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第2話

黄色いタクシーが道路を駆け抜け、信号がかまびすしく点滅する猥雑な街並み。コンクリ壁を埋め尽くすグラフティを巨大な書割に見立て、スケボーに乗ったティーンエイジャーが宙がえりをきめる。 大学の構内を出た足でダウンタウンを歩きながら、ピジョンは心理学の本を読んでいた。大学の図書館で借りた本だ。レポート提出の期日が迫っているのもあり、勉強には一層熱が入る。 「思春期の準備段階として児童期後半を移行期と称する。また9歳から11歳にかけてを仲間意識を身に付けるギャングエイジ、運動神経を伸ばすゴールデンエイジと称す……へえ、面白いなあ。確かにあの年頃の悪ガキはギャングみたいなイタズラするよね」 分厚い専門書のページをめくり、行間の密な記述に感心する。次いで思い出すのは弟の記憶だ。 「スワローにも手を焼かされたっけ」 いや、現在進行形か。 反抗期の弟の悪辣さを回想し、苦笑いで独りごちる。 走行車の排気ガスが路上のごみを吹き散らし、ピンクゴールドの繊細な髪をなでゆく。 「おっと、」 めくれたページを押さえると同時、ピジョンの足元に何かが当たる。バスケットボールだ。ふと見上げればコンクリ打ち放しのバスケットコートで、カジュアルな服装の悪ガキたちがゲームに熱中している。 「とってー」 金網で区切られた向こう側、オーバーサイズのトレーナーを着た少年に両手で催促され、ピジョンは「OK」と気さくにこたえる。栞を挟んで本を閉じ、それをご丁寧にリュックにしまってから両手でボールを抱えてトスする。 この位置からバスケットボールまではかなりの距離があるが、もし一発でシュートがきまったらカッコいい。 そんな出来心が芽生えてボールを投げた結果、長大な放物線を描いて金網をとびこえ……られず、がしゃんとど真ん中に当たる。 「惜しい、失敗」 転々とはねて戻ってきたボールに頭をかく。ピジョンの間抜けさにコートに散らばった少年たちはドッと沸き、それに怒るでもなくお人好しな苦笑いを浮かべ、今度は無理せず金網の手前まで行ってボールを渡す。 「どうぞ」 「サンキュ」 試合が再開し、少年たちがボールを追って走り出すのを微笑ましく見守る。 その時だ。 「ッ……!?」 『アレ』がきた。

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