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第9話

 「泣いて喘いで腰ふって楽しませてくださいよ、先輩」  シャツの襟元を指で寛げ、喉を晒す。  暴かれた肌の白さに妙な色気が匂い立つ。  今が昼間で、職場に他の人間がいたら、千里が襟を寛げたところでなんとも思わなかった。  でも、今は。  ふたりっきりの深夜のオフィス、書類や小物が散らばった惨状。  机から見上げた千里は昼とは別人のようだった。  昼間は輪の中心で笑っていた。  上司にはきはき受け答えし同僚に愛嬌ふりまき、課のマスコットとして可愛がられていた。  だが今は。  「はなっから一人で楽しむつもりのくせに」  濁流の如く脂汗が滴り、目を塞ぐ。  ちょっと動いただけで中に突っ込まれたもんが腸壁を擦って、新鮮な激痛を生む。  体をふたつに引き裂かれるような痛みに生理的な涙がにじむ。  俺の気を紛らわせようとでもいうのか、背中にひっついた千里が呟く。  「無麻酔手術を受けてるみたいですね。でも子供産む時ほど痛くないですよ。安心しました?」  「全ッ然……だいたい、入ってくるのと出すのと、同じ次元で語るなよっ……!」   アホな会話。第一、出産経験も予定もないから比べようがない。  当たり前だ、俺は男だ。  男だぞと自分に再確認、現状の異常さに混乱する。  俺は男で、俺の背中におっかぶさてるのもまた、男だ。  俺より二歳年下の後輩、千里。  交尾される雌犬のように間抜けに尻突き出した俺におっかぶさって、髪をくしゃくしゃなでまわす。  「はっ………」  髪をかきまぜる指の動きに、陶酔のため息が出る。  頭皮まで敏感になったんだろうか。  千里の指が髪を巻きこみ頭皮を擦るたび、首のうしろが毛羽立つ。  体中、どこもかしこも、性感帯になった気がする。  これが、仕込みの成果か。たった一晩で、こんなふうになるのか。  最初は同性の指を拒んでいた肌が、今はうっすらと汗ばみ、期待値の高さを示すように紅潮している。  「色っぽいですよ、久住さん」  久住さんか、先輩か、どっちかにしろ。二人称が安定しないヤツめ。  さん付けと先輩と二股かけて俺をなぶり、ゆっくり髪をかきまぜる。  「どうですか、僕が入ってる気分は」  「……最ッ、悪……尻が痛くて、中が熱くて……ごりごり、削れてっ……焼け火箸突っ込まれてるみたいだ……」  「出血はないですね。たっぷりジェル使って慣らした甲斐があった」  「!っあ、ぅあっぐ」  千里が中で動く。  腸内に溜まったジェルが抽送に伴い攪拌され潤沢な水音をたてる。  下肢を引き裂く痛みに腰が跳ねる。  体の中に、千里が入ってくる。  熱く脈打つ肉の塊がめりこむ。  「ひあっ、ぎ………ぐ……」  痛すぎてものを考えられねえ。  内臓が圧搾され、空気の塊が喉に栓をする。  息が、できねえ。  汗と涙がだらだらと混ざって流れる。口に入りこんでしょっぺえ。目と鼻と毛穴から滂沱と流れる体液で顔がべとついて猛烈に不快だ。  「ーっ、きっつい……さすがに初めては狭いな……指なら楽勝で入ったんだけど」   「……さ、とっ……中、も、抜け……息、できね…………」  千里の声は、遊びで猫を水に沈めるガキみたいに無邪気だ。  俺が酸欠で死んでも、にこにこ笑ってるんだろう。  千里はにこにこ笑いながら猫が溺れ死ぬのを、だれかが痛がるのを眺めてられる人種だ。  ねっからのサディストだ。  俺が喚けば喚くほど興にのり、苦痛を与える。  次から次へと痛め付ける手段を考え出し、好奇心から実践する。  「久住さんの中、すごく狭い。食いちぎられそうだ。それにすごく熱くて、締まる」  変態の寝言に耳を貸すな。  気をしっかりもて。意識を投げ出すな。投げ出したら最後、なにされるか……  薄れかけた意識を必死で掴み、縋る。  俺は今、千里に突っ込まれてる。  女みたいに、犬みたいに、後ろから……会社のオフィスで。後ろからごりごり突っ込まれて、発情した犬みたいに、物欲しげに息を荒げてる。  自分の机に上体を倒して。  書類の山はなだれて床に散らばって。  酷い有様。後片付けが大変だ。  脂汗が流れ込み霞む目で惨状を視認、ぼんやり考える。  現実逃避か。そうかもしれない。  今されてることを忘れたい。  時間を巻き戻して、全部なかったことにできたらいい。  栄養ドリンクの蓋をあける前、受け取ったとこ、いや、そもそも千里と会話を始めちまったとこからやりなおしたい。口もきかず、目も合わせず、無視してりゃよかった。いないものとして扱ってりゃよかった。  そうすりゃ今の事態は回避できた、俺は今頃残業終えて資料を仕上げてマンションでインディとー  「時間、巻き戻したいですか」  頭の中を覗かれぎょっとする。  反応で確証を得たらしく、腰を引き寄せながら囁く。  「わかりますよ。すぐ顔に出るから。……僕と残業したこと、後悔してるでしょ」  「当たり、前だ……強姦されるってわかってたら、誰が……」  「口もきいてくれませんでしたね。話しかけても、最初無視しましたし」  「無駄口叩く暇あったら、一分でもはやく資料上げて、そっこー家帰って、クリスタルスカル観る……」  「仕事熱心で感心。責任感の強さが仇になりましたね」  杭の侵入がやむ。   机に縋り、呼吸を整える。  背中に汗ばむ肌が密着する。  腰を掴まれ、中にぬるりと擦り付けられる。  「……仕返し、なのか……」  無視したから。邪険にしたから。だから今、仕返しされてるのか。  俺の、自業自得か。  割に合わない。  「………俺が………嫌いだから……他の連中みてえに、ちやほらしなかったから……根に持って……っは……復讐してんのか………」  心が砕け、嗚咽と一緒に弱音が漏れそうになる。  泣くな馬鹿。二十五にもなって、男がめそめそすんじゃねえ。安子にふられた時だって泣かなかったのに、今泣いてどうする。しゃきっとしろ。こんなやつの前で泣くな。調子づかせるだけだ。鼻の奥がツンとする。瞼が熱くなる。塩辛い水が喉の奥をぬらす。  俺は、俺なりに真面目にやってきた。一生懸命やってきた。安子のことだって、ちゃんと考えてた。愛してた。  何が悪かったんだ?  ダメ男の思考だ。自己弁護と自己嫌悪の悪循環だ。  理不尽だ。納得できない。  腹の底で不満が燻る。  『ズミっち、安子の話聞いてくれなかったね』  『他の人と付き合ってるのにも、妊娠したのにも、気付かなかったね』  『口を開けば「疲れた」「忙しい」「邪魔だ」ばっかで、話もできなくなっちゃった』  安子の声が耳に響く。詰るでも責めるでもない、哀れむ声。失ったものを追悼する表情。  熱いうねりが、腹の底から喉へとせりあがってくる。  「俺が悪いのかよ」  机に顔を伏せる。  肩がひくつき、叫びどおしで痛めた喉から、ぞっとするような声が出る。  「疲れたって、忙しいって、言っちゃだめなのかよ。一日の終わりに、弱音も吐いちゃだめなのかよ。課長に細かい数字の事でぐだぐだ言われたとか、新人のミスで迷惑したとか、取引先から苦情の電話でキレそうになったとか、パソコンの調子が悪くて叩いたらショートしたとか、言っちゃだめなのか」  俺が全部悪いのか。俺が不甲斐なかったから二股かけたのか。俺を捨て、玉の輿に走ったのか。   俺がしてる会話は、安子にとって、会話じゃなかったのか?  俺が望むものと安子が望むものは、どっかですれちがってたのか。  「あいつだから言えた。あいつ相手なら言えたんだ」  安子を信頼してた。安子になら上司や同僚に聞かせられない職場の不満や愚痴や弱音も言えた。ふたりっきりのときだけ、口が軽くなった。  安子は俺の大事な  「ゴミ箱だったんですか」    「ゴミ箱?」  「だってそうでしょ。不満や愚痴や弱音を吐いてすっきりするためだけにそばにおいてたのなら、それ、ゴミ箱がわりってことでしょ。一人の人間として扱ってない、女性として認めてない。駿河さんはわかってたんですよ、自分がゴミ箱だって。もっとちがう話もしたいのに、させてくれない。久住さんは口を開けば不満と愚痴ばかりで、駿河さんはずっと、大事な話を打ち明けるタイミングを逃してたんだ。久住さんはそれに全然気付かなかった、とうとう手遅れになるまで」  愕然とする俺の視線を受け止め、千里が笑う。  「最後に会話らしい会話をしたのはいつですか?」  言葉を失う。  「ほら言えない。久住さんは彼女をゴミ箱同然に扱ってたんだ、一方的に不満を吐き出してすっきりするためのゴミ箱としてね。駿河さんに口があるの、気付かなかったんですか?彼女は耳しか付いてないのっぺらぼうだとでも?一方的に言いたいこと言うだけなら口なんて必要ない、耳以外いりませんよね」  「ちが……」  「駿河さんは久住さんに遠慮してたんですよ。自分だって愚痴や不満一杯あっただろうに、いつだって彼氏を優先して受けとめてあげた。自分が辛い時でもね。久住さんはそれに甘えてたんだ。思い出してくださいよ久住さん、駿河さんから職場の愚痴こぼしたことあります?久住さんの話をさえぎって、今日会社でねとか話し始めたことは?」  なかった、一回も。  「甘ったれ根性がぬけきらないのはどっちだか」  千里が失笑する。  「他人の事を考えてないのは、久住さんのほうです。一番身近な他人の気持ちをないがしろにしといて、偉そうに説教ですか」  「俺は」  言い返したいのに言葉が出ない。続かない。  心臓がばくばく脈打つ。  つきつけられた事実の重みにうちのめされ、支えを失った体がぐらつく。  俺はさっき、なんて言った。  『ちょっとしたミスなら大目に見てもらえる。かなりのミスも許される。地雷を踏んでも足取り軽くて気付かない。尻拭いする方の身になってみろ。世渡り上手なお前はいいよ、みんなに大目に見てもらえるんだから。けどな、お前が失敗やらかす影で、フォローに回ってる人間がいること忘れるな。お前のミスの穴埋めで、てんてこまいしてる人間がいること、忘れるなよ』  自分の事を棚に上げて、先輩ぶって、えらっそうに説教して。  ほかならぬ俺自身が、大目に見てもらってたのに。  「好きだの愛してただの、口先だけでしょ」  「ふざけんなっ!!」  唾とばし怒鳴る。    「……お前になにがわかる、俺は安子が好きだったんだよ、ちょっと頭は足りないけど可愛くて料理上手でいい女だったんだよ」  「黙って笑って愚痴も聞いてくれる都合のいい女?」  声を出すたび、中に入ったものが腸壁を抉り、激痛が走る。  萎えそうな膝を気力で支え、机に被さり、断固として首を振る。  「あいつを、馬鹿にするな。俺にはもったいない女だった。いっつもしかめっつらで、人付き合い悪くて、言葉もきつくて。孤立してた俺に、真っ先に声、かけてくれたんだ。タン塩食べにいこって」  「それ焼肉のおごりめあてじゃ……」  わかってるよ畜生。焼肉から始まる恋もあるんだよ。  言い返したいのに、胸が詰まって、言葉が出ない。  込み上げる熱いものが胸を押し塞ぎ喉を焼き、往生際悪く首を振って抗う。  「セックスの話聞かせてくださいよ」   「!!あっ」  乱暴に腰を引き上げ、中途半端に突き刺さったものを、一気に奥へとえぐりこむ。  「彼女とはどんな体位で楽しんだんですか。正常位?バック?場所はベッドの上?床?外?フェラチオしてもらったんですか」  「………黙れ変態………」  「頻度は週何回?久住さん、そうがっついてるようには見えないけどな。彼女、欲求不満だったんじゃないですか。だから他の男に走ったんですよ」  「言うな………」  「久住さんが満足させてあげてればこんな事にはならなかった。きっとノーマルで退屈なセックスなんでしょうね。駿河さん、騎乗位すきそうな顔してるけど、試しました?久住さんてなんか、相手が男でも女でも上より下のほうが似合いますよね」  「言うなって……やめろ……こんな状況で、もちだすな……」   「こんな状況って?前は半勃ちで、後ろにぐちゃぐちゃ突っ込まれて、肌が上気して……あんまりよすぎて腰から砕けそうな状況で?男に犯されて感じまくって射精まで秒読みの状況?こんな状況で女性を抱いてたこと思い出すのはいっそうみじめで屈辱的だって?」  ねちっこい揶揄が蛇の舌のように耳をなめる。  恥辱で体が発火する。怒りで頭が煮える。中に入ったものが充血した粘膜をこすって前立腺にあたるたび、勝手に腰が跳ねる。  「あっ、うあ、あく、やめッ……」  「前立腺にあたってるの、わかります?ちゃんと奥まで届いてるの」  「はっ、っくはふ、はッ……」    必死に息を吸う。  手首の感覚がなくなってる。  体重を支える膝ががくがく震え、机からずりおちそうになるのを寸手で堪える。  「こりこりしてる……ここ打つと、気持ちいいでしょ。反応がよくなるの、わかりますよ。腰が上がって、もっともっととねだってくる」  「……れは、かってに……よがってるんじゃ、ね……おまえが、へんに、動く、から………ッは!?」  瞼の裏で閃光が爆ぜる。  前にもぐりこんだ手が、勃起した俺自身を、ぐっと掴む。  「こんなにしといて」  俺自身に這わせた手をゆるゆる動かす。  根元から先端にかけしごかれ、後ろに突っ込まれたもんでぐちゃぐちゃかきまぜられ、意識が飛びかける。  「同性とやるの、初めてですよね。それでこんなになっちゃうなんて、溜まりすぎです」  千里はまだ口をきく余裕がある。  涼しい顔に笑みを浮かべ、俺の前を意地悪くいじくり、鈴口に先走りの汁をぬりこめる。  前から後ろから違う刺激で責め立てられ、腰の真ん中で快感がせめぎあう。  「ち、さと……さわんッ、な……そ、こ……後ろだけで、十分、だろ……前は、も、ほっとけ……見んな……」  顔がべとべとだ。気持ち悪ィ。風鳴りみたいな息が声をかき消す。  「は、あっ、かふッ……」  最悪だ。女みたいな喘ぎ声。  千里に貫かれてこんな恥ずかしい声出すなんて、自分と絶交したい。  尻に入ったもんが馴染んできた。ジェルを攪拌する音がぐちゃぐちゃうるさい。性感が強くなる。  千里は的確に俺のいいところを狙う。  指を突っ込んだ時に感じやすいところがわかったのか、前立腺の突起を律動的に狙い打ち、粘膜を擦って追い立てる。  頭が沸騰する。腰が溶ける。前をいじくりまわす手に泣きたくなる。後ろに突っ込まれた固いものを肛門が窄まって締め付ける。  安子のことも思い出せない。余計な事は考えられない。理性が雲って、思考が働かねえ。  「もういいか」  しゅるりと音がし、手首が解き放たれる。  ネクタイがぱさりと床に落ちたのを焦点のぶれた目の端で確認する。  「!?あっああああああああっああああ、あ!!」  突然突き上げる動きが激しさを増し、絶叫。  今までのは慣らしだといわんばかりに腰をガンガン突かれ、硬さ大きさ増したものが抜き差しされる。    「ん、なの、むちゃ、だ、はっ、ぃッく、入ンね、腹くるし……あっ、あああっ、あっ、ひぐっ」  使えるようになった手で机を掴み、揺さぶりに抗う。   完全に勃ちあがった前をいじる手と、後ろをぐちゃぐちゃやる物が、同時に快感を生み出して腰を溶かしていく。  机に肘をつき、顔を埋める。今まで体験したことない快感に翻弄され、引きずり込まれる恐怖に激しくばたつく。  女を抱いた事しかなかった。それだけで十分だった。男とヤりたいなんてぜんぜんこれっぽっちも思わなかった、想像したこともなかった。  「前も後ろもぐちゃぐちゃだ。腿までたれてる。一回二回イッただけじゃ足りないか」  「絶対、殺して、やる……こんなことして、のうのうと、会社にいられると、思ってんなよ……ッぁ、ひ、あ……」  「憎まれ口叩くか喘ぐかどっちかにしてください。舌噛みますよ」  手が自由になっても、殴れない。そんな余裕ない。  振り落とされないよう必死に机に縋って掴まって、前立腺への刺激が生み出す快感の荒波にひたすら耐え抜く。  「涎までたらして……そんなに気持ちいいですか?自分の机で犯されるのは」  千里が根元を押さえる。  「ッ、」  射精寸前で塞き止められ、硬直。  そこを押えられると、イきたくてもイけねえ。  「どうしました?何か言いたそうですね」  「て……どかせ………ッ、あ、動くなっ……」  机に手を付かせ押さえ込み、狂ったように突いてくる。  限界まで膨れ上がった前を握られた状態で責められるのは、拷問以外のなにものでもない。  「ちさ、やめ……はッ、ふあ、くっん、ああっあ、ああああっあ!」  快感を濃縮すると苦痛になると、初めて知った。  「イきたい?イかせてほしい?」  「……こんな、んじゃ、身がもたね……わけわかんね……」  俺は、泣いていた。  きつく瞑った目から、瞼をぬらし、しょっぱい涙が滴りおちる。  後輩の前で泣くのは恥ずかしいとかプライドがどうとか、どうでもよくなった。この苦痛から解放されるなら、らくになれるなら、どうでもいい。こんなの、死ぬ。絶対死ぬ。発狂しちまう。知らなかった。女はいつも、男に抱かれて、こんな感じを味わってたのか。出すまでこらえる男と違って、絶頂に着くまで、ずっと加速しっぱなしで。前立腺がこりこりする。ケツがぐちゃぐちゃする。前はぬるぬるする。体中、溶け出していく。体の中も外もドロドロで、煮え殺されそうだ。  「僕の事、好きですか」  ふいに、千里が真剣な声を出す。  どんな顔してるのか気になったが、振り向く余裕がない。机に縋って立つ体勢が、それを許さない。  適当に調子を合わせりゃラクになる。イかせてもらえる。  嘘を吐け。千里にこびろ。プライドも恥もかなぐり捨ててー  「大ッ嫌えだ」  ああ。  馬鹿だ。  馬鹿だろ俺。  ちきしょうわかってるよそんなこと、なんだよなにつまんねえことにこだわってんだ、こんなにされてもまだ面子にこだわってんのか、先輩ぶってんのかよ。いっそ笑える。俺らしすぎて、笑うっきゃねえ。  『ズミっちは真面目だから、損ばかりしてる』   安子はよくわかってた。  俺はそんな、俺のことわかってくれる最高にいい女を、ゴミ箱にしてた。  捨てられて当然、自業自得だ。誰だって自分をゴミ箱として扱う男より、一人前の女として見てくれる男を選ぶ。  でも。  これは、自業自得じゃねえ。  「大っ嫌いだ。千里、お前のそのひん曲がった性根が、へらへらしたツラが、どうにも我慢できねえ。ケツに突っ込まれて、前も後ろも、ぐちゃぐちゃにされても……ッあ……お前に、おねだりするくれえなら、机にキスしてたほうが、はるかにマシ、だ…………!」  「そうですか」  ふいに、千里の手が、前からはずれる。  「久住さんは、やっぱり、先輩なんですね。こんなかっこでも」  こんなかっこは余計だ。  「っああああっあああああああ、あ」  前をしごきたてられ、あられもなく泣き叫ぶ。  前をやすりがける手に合わせ突き上げる動きが速くなり、机にしがみ付いたままがくがく揺すられ、もうなにがなんだかわからなくなる。  「はっ、千里、見ん、な、いぅ……」  「いいから。イッちゃってください。自分の机に、いっぱい出してください」    閃光が爆ぜる。    「あ………」  奥に熱いものが広がる。  千里の精液が、ぬるく粘膜に染みていく。    同時に、脊髄ごと引き抜かれるような脱力感に襲われへたりこむ。  「ーはっ、はふ、はあっ、はあっ……」  イった。  千里の手で射精させられ、千里に突っ込まれて。絶頂を体験した。  後ろを犯されて。前をいじくられて。自分の机で。  股間がべっとりぬれてる。下腹と下着にも、白濁の飛沫がとんでる。始末が大変だ。  白濁にまみれた下半身を見下ろしぼんやり座り込んでいれば、前に影が立つ。  「僕がだれだかわかります?」  千里が笑っていた。  俺の白濁にまみれた手を顔の前にかざし、卑猥に舌を絡め舐めとり、うっそりと。  「久住さん、すごく可愛かったですよ。興奮した。へえ、あんなふうに喘ぐのか。デキる男のイメージくずれちゃったな。クールぶってるくせに、快楽には弱いんですね。自分の机にしがみ付いて狂ったように腰ふって、ああ、そんなによかったですか?職場でされて興奮した?すっごい変態だ。彼女の話されて、それさえ刺激にしてー」    千里を殴り倒す。  もんどりうって倒れた千里に立たない腰で馬乗り、胸ぐらを掴む。  「『先輩』だろ、クソ後輩」  俺の顔を至近で見て、千里が目を剥く。  「待って先輩、眼鏡かけたまま頭突きはまずー」  「リクエストに応えてやる」  親切な俺は、後輩に頭突きをくれてやった。 

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