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フロム毘沙門天
山手線は痴漢のハッテン場にしてスリ師の梁山泊として知られている。
環状線に跳梁跋扈するツワモノどもが夢の跡、クセモノどもが群雄割拠する戦国時代も今は昔と不況のご時世で、電子カード隆盛となった昨今は実入りも甚だ寂しい。
世間様が不景気でしょぼくれてるならせめて夜遊びだけでも景気よく行きたいものだが、タネ銭がなければ風俗にも行けやしない。
ないない尽くしここに極まれりのどん詰まり、馬券を買うのだって金がかかる世知辛い世の中だ。
「ですからね羽生さん、私のおごりでラブホに泊まれたんだからむしろ感謝してほしい位ですよ」
玉城が眼鏡の弦を嫌味ったらしく押し上げる。
「その論旨はおかしいだろ」
「ネカフェに連泊の方がマシだと?」
「う」
「確かに最近のネカフェは設備が充実してますからね、リクライニングチェアにシャワー付き、至れり尽くせり大サービスです。いえね、どうしてもネカフェの個室が恋しいというなら止めませんがスイングドア越しのオナニーはなかなかスリリングでは」
「そこまで追い詰められてねえしネカフェオナニーの趣味はねー、じゃなくて。俺が言いてェのは何だってラブホの一室で天敵とツラ突き合わせてデバガメみてーなマネしなきゃなんねーのかって事」
「デバガメとは失礼な。れっきとしたおとり捜査、待ち伏せです」
「~~毎度毎度人をクソくだらねェ囮調査に駆りだしやがって……」
そこは異様な部屋だった。
新宿二丁目の歓楽街、もっぱらゲイカップルが贔屓にしてると評判のラブホテル。
けばけばしい蛍光ピンクのネオンで飾り立てた外観もさることながら、プライバシー度外視の鍵手渡し式には度肝をぬかれた。
さすがに入口に防犯カメラはあったが、受付のガラス窓の向こうには胡乱な半眼の老婆がいて、無駄に爽やかで愛想がよい玉城の手元に、阿吽の呼吸でキーを滑らせたのだ。
この道50年のベテランと見た。真実は知りたくない。
「パシリの分際でご不満でも?」
「もう駅関係ねーだろ。山手線なら仕事場だが2丁目は管轄外、アウェイだ。おわかり?」
「新宿は沿線じゃないですか」
「こちとら暇じゃねえ、電話一本で気軽に呼び出されちゃ困るんだよ」
「いい加減スマホに買い替えましょうよ羽生さん」
「るっせぇ愛着あんだよ」
「口では貶してもホイホイ尻軽に喰い付いてくれるから好きですよ」
「弱み握られてちゃ仕方ねー、余罪蒸し返されて留置所にぶち込まれんのはごめんだ」
「素直ないい子ですね」
ベッドの上で胡坐をかいて憮然と口を尖らす羽生。
三十路の大人げはどこへやら、大いにふて腐れた態度を玉城は実に微笑ましそうに眺めている。
羽生の本業はスリ師である。
山の手のハブと言えば知る人ぞ知る、知らない者は誰それ草な存在である。
中坊の頃からこの道まっしぐらに十数年、スリを天職と恃んで日々山手線に揺られ雨ニモ負ケズ風にも負ケズひたすらにスってスッてスリまくってきた羽生だが、その手癖の悪さが原因で生活安全課のエリート刑事に目を付けられ、執拗なストーキングと悪質なセクハラに音を上げた彼は、ガッツリ弱みを握られて性奴隷にまで堕ちてしまった。
なお性奴隷と書いてパシリと読むのが常識である。
男の名前は玉城。新宿署は生活安全課の刑事であり、羽生限定の痴漢の常習犯である。手癖の悪さなら現役スリ師に匹敵する食わせものだ。
羽生は毒々しい笑みを浮かべて皮肉る。
「お前が生活安全課ってタチわりぃ冗談だよな、マジなら俺の私生活守ってくれ」
「お忘れですか羽生さん、刑事は国家公務員です。お上に納税している国民には滅私奉公しますが、税金も払わずぶらぶらしてる三十路無職のプライバシーなど塵芥に等しく忖度する義理ございませんね」
「俺の人権は?」
「メルカリで売ってましたよ三円で。運が良ければ十円台に値上がりするんじゃないですか」
「眼鏡割るぞ人さし指で」
「突き指にご注意を。耐久性に優れたブランド物ですので」
くだらない口論をくり広げ、徒労のため息に暮れる。
電話一本で呼び出されて不承不承来てみれば、本格的に夜を迎えネオン輝く二丁目に拉致されて、なんと鄙びたラブホに引っ張りこまれたではないか。
この野郎痴漢だけじゃ懲りずに遂にラブホでと妄想逞しくしたが、よくよく話を聞いてみれば囮捜査の要請だった。羽生はがっくりうなだれて、ろくに手入れもしてないボサ髪を乱暴にかきまぜる。
「はア~~~~~……絶ッッッ対見られた、勘違いされた」
「いいじゃないですか、二丁目ではよくあることです」
「ゲイカップルに誤解されたんだぞ」 道中通行人の目が痛かった。周囲はその手のカップルばかりなので、いい具合に埋没していたと好意的に解釈できなくもないが……それにしたってコイツと恋人に間違われるのは不本意だ。
玉城が面白そうに呟く。
「どちらがタチでネコだと思われたんでしょうね?アンケートとってみればよかった」
「アホぬかせ」
玉城は華奢に見えるくせに馬鹿力だ。どうにか振りほどこうともがいても腕を組まれてたちうちできなかった。新宿駅構内で完璧な一本背負いを決める位だ、そりゃあ鍛えているんだろうが……
「…………」
妙にそわそわ落ち着かないのは軽薄な内装のせいだ、きっと。
ラブホのお約束で天井は一面鏡張り、ばっちりと顔が映る。壁紙はドギツいピンク色で、枕元の籠にはコンドームとローションの小瓶がちゃっかり用意されている。
「昭和感全開のインテリアだな」
「大人の玩具もレンタルできるそうですよ」
「どうやって?」
「ボタンを押すと上から落ちてきます」 玉城が枕元に埋め込まれたボタンを指さす。壁には管が通っていて、そこから各部屋にアダルトグッズが配送される仕組みだ。
「へー……こったアトラクションだな」 羽生は素直に感心する。
「『ご自由にお使いください』じゃ衛生面がアレですもんね」
「壊れねーのかな。配送間違いとかは」
「試してみます?」
「ぜってえイヤだ」
羽生は苛立ちを押さえて眉間を揉み、すっかり目的をはき違えた刑事に指摘する。
「テメェが俺を呼び付けた目的はなんだ? 隣の部屋にシケこんで、裏ビデオ撮ってる業者を上げる為だろうが」 それこそ羽生と玉城がわざわざラブホに泊まった理由である。
ベッドの端に腰かけた玉城は、鼻歌でも唄いそうな上機嫌で籠の中身をひっかきまわし、コンドームの綴りを閉じては開きする。
「もちろん覚えてますとも、本日羽生さんにお付き合い頂いたのはこのホテルを使ってゲイ向け裏ビデオを量産する悪徳業者を現行犯逮捕する為です。とはいえ、ドアをぶち破って踏み込むなど言語道断。後でホテル側に修理費請求されても困りますしね、最近は経理課も渋いのですよ。ならば撮影を終えて出てきた隙を狙うが吉と判断しました」
「他の捜査員どこよ」
「ホテル付近で見張っております」
「泊まってんじゃねーのか」
「こんな寂れたラブホテルに一晩に何組もチェックインしたら怪しまれるでしょうに」
一応は納得し、声を落として探りを入れる。
「……同じ課の奴にはなんて?」
「この手のヤマにめっぽう強い協力者がいる、とだけお話ししましたよ」
「それで通ったのか」
「コレでも生活安全課一の出世頭ですので。ケチなスリ師とは信用が段違いです」
「さては友達いねーな?」
銀縁眼鏡越しの目が光り、酷薄な笑みがチラ付く。「ねえ羽生さん、官僚組織なんてものは結果さえ出せば大概の都合が悪い事は見逃してくれるのですよ」 玉城はキャリア組のエリートらしい。なおたちが悪いことに、肩書に歴然とした実力が伴っている。羽生への非道な仕打ちの数々が黙認されているのも、玉城が上手く立ち回って証拠を握り潰しているからだ。
「検挙率ダントツの若手がやることなら大目に見てくれるって? 腐ってやがんな。フツーに同僚と組みゃいいだろうに物好きな……待て、この手の山にめっぽう強いってなんだよ」
「痴漢の場数踏まれてますし」
「痴漢は痴漢でもするんじゃなくてされるほうだし場数は踏まされたんだ無理矢理」
「囮捜査には最適の人材です」
「そもそも裏ビデオと関係ねーだろ」
「痴漢もの裏ビデオはマニアに大人気な鉄板ジャンルです」
「~やっぱ友達いねーだろお前、体育の授業で二人一組になってくださーいって言われるとぼっちになってたタイプだ」
「生活安全課の同僚は見た目からしてノンケか既婚者しかおりません」
「いや、俺もノンケなんだけど」「本場二丁目のゲイは目が肥えておりますから、ファッションゲイなど連れ歩こうものなら酸辣湯を食わされて肛門が火を噴きます」
「下品なたとえよせよ、中華料理に風評被害だ」
「なんなら回転テーブルに大の字で縛り付けロシアンルーレットの刑も」
「最高にイヤな満漢全席」
「敵もプロですからね、二丁目で浮いてればすぐ見破られます。そこへ行くと羽生さん、あなたはゲイやニューハーフの方々に局所的大人気。キュッと引き締まった臀部と泣きぼくろがエロい、ブチ犯してひんひん喘がせたいと評判です」
「今この瞬間ほど泣きぼくろ除去手術受けてーと思ったことねェ」
「留置所に入ればお尻合いが増えます」
「うるせえばか尻と尻あわせたらただの尻合わせだし皺と皺合わせたら皺寄せだよ」
「妻子持ちとラブホに宿泊は道徳的に感心できませんし」
「わかったわかった、消去法だなオーケー」
聞かなきゃよかった。聞いても胸糞悪くなるだけだ。
スリの現場を踏んだ弱みに付け込んで、今回もこりずに羽生を作戦に引っ張りこんだ玉城は、二丁目をそぞろ歩くゲイカップルを装って現場のホテルにチェックインしたのだ。
羽生は首を傾げる。
「受付のばあさんもグルか」
「もちろん」
「んじゃ防犯カメラ見せてもらえば一発じゃ……わざわざ隣室で待機しねーでも」
羽生のとぼけた発言に玉城はわかってないと首を振る。
「昨今の業者は裏ビデオを撮るのにわざわざ嵩張る機材など持ち込みません、なんならノーパソとスマホで十分。しかもワンクリックで削除完了、証拠隠滅できるときた。確実に立件に持ち込む為に、現場を押さえてブツを回収したいのです」
「仕事熱心なこった」
「惚れ直しました?」
意味深に微笑むマングース。何度見ても怖気が走る笑みだ。
羽生と玉城は犬猿の仲、改めハブとマングースの仲だ。両者の間に信頼とか絆とか友情とかはさっぱり介在しない。
先日の一件では意外な一面を見てうっかりほだされかけたが、アレは気の迷いだ。今夜だって電話一本で羽生をパシらせていけしゃあしゃあ隠れ蓑に使いやがったのだ。
ムッツリだんまりをきめこむ羽生をよそに、玉城が片眉を動かす。
「はじまりました」
「げっ」
壁越しに派手な喘ぎ声と呻き声が漏れてくる。両方とも太い男の声だ。撮影が始まったらしい。
「あッあッあッあ―――――――――!!」 一体どんなプレイをしてるのやら、ベッドの激しい軋みと高まる一方の喘ぎ声にいたたまれず胡坐を組み替える羽生。
「壁薄すぎだろ……丸聞こえじゃん」 そこへ玉城がスマホをさしだす。
「Googleの口コミ評価は2.9です。『壁が薄くて隣の音がだだ漏れ』『逆にそれがいい、興奮する』とか」
「防犯カメラ付ける前に内装工事しろよ……」
安普請の壁の向こうから響く物音のせいで集中できない。
「……手持無沙汰なんだけど。雑誌とかねえの?」
「携帯いじってればいいじゃないですか」
「電池とカネもったいねーから節約中」 こんなはずじゃなかった、最初からラブホに泊まると知ってればシカトしたのに……詳しい事情も告げられず連行された羽生は、暇潰し用の雑誌も持たず、ベッドの上でぶうたれる。
「ビデオ見ていいか? エロいの」
「有料ですよ」
「ケチ」
まあ、今回の事はマングースに噛まれたと思って諦める。
いい加減羽生も慣れてきた。
チェックインしちまったものは仕方ないと開き直り、裏ビデオ業者が仕事を終えるまでの数時間心を無にして耐えることにする。
胡坐で貧乏揺すりを始めた羽生を見かねたか、玉城が背広の懐に手を入れ、もったいぶってDVDを取り出す。
「堪え性がない人ですね……」
「なんだ、エロいのか? 熟女か人妻か女子高生か」 玉城にしては準備がいいじゃないか。こうなるのを見越してエロDVDを持参するとは気が利く。
玉城が傍らに伏せたノーパソを開き、DVDをセットする。
興味津々這い寄る羽生の眼前で動画が再生されて……
「ゲイビデオじゃねえか!!!!」 渾身のツッコミが炸裂。
「参考資料ですよ」
「しかも無修正かよ誰得だ!?」
玉城のパソコンにフルスクリーン表示されたのは、局部にモザイク処理など一切施してない裏ビデオ。タマと竿の皺までバッチリ拝める。
逞しい体格の男二人が全裸で絡み合い、互いにフェラチオしたり突っこんだりアナルセックスに耽ってる。
「別に余興でお見せしたんじゃありません、出待ちしてる人間の顔くらい知らせておくべきと配慮したまでです」
「ということは」
玉城がニッコリ微笑み、含みありげな視線を壁に流す。
「これがその裏ビデオって訳か……」 羽生はドン引きする。
玉城は楽しそうだ。
「もーいい、わかったから消せ。気分悪くなってきた」 羽生は異性愛者だ。普通に女が大好きだからして、無修正のゲイビデオに断じて興奮などしない。
液晶から顔を背ける序でに片手で遮れば、がちゃんと手錠が噛まされる。
「……ハイ?」
「言ったでしょうこのホテルは壁が薄いって。行為の物音は筒抜けです」
「現在進行形で痛感してっけど、それが何か」
「隣の部屋から全くその手の声がしなかったら変じゃありません?」
……展開が読めてきた。
「いや待て落ち着け、あちらさんは撮影に夢中で隣の部屋の事なんか気にしてないって。それにそうだ、どうしても不安だってんならスピーカーマックスにしてその動画流しときゃいい。冴えてんな俺」
「隣の部屋から聞き覚えある喘ぎ声が流れてきたら不自然では?」
ぐうのねもでない。
「一杯食わせやがったな」
「人聞き悪いですねェ、これも捜査の一環ですよ。向こうはまだ当分終わりそうにありませんし、羽生さんもお暇でしょ」
それに、と呟いて羽生の股間をまさぐる。ジーンズの股ぐらは苦しそうに張り詰めて、鼓動に合わせ脈打っている。
「勃ってますね?」
「! ……ッ、」
「自分がされたこと思い出しましたか」
図星だ。
羽生はゲイじゃない。したがってゲイビデオを見ても興奮しないが、男同士の激しいセックスシーンを目の当たりにするや、電車内や駅の個室で玉城に責められた記憶がぶり返し、勝手に股間が昂ぶってしまった。
羽生と羽生のアナルはもうすっかり調教済みだ。
『あっあァっ、いいッあっひあっああッあそこ―――――ォ!!』 カリ太の亀頭で突かれ、シーツを掻きむしってよがる男優。玉城のペニスはアレよりすらりとして形がいい。羽生はごくりと唾をのむ。
「離せド変態マングース野郎、手錠私物化すんな署の備品だろ」
動画のネコ役はガツガツ尻を掘られて気持ち良さそうに喘いでいる。
テントを張る前を隠そうと身じろぐも、玉城は慣れた動作で羽生のもう片方の手に手錠を嵌め、ベッドの支柱に繋いでしまうではないか。
「たまには変化が欲しいじゃないですか」
「~で、わざわざ二丁目に出張しやがったのか?」
「ベッドでしたことないでしょ?」
「マンネリ化憂いやがって……」
場所を変えたところでやってることは強姦だ。ギラつく目で睨みつける羽生に微笑み返し、器用に上着を捲っていく。
「! あッ、ァあ」
「脇腹が弱いんですよね」
「ぅッく、よせやめっうひひっ」
細くしなやかな手が脇腹をくすぐり、いたずらっぽく乳首を摘まむ。ヒク付く喉から色気のない笑いが漏れ、うるさく手錠を鳴らし諦め悪くばた付く。
「マジで洒落になんねーからな……囮捜査ってのも建前でヤることしか考えてねーんだろ!?」
「上手くすれば役得に預かれるとは思ってましたが」
「公私混同、職権乱用だろ」
「仕事はちゃんとします。その前に楽しんだっていいじゃないですか」
一呼吸おき、汗でしっとり湿った羽生の顔を手挟んで正面に固定。
「羽生さんにご褒美をあげたくて」
「ハッ、お灸を据えたくての間違いだろ」
「これでも仕事を手伝ってもらって感謝してるのですよ。電車内とか駅トイレの個室とか、衛生面で感心できない場所でばかりやってましたし」
「衛生面以外の問題デカすぎて霞むわ」
「立ったままはキツいでしょ」
コイツ、俺の身体のこと考えてくれてたのか……確かに立ちバックは腰に来る。目を見て優しく微笑まれ一瞬ほだされかけるも、我に返ってがなりたてる。
「~~~~んッッッとに感謝してるってんなら謝礼払うか吉野家おごってもらうがずうっと有り難いぜ」
「牛丼一杯で買収できるなんて安いですね」
「紅ショウガと玉ねぎ特盛だ」
両手を封じられた腹いせに勢いよく足を蹴り上げる。玉城改め優しい強姦魔は、羽生の胴に跨って上半身をまさぐり、なんと乳首を吸いだす。
「! んあッ、ァく」
「羽生さんの乳首、紅ショウガの色になってきましたね」
「こっぱずかしい戯言ほざいてんじゃね……っ、やめろ…… 野郎の乳首吸って何が楽しい……」
「日頃のお礼をこめて今回はサービスしてあげます」
「せめてシャワー行かせろ……汚ね」
「後の祭りです。私と手錠して一緒にシャワー浴びますか?」 潔癖症っぽい外見なのに、シャワー行かなくても平気だと言うあたり神経が図太い。
息が上擦り始めた羽生を見下ろし、背広を脱いだ玉城はニンマリほくそえみ、嬉々として乳首をいじめだす。
「うあっ、あァっあ!」
長く綺麗な指で揉み搾り、押し潰し、しこり転がす。胸の突起を刺激され甘い痺れにわななく。時折は上下の唇で食み、優しくねぶって吸い立てる。
男に、それも天敵に乳首を吸われる恥辱と憤怒で脳裏が真っ赤に燃える。
「敏感になりましたね。乳首責めだけでイケそうだ」
「言う、なッ……はァ」
突っ張った声が甘く蕩ける。玉城の舌は熱く柔く、羽生の乳首に絡み付く。丁寧に唾液を塗された乳首は淫靡に濡れ光り、それと比例して股間がギンギンに猛っていく。
体が変だ。乱暴にされるのは慣れている。強引に体を開かれるのも……でもコレは体験してない。手錠を噛まされてるとはいえど、ベッドに寝かせて前戯に手をかけている。
「山の手のハブなら手錠を外すのも楽勝ですよね。大ヒント、鍵は背広の胸ポケットです」
「それ答えだろ……」
乳首はビンビンに勃起して、玉城の吐息にさえはしたなく感じる始末。と、玉城が急に前屈みになってギクリとする。いよいよか―……観念してキツく目を閉じるも、あっさりと影は去っていく。続いてゴトン、と鈍い音。不吉な予感がこみ上げて目を滑らせば、管からベッドの上へ、ピンクローターが吐き出される。
「価格表見ると一時間レンタル無料だそうな。使わなきゃ損ですよね」
「やめッ……」
「じゃあ違うのにしますか。バイブに電マにアナルパール、よりどりみどりです」 結局使うんじゃねえか。
「オモチャは勘弁してくれ」
「でも好きですよね。前にアナルパールで嬲られた時なんか、だらだら涎たらしてはしたない顔で喘いでましたし。
ローターの振動だって気持ちいいでしょ」 玉城の声はとことん優しい。スイッチをオンにすれば手の中でタマゴが唸りだす。微弱に振動するピンクローターの先端が突起の片方にあたった瞬間、羽生は仰け反る。
「ッ―――――――――――!?」
「真っ赤ですね」
「ふあっァあ……離せそれ、やめ……び、ビリビリして頭へん、に」
たどたどしく舌がもた付く。玉城は構わず、反対の乳首にたっぷり数秒間ローターを押し付ける。羽生の身体が跳ね、甘い呻きをもらす。
「んッあぁ、や、とれよっ悪趣味の度が過ぎるぞテメェ、んッあうっひッあ」
「ご自分に使った事は?」
「ねェよ……ッ、お前にだけだ……」 右と左交互にローターを押し当ていじめれば、羽生の眼がとろんと濁り、ズボンがズレた腰がいやらしくくねりだす。玉城がローターを唾液で濡らし、ズボンの上から羽生の股間にあてる。
「あっァ」
「一番弱いのに?」
「嘘……」
ギチギチに張り詰めた先端にローターを押し付けられ、羽生が情けなくべそをかく。その痴態を心ゆくまで視姦しながらカチカチとダイヤルを回す。
「あッあ、たまぐすっ待っコレ強ッあふァあすっげびりびりして」
「やれやれ。山の手のハブともあろうひとが、すっかり牙を抜かれてしまいましたね」
股間から伝わる振動にたまらなく腰が疼く。玉城がダイヤルを最大値に設定、ビーッと甲高い唸りを上げてローターが暴れだす。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ゛!!」
咄嗟に奥歯を噛んで耐えるも羽生は涙目、股間を直撃するすさまじい刺激に踊りだす。壁の向こうからも喘ぎ声、放置されたノーパソからも三重奏の喘ぎ声が響く。
「何分……いえ、何秒もちますかね」 じれったい。もっとほしい。服の上からじゃ物足りない。
わかっててじらしてやがんだ性悪め。
「ローターで悦ってんじゃねえぞ変態野郎……」
「物欲しそうな顔ですねェ」
罵倒に覇気がない。お預けの辛さに腰がもぞつく。ローターはMAXのまま、羽生の股間に密着している。「上手におねだりもできないんですか?」
「誰が、」
抗議を素早く封じて手が動き、暴れるローターが下着の中へ直接放りこまれる。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っあああああああ!?」
ドでかい声がした。ズボン越しの刺激でもイッてしまいそうだったのに、恥ずかしい染みを広げたトランクスの中央にローターを入れられたのだ。先走りを吸ったトランクスがローターを押さえこむせいで、逃げることさえできやしない。
「あッんぅっやめっ、とれコレいい加減にっ、ロっ、ローターなんか使って面白れェのかよぅあっあ」 悔しさと怒りで涙がにじむ。玉城が羽生のズボンを脱がし、湿った下着の中に手を入れてローターを動かす。
片手でダイヤルを回し強弱を調整しながら、もう片方の手でペニスの裏筋や袋、鈴口へと次々押し付ける。
「いい声だ……偽装は完璧です」
暴れるほど手錠が食い込んで痛い。羽生はしゃくりあげ、往生際悪く玉城を蹴り上げようとするも、すぐさまローターで鈴口を圧迫され膝が萎える。絶頂は近い。
ローターと一緒にペニスをこねくり回し、玉城が優しく囁く。
「まずは一回、イくのを許します」 頭の中が真っ白に爆ぜる。
「あ――――――――――――――――――――ッ!!」 ビクビクとペニスが跳ね白濁をまきちらす。休む暇など与えられない。射精に至ったペニスにはローターが固定されたまま、すぐまた力を取り戻していく。
「痛ッぐ、気が済んだならとっととどかせよ」 果てた直後にローターで責められるのは辛い。ところが玉城は萎えしぼんだ羽生のペニスにぐるぐるコードを巻き付け、ピンクの卵がちょうどいい所にくるよう調整するではないか。
まさか。
「いきますよ」
羽生の足を抱え、先走りと精液がたれて濡れそぼった肛門へずちゅりと挿入。
「~~~~~~~~~~~~~んぅっぐ!?」
「意識……飛ばさないでくださいね。後始末が面倒なので」
玉城の顔が目と鼻の先に迫る。
羽生に脅しをかけてからゆっくりと抽送開始、彼の中をならしていく。
本来もっと痛いはずだがペニスに固定されたローターが絶え間ない快感を送り込んでくるために、圧迫感も大して気にならない。
「よせっうっくぁ、ぬッけってこンな、頭おかしくなるッ
……」
狂ったように暴れ続けるローターが痛みと違和感を散らし、羽生が顔真っ赤で呻く。玉城はリズミカルに動く。ローターが気持ちいい、下半身がぐずぐずに溶けていく、玉城が羽生の足を掴んで揺すり立てる、前立腺をくり返し突かれて喉が仰け反る。
「でるッ…………!」
前から後ろから、両方から襲う刺激に責め立てられ、脳裏で閃光が爆ぜる。羽生はまだ抜かない。ローターもオンのまま、ザーメンと先走りの汁に塗れたペニスを緩く縛っている。
「もっむり、むりだってばか死ぬっ死ぬ」
「可愛いですね……呂律回ってませんよ」
「お前の電話なんてぜってー出ねえ、メールも即ゴミ箱行きだ」
「ツレないことおっしゃらずに最後までお付き合いしてください」
「尾っぽ噛んで死んじまえ!」
「喉笛食らい付かれるなら本望です」ぐずる羽生をなだめるようにこめかみにキスをし、激しく腰を叩き付ける。
マングースは絶倫だ。都合三回犯された。
「もう一時間ですか、早いですね」 スマホのアラームがタイムリミットを告げ、玉城があっさりコードをほどいてローターを外す。羽生はぐったりベッドに突っ伏したまま、憎まれ口を叩く気力体力すら尽きている。
隣の部屋から撤収の気配がする。
「敵も動き出しましたね……死んでる場合じゃありませんよ、起きてください羽生さん」
身支度を整えた玉城が颯爽と立ち上がり、鍵を突っ込んで羽生の手錠を外す。羽生はのろくさ起き上がり、裸の上半身にシャツだけ羽織って玉城を睨む。
玉城の横にへばり付き、少し開けて廊下の気配をうかがっていた。
今だ。
勢いよくドアを開け放ち、手帳を開いて廊下に飛びだす。
「新宿署生活安全課です、あなたがたを逮捕します」
「!? くそっサツか、ハメやがったな!」
「ええまあ、ハメましたけど」
「ああ゛ッ!?」「逃げても無駄です、入り口は仲間が塞いでますので…… 聞いてませんか全く」
蹴っ躓きながらズボンに足を通して漸く外を覗くと、ノートパソコンを抱えた中年男が泡を食って喚きたて、男優と思しき二人の青年が素早く逃げていく。
「今はノーパソ一個で編集完了できるから便利ですね」
「はっ……だったらワンクリックで証拠隠滅できるのもご存知だよな!?」
男優さえ逃がしてしまえば安心と開き直ったか、廊下のど真ん中で玉城と対峙した業者が、大仰な動作でデリートキーを押そうとする。
させるかと玉城が動いて男に肉薄、鳩尾にタックルし吹っ飛ばす。
「パソコン確保してください!!」
投げ出された衝撃で床を滑るノーパソを足で止めた羽生めがけ、玉城と縺れあった男が駆けてくる。
「返せ!!」
「はいよ」
呆然とする玉城を完全無視、男の手元へノーパソを蹴り戻す。
「羽生さん……?」
「されるがままだと思うなよ」囮捜査と騙されてラブホに連れ込まれローターでさんざんいじめられたのだ、協力してやる筋合いはねえ。
「よっしゃ、コレで安全だ!! ふはははは証拠は完全消去だどうだ捕まええられるもんなら捕まえてみろよ生活安全課ァ!!」
無修正のゲイ動画を削除して仁王立ち高笑いする業者の横を素通り、玉城がまっすぐ羽生に近付く。
「お遊びが過ぎますよ」
眼鏡のブリッジを人さし指で押し上げて、やんわりと窘める。
「いい子だから渡してください」 羽生は忌々しげに舌打ち。
「……バレてたか」
「パッと見似てますがよーく見ると別物ですし」
「何の話だよ?」
わけもわからず不安がる業者は蚊帳の外に、羽生は後ろ手に隠したノーパソを渋々玉城に突き出す。
業者が使っていたのと同じ機種のパソコンを。
まんまと証拠物件を回収した玉城は会心の笑みを浮かべ、顎が外れんばかりに驚愕する業者を振り返る。
「残念ながら、それは私の愛用しているノーパソです。あなたが撮影および編集に使っていたのはコレ……ああ、バッチリ撮れてますねェ画質も素晴らしい。署に帰れば指紋も採取できますね」
軽やかにキーを操作し今しがた撮られた映像をチェック、ラブホテルの廊下に大音量の喘ぎ声が虚しく響き渡る。
「テメェが撮った裏ビ間違えるってテンパりすぎだろ」
「男優も同じ方を使ってたみたいですし仕方ありません。
ていうか、気付いてましたよね?」
「……声が同じだったからな。勘だよ勘」 羽生は苦りきった顔で答える。
玉城に無理矢理見せられた動画から聞こえた声と、壁向こうから響く男の声は全く同じだった。
しかも部屋まで同じときた。上手くすりかえれば一瞬の足止めになるはずだ。
「念のためメールに添付して署に送信しました。言い逃れできませんよ」
「騙しやがったのか……いけ好かねえデカどもだ」
「お間違いなさらず。私はれっきとした刑事ですが、彼は善意にして任意の協力者です」
「と書いてパシリと読む」
「何か言いました?」
「空耳アワーだろ」
「どうせならセフレとフリガナふってください」「ごめんこうむる」
証拠品を押収され、すっかり大人しくなった男に手錠を噛ます。
階下が騒がしいのは、表で張り込んでいた玉城の同僚が逃げた男優を捕まえたからか。
「本日はご協力誠にありがとうございました。今度吉野家おごります」
「もう二度とかけてくんな」
「ツレませんね……ベッドで愛を語らうのはお気に召しません?」
「手錠噛まさなきゃ勃たねーのかよ異常性癖者」
「お互い傷付かない為の知恵ですよ。私は柔道黒帯なのでぶっちゃけ手錠など掛けずとも捻じ伏せられますが、可愛い羽生さんが悪あがきで自傷したら心が痛みます」 しれっと取り澄ました玉城の労いに、よっぽど何か言い返そうか悩んだ羽生だが、続く言葉にその気も失せる。
「それに……こっちの方が興奮しません? 刑事と犯人のシチュ萌えコスチュームプレイです」
「職業病だな」
変態の寝言は聞き飽きた。これ以上付きあってられっか。
だるい腰に鞭打ってさっさと帰ろうとしたところ、玉城がスマホでどこへやら書きこんでいるのに気付き、出来心から覗きこんだ羽生は目をひん剥く。
『Google のクチコミ(62)
新宿二丁目××―×× ホテル毘沙門天
評価★★★★★
セフレとチェクインしたんですが、端的に申し上げて最高でした。
壁が薄くて隣の物音が筒抜けなのがとても倒錯的で興奮します。
彼とは電車やトイレの個室でのプレイが主だったんですが、たまには趣向を変えてベッドで励むのもオツですね。ちょっとした恋人気分が味わえました。
ボタンをぽちっとするだけでアダルトグッズをリクエストできますし、ローターの振動も絶妙で、Мっけのある彼もどぴゅどぴゅ噴いて悦んでおりました。手錠を掛けるのにちょうどいいベッドの支柱もあるので、SM好きな同志はぜひお試しを。次来た時はちがうオモチャに挑戦』
「いや次ねえから!!!!!!!!!」
羽生の受難はまだまだ続くのであった。
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