようもない、腐れ縁の幼馴染は俺の行動パターンなどはなからお見通しで仕掛けてきたのだ。 深呼吸で意を決し、ユニクロで買ったパーカーの裾を掴んで一気に脱ぐ。 ガキの頃から一緒に風呂に入った仲、夜はもっとすごい事だってしてる。 貧相な裸を見せるのは恥ずかしくもなんともねえ。 続いてズボンを脱ぎ、布がたっぷりしたメイド服にもたつきつつ袖を通していく。 「着方合ってる?女物なんて着たことねーからわかんねー」 「てっぺんに頭をくぐらすんだよ」 「肩幅変じゃね?」 「ちょうどいいよ。足は閉じて」 「おっと」 付きっきりで着替えを見られんのは落ち着かねえ。糊の利いた生地の角が皮膚にチクチクささくれる。 「ぷは」 頭を抜いて息吹き返し、長袖から手を突きだし、膝上スカートの裾を未練がましく引っ張る。 残るメイドさんキャップをフジマが手にとる。 「仕上げは俺が。頭出して巧」 「こうか」 「じっとして」 言われるがまま首をたれる。 「メイドさんキャップまでする必要ある?」 「ホワイトプリムっていうんだよ。かわいいだろ」 要らねえトリビアをひけらかし、やたらもったいぶって手をさしのべ、清楚で可憐なホワイトプリムを俺の頭にはめる。 「もうちょっと左のが安定するかな……」 見栄えのする位置や角度にこだわり微調整する手付きがこそばゆくて落ち着かねえ。 「完成」 満足げな独白。 「可愛いよ巧」 「笑えよ」 「可愛いって」 「いいから笑えよ、顔がニヤケてんだよ。そんなに面白いかよ俺のくそ似合わねー女装」 羞恥に顔を染めて俯き、膝が剥き出しのスカート丈を掴む。 生まれて初めて装着するフリルでひらひらのホワイトプリム、生まれて初めて着る黒基調のシックなメイド服。 ミニスカのせいで寒々しい生足をさらけだすのがいたたまれない。 なんていえば、「巧は毛が薄いから大丈夫、すべすべたまご肌だよ」とフジマがおよびじゃないフォローをかましそうで想像するだに恥ずか死ぬ。 いやそーゆー問題じゃねえし。 「くっ……!」 引き立て役にされんのも笑いものにされんのも慣れっこだけど、やっぱり恥ずかしいもんは恥ずかしいし惨めなもんは惨めだ。 膝の上においた拳を震わせてフジマに一言モノ申す。 「カボチャの次はメイドさんてさあ……イロモノ二段落ち罰ゲームかよ……!」 「顔上げて巧」 「やだ」 「ホントに可愛いから」 「ね?」と優しく促して頬に手を添える。 嘘でもお世辞でもないと信じたくなる魔法の力、ただの屑石を宝石に化かせる全能の暗示を秘めた声。 ステッキの一振りでかぼちゃを馬車に変え、シンデレラにドレスをプレゼントした魔女ってのは、こんな人たらしの声をしてるんだろうな。 フジマのぬくもりに包まれておそるおそる顔を上げりゃ、王子様はまっすぐ俺のへんてこな女装を見据え、輝く笑顔で率直すぎる感想を述べる。 「食べちゃいたい」 嘘と決め付けるには純粋すぎる眼差しに根負け、もうどうにでもなれと胸を張る。 「次は?」 「ご奉仕して」 「一肌脱ぐ」 「着たままで」 「言葉の綾だよ」 フジマの頼みとありゃ仕方ねえ、年に一度のハロウィンだきゃ特別出血サービスで大盤振る舞いだ。 やけっぱちでフォークをひったくり、雑にタルトを切り分けて真ん中にぶっ刺す。 「おいしいカボチャのタルトでごぜーますことよ、あーんしてくだせーましご主人様」 羞恥心は袋叩きでかなぐり捨て、ブサイクに引き攣る笑顔でフジマにタルトを差し向ける。 気分は田舎訛りがぬけねーやさぐれ不良メイドだ。 幼馴染は一瞬きょとんとしてからさも嬉しそうにニヤケまくり、いっそ殺してくれとフォークの先を震わす俺の手を掴んで、大胆にタルトをかじる。 ただ単にあーんしてるだけなのに後ろめたさと疚しさが紙一重なのはメイド服を着てるせいか、従順に屈むフジマの睫毛の長さを思い知ったからか。 「掃除が大変なんでカケラを落とさねーでくだせーましね」 「なら手で受けてよ」 色気をぶち壊すぞんざいな注意にもまるでへこたれず、俺の反対の手をぐっと掴んで自分の口元にあてがわせる。 「あーん……」 限界だ。耳まで火照る。やってられっかこんなままごと。 正座した足の指をむずむず組み替えて必死に堪えりゃ、俺の手からタルトを食い終えたフジマが挑発的に唇をなめる。 「ごちそうさま」 ふいに腰を上げて後ろに回り込む。 何する気だ? 戸惑うおれの背後に立ち、100円均一で買ったスタンドミラーの方へ導く。 「やめ、」 「鏡見て」 「もー無理無理無理だっていっそ殺せ!」 「可愛いよ巧、俺を信じて」 「ただメイド服着ただけだぞ、メイクもなんもしてねーのに可愛いわけあるか!いや元が元だからメイクしたってたかが知れてるけどさ、俺みてーな素材からぱっとしねーのがメイドさんのかっこなんかしたって痛えだけで、だったらカボチャかぶって笑い者になってたほうが断然気楽だよ!お前は女の子にきゃーきゃー言われる広告塔、俺は子供に群がられるゆるキャラ担当でいいじゃんか!身分相応適材適所ってヤツで」 「怒るぞ」 「は!?」 しどろもどろ怒って笑って卑下する俺を後ろから抱きすくめ、真剣な声色で囁くフジマ。 「今ここには俺とお前しかいないのに他のだれの目気にしてんだ」 図星を突かれて言葉に詰まる。 「巧を20年間見続けてきた俺が最高に可愛いって太鼓判押してるのに、有象無象の節穴を信じるのかよ。だとしたらお前の目ってジャックオランタンより節穴だな、からっぽでなんにも見えやしない」 「っ……でも」 往生際悪くごねる俺をもう一度抱き締め、肩口に額をもたせて言い聞かす。 「ちゃんと見て」 俺を。 お前を。 俺と一緒にいるお前を。 フジマのお願いに折れて、不承不承顔を正面に固定する。 長方形のスタンドミラーに映ったのは、オーソドックスな黒い生地と純白のプロンドレスのコントラストが鮮やかに映えるメイド服の男。 茶色い髪は無造作にはねまわって、中肉中背の身体は布の下に隠れてる。 「あれ?」 若干距離があるせいか、片目を眇めておっかなびっくり見てるせいか、覚悟していたより全然マシに見えた。 「思ってたより悪くはねえ……かな?」 フジマに毒されてとうとう俺の目までおかしくなっちまったのか、後ろからハグしてかけた魔法のせいか、鏡の中のもう1人の自分を新鮮に仕切り直して眺めることができた。 「言った通りだろ」 フジマは絶対俺を貶さない。 俺がどんな服を着ても可愛いと褒めて、手放しで受け入れてくれる。 どんなみっともない俺も笑わず晒さずに抱き締めて、全力で肯定してくれる。 「メイドさんてあんまり興味なかったけど、巧が着るとむらむらする」 言うことは最低だけど。うん。 「語彙力が裸足で逃げ出したぞ」 「ミニスカいいね。見えそうで見えないのがぐっとくる」 「常識で考えてポロリしたらやべーだろ」 「今夜はこれでする?」 「脱がすなら意味ねーじゃん」 「ちがうよ、脱がしてくのがいいんだって」 スカートを巻き上げて忍ぶ手をはたき、甲高い裏声で言ってやる。 「おふざけはやめてさっさとお茶を召し上がってくださいな、冷めてしまいますわよ」 「はあい」 フジマがいかにも残念そうに離れていく。 マグカップに口を付けてぬるい紅茶を嚥下、「そうだ」とフジマが思い出す。 「いいものがあるんだ、ちょっと待ってて」 フジマが服のポケットから取り出しのは広口の小瓶。 しゃれたガラス瓶の中には、砂糖をコーティングした紫色の花びらが詰まってる。 「何それ」 「巧の店で売ってたスミレの花の砂糖漬け。紅茶にあうっていうからナイショで買ってきた」 「あー……あったなそんなの、忘れてた」 フジマは何か企んでやがる。 上機嫌な笑顔で再び俺を呼びたて、自分のすぐ近くに座らせる。 「さっきのお返し。あーんして」 瓶のふたを捻って開け、砂糖をまぶした紫色のかたまりを一粒摘まみ取るフジマ。 「はあァああ?」 「あーん」 「気持ちは嬉しいけどフツーに食うって。あーんなんてする年でもがらでもねえし、メイドさんがご主人様に食わせてもらうってシチュからして間違ってんじゃん。スミレの花の砂糖漬け?だっけ、食べたことねえし。花の味すんの?」 若干引き気味に拒めど許さず、フジマは笑顔のまま紫色のかたまりをくちびるに押し付けてくる。 「ちょ待、おま強引」 「そっちもあーんしたんだからおあいこだろ。さあ口開けて、ご主人様の命令だよ」 「悪ノリやめろ、年一のハロウィンでテンションあげてんのか」 押し問答に疲れて大人しく口を開けりゃ、スミレの花の砂糖漬けを即放りこまれる。 「ん」 口の中に広がるふわりと優しい味、砂糖のコーティングが溶けたあと鼻腔に抜ける爽やかな香りにうっとりする。 甘過ぎずくどすぎず春めく仄甘さとでもいえばいいか。 「どう?」 「……わりかしイケる」 「だろ」 「ハイカラな金平糖って感じ」 してやったりと微笑んで瓶を膝によけておき、続けざま俺の肩に片手を移すや、スミレの後味をかすめとるようなキスをする。 「んっ、む」 くちびるとくちびるの先端が触れ合って、ただそれだけで敏感な奥の粘膜が疼く。 「っは、フジマんゥっ」 清潔なメイド服の内側、火照りを持て余した身体がキスだけで蕩けていくのがわかる。 「ハッピーハロウィン」 俺の唇を吸い立て、番いの小鳥のように啄んでから、スミレの砂糖漬けの何十倍も華やいだ笑顔を魅せる。 「俺の為にわざわざ?」 「ハロウィンだしね」 「タルト買ったじゃん」 「これっぽっちじゃ足りないだろ?タルトは2人で食べる用、スミレの花の砂糖漬けは巧にあげる用。一応彼氏なんだから、手抜きはしないでばっちり決めたかった」 お菓子かいたずらか、どっちかしぼれないなら両方選ぶ。 俺にベタ甘なフジマは、そんな欲張りだって笑って許してくれる。 自分も一粒砂糖漬けを摘まんで舐め転がしながら、少しだけ口惜しそうにフジマがぼやく。 「執事服返すの延期してもらえばよかった。釣り合いとれたのに」 「メイドが執事にご奉仕って職場恋愛感が半端ねーな、一歩間違えりゃパワハラだ」 「言えてる」 フジマが相槌を打って吹き出し、俺は砂糖漬けをもう一粒頬張ってから裾を払って立ち上がる。 「すーすーする。やっぱ落ち着かねー」 「ぬいでいいよ、動き辛いだろ」 「やだね」 フジマの気遣いを足蹴にし、ぽかんとする幼馴染の膝の上に直接座り直す。 案外具合がいい、特等席のようにすっぽり尻がはまる。 「巧?」 戸惑いがちに俺を呼ぶフジマの声が羞恥心を加速させるが、どっこいこっちも引き下がれねえ。 祭りの恥はかき捨て、メイド服を着りゃもろともだ。 俺のためだけにスミレの花の砂糖漬けのサプライズを仕込んだ、気が利きすぎる彼氏にちょっと位サービスしたってばちはあたらねえ。 「……悪戯。まだしてねーだろ」 衣擦れの音がやけにでかく響く。 耳たぶまで真っ赤に染めながら、くるりと身体を返してフジマと向き合い、スカートの裾を両手で持ってゆっくりたくしあげていく。 下はダサいトランクスで色気もへったくれもねえが、下着が見えそうで見えないギリギリまでスカートをまくりあげ、じれったげに腰を浮かせて言ってやる。 「トリックオアトリート」 きわどい所までスカートを捲って挑発すりゃ、さすがに意図を察したフジマが生唾を飲み、俺の腰に手をあてて力強く抱き寄せる。 「いいのか?服、皺になるぞ」 「俺がもらったんだからいいんだよ」 フジマの膝にまたがって股間を擦り合わせりゃ、ぞくぞくと痺れが駆け抜けて勝手に腰が上擦っていく。 「お菓子もいたずらも全部くれるって約束したじゃん」 メイド服で行為にのぞむのは背徳的だ。 フジマが俺の腰を掴んで抱き上げ、対面で座らせる。尻の下に固い物があたる。コイツ、ちゃっかり興奮してやがる。 「こーゆーのスキなんだ、変態」 皮肉っぽく口の端を曲げてからかえば、むっとしたフジマがスカートの下に手をもぐらせ、トランクスの生地越しに先端をしごきたてる。 「お互い様だろ」 「あッぅッあぁ」 ロングスカートに潜った手が複雑に蠢いて、気持ちよさに腰が浮く。 フジマは上目遣いに俺のよがり方を観察し、笑みを含んだ声音で嘲る。 「下着の中をぐちゃぐちゃにしてはしたないメイドさんだな」 「おまっ、えが、手ェ動かすからだろーがっ!」 「もっとおしとやかに喘がなきゃだめだろ」 「注文多いよ!」 「スカートが皺になる。じっとして」 サディスティックな指示にぞくぞくする。身体がどうかしちまったみてえだ。 メイド服の生地が肌を擦る都度皮膚がざわめいて、触覚がどこまでも過敏に研ぎ澄まされる。 「あッあッフジマっ、そこすげっあたる……ふあぁ」 開けっぱなしの口からふやけきった声がもれる。 フジマの物が窄まりをリズミカルに突き上げて、下着越しの刺激にはねまわるっきゃない。 もっと欲しい直接欲しい、早くぶちこんでめちゃくちゃにかきまわしてほしい。 でも自分で言うのは恥ずかしくて、苦しげに息を荒げ、前のめりにフジマにしがみ付く。 「ふあっあ、すごっ、でかい」 悩ましい衣擦れに弾む息遣い、物欲しげにひくつく先端と後孔。下着ん中のペニスはぼたぼた雫をたらしてそそり立ち、今か今かとその時を待ちかねている。 「挿れていいか」 声をだす余裕もなくくり返し頷けば、自分もとっくに限界だったらしいフジマが手早く下着をずらし、先走りでぬめったペニスを尻にねじこんでくる。 「ん゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」 フジマの上で大きく仰け反る。 挿入だけで軽くイッちまった。 「だめだこんなよすぎてあッ、ふぁああっ止まんねッ、あッやだ動くなフジマっふぁあ」 フジマの昂りと力みが抽送のペースで伝わってくる。 対面座位での行為は初めて、お互いの顔が至近距離でばっちり見えるせいか全身が羞恥と快感に燃え上がる。 「スカートはだけてるよ」 「見るっ、な」 涎をたれながして喚く俺をフジマが突き上げる。フジマの首の後ろに手を回し、胸に顔を埋めて身体の反応に知らんぷりをきめこむ。 スカートが広がる内側で深く深く繋がり合い、俺はフジマを一番奥まで咥え込み、フジマは俺の前立腺を凄まじい勢いでノックする。 「ふじっま、こんなおかしっ、あぁあすげっイい、ンあぅっふあっあ、スカートが腿に擦れてへんっ、にぁあ」 「ネコみたいな鳴き声」 前からも後ろからもどんどんあふれてくる。俺ん中に入ったフジマの物が脈打って、粘膜を擦り立てるたびに下半身から脊椎を通り、脳髄へと快感が駆け巡る。 「あッあッ、あぁあッ、ああっ」 振り落とされないよう俺の腰を抱え直したフジマが命じる。 「自分のかっこ見ろよ。メイドさんなのにスカートだらしなくはだけて、先走りで太腿べたべたにテカらせて、顔は涙と汗でぐちゃぐちゃ。すっごいえろい」 「言うなって……!」 恥ずかしくて死にてえ。でも気持ちいい。 俺とフジマ、二人分の先走りが混ざり合い濡れ光る太腿のべとつきなんて気にする暇もない。 はだけたスカートを直すのも忘れ、ぱく付く尻穴にフジマを咥え込んで跳ね回ってりゃ、もう一度命令される。 「顔上げて。目を開けて」 命令されるがまま薄目を開けりゃ、ぼやけた視界で規則正しく運動する影が映る。 それがスタンドミラーに映った自分の姿だと気付いて、思考停止状態に陥る。 「フジマっ、待」 一際すごいのがくる。 俺の腰を両手で掴んで力ずくで引きずり下ろすフジマ、前立腺をゴリッと抉られてまたイく、フジマの上でよがり狂って痙攣すりゃ鏡の中にだらしないメイドが映る。 「あっあ、ぁッあっ、ふぁっあ、あっああ」 倒錯した快楽に蕩けきった顔、肩からずり落ちた襟刳りと赤裸々にめくれたスカート、尖りきった乳首まで丸見えだ。 「あっ……」 「感じてるね、すっごい締まる」 「ふじまっ、あぁあっあやめ」 フジマは俺に鏡を見せて俺を抱く。 目を逸らしたのに逸らせない、鏡が余す所なく暴きたてる痴態を無視したくてもできず瞼を閉じても鮮烈に焼き付いて、全て忘れちまいたい一心で狂ったように腰を振りたくる。 「やめっ、ふぁぁっ、ンァっあ」 「ぐちゃぐちゃ音してるのわかるか。前、すっごい滴ってる」 「いちいち言うな……」 スカートの下でいたずらに手がもぞつく。尻にめりこむ圧が倍に膨らんで、入口から奥へ滑走する都度快感が弾ける。 「ふあっ、ぁっあっ、あっあ、ンふぁっあ、ぁッあぁ―――――――!」 前立腺をガツガツいじめ抜かれて軽率にイきまくる。 「ふっあ、ぁまッんぅっ」 「鏡を見なよ、どこもかしこもドロドロに溶けてる」 フジマが仰け反る首筋を啄んで乳首を甘噛み引っ張る、そんな事されたら体内がビクビクしてイくのが止まらなくなって呂律の回らない舌で途切れ途切れにせがむ。 「フジマっ、はぁっやっ、そこやっだめ、よせマジで余裕が」 手を突っ張って押しのけようにも密着しすぎて無理な相談、下手に腰をくねらしゃ俺を貫く物をよりキツく咥え込むハメになって、その間もフジマが射精にゃ至らない程度のぬるい力加減で突き回すせいで小さい絶頂がくり返し訪れ、全身を性感帯に造り替えていく。 「あっあっあっあっ――――――――――――――――――」 「さっきから細かくイきまくって感度がいいね」 ペニスがスカートを押し上げて形がハッキリ浮かび、鏡の中の俺が口にするのもはばかられる姿で腰を振る。 斜めに傾いだホワイトプリムは今にも頭からずり落ちそうで、スカートの前はぐっしょり濡れそぼり、いかがわしい染みができる。 「イくっ、ィくっ」 女のかっこで。 メイドのなりで。 絶対変だおかしいと抗い抜くには気持ちがよすぎて、フジマの物を尻にねじこんで半泣きで訴えりゃ、さらに固さと太さを増して奥を削る。 「あ――――――――――――――――――――――ッ!!」 「イッていいよ」 鏡の中のメイドが絶頂する。同時に俺も果てる。 「巧……っ」 体奥に生温かい液体を放ってフジマが痙攣、切なげに顔を歪めて束の間の余韻に浸る。 フジマの胸に倒れ込み、粘膜の痙攣が完全におさまりきるまでひたすらやり過ごす。 「服……汚しちまった」 俺とフジマと、二人が出した物で湿ったスカートを情けなく見下ろす。 フジマが汗みずくの頬に口付け、愛情こめた手付きでスカートの裾をおろしていく。 「巧メイドにご奉仕してもらえて、人生最高のハロウィンになった」 「一回きりだかんな。コスプレはこりごりだ」 「結構ノッてたじゃないか」 「合わせてやったんだよ」 「腰の動きに合わせてミニスカがだんだんはだけてくの、そそったよ」 「ムッツリスケベ。タルト喉に詰まらせて死ね」 抱き合って互いの鼓動を感じていると、床に倒れた瓶に目がとまる。ふと思い付いて手をのばし、紫色のかたまりを含む。 「ふひま」 「ん?」 こっちを向いた拍子に顔を手挟み、スミレの花の砂糖漬けを口移しで食わせる。 「ん……」 舌と舌が絡み合い、二人の温度で砂糖が溶けてスミレの花の爽やかな風味が広がる。 フジマは後ろ手を付いてされるがまま、俺は覚えたてのぶきっちょな舌遣いでスミレの花を転がして、舌と舌とを行ったり来たりさせる。 フジマの咽喉が動いたのを見計らって名残惜しげに唇をはなす。 「お裾分け」 「……なんでかな、さっきより甘く感じる」 「言ってろ」 人さし指で唇をなぞったフジマがそう独りごるもんで、勢いやっちまったあとになって恥ずかしさがぶり返し、瓶のふたを無駄に力一杯締め直す。 俺の照れ隠しを見抜いたのか、フジマが遠慮がちにスカートの端を引っ張る。 「んだよまだ何か」 「大好きだよ」 いい加減うざったくなって邪険に扱えば、不意打ちで囁かれて心臓が蹴っ躓く。 スカートを摘まむ手を振りほどく気が失せるほどその笑顔は満ち足りていて、すでにして腹一杯だった俺はお代わりを頼むガッツもなく、振り返りざまフジマの額を弾く。 「お互いさまだろ」

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