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1.
俺の名前はシンデレラ。
本名は違うが、運悪く記憶喪失になってしまった為全く覚えていない。
「おいシンデレラ」
呼ばれ振り向くと
「腹減った。なんか作れ」
偉そうに踏ん反り返っている人物が目に入る。
名前は孝治(こうじ)。
背が高くてムカつく位美形の男。
で、俺の義理の兄。
多分血の繋がりはない。
「俺カレーな?」
「俺はハヤシ」
「なら俺はビーフシチュー」
はぁ???
何言ってんだお前ら。
全部似たようなヤツじゃないか。
誰か妥協してどれか1つにしてくれよ。
「で、俺は何を作ればいいわけ?」
呆れつつ尋ねると
「カレー「ビーフシチュー「ハヤシライスに決まってんだろ?」」」
同時に叫ばれ
「最悪」
溜め息を零した。
今目の前に居るのは、先程紹介した孝治と英治(えいじ)と快治(かいじ)。
孝治と英治は義理の兄で、快治は義理の父。
遺伝なのか、皆異常な位顔立ちが整っている。
なのに全員独り身なのは、多分性格のせいだろう。
「1時間待ってやるから今すぐ作れよ?」
冷たく言い放ちながら自室に戻る義理の父・快治。
「俺寝てるから出来たら起こして?」
ふわぁ~欠伸をしながら立ち去る義理の兄・英治。
「俺今スッゲェ空腹なんだよな。秒速で作りやがれ」
長男だからか偉そうにしている孝治。
トスン、ソファーに座りながら睨まれた。
ふぅ~。
カルシウム足りてないのかな俺。
ちょっとムカつく。
皆美形のくせにスッゲェ性格悪い。
自己中で我儘で横暴。
いつも見下した様な視線を送られ、無理難題を叩き付けられる。
あ~あぁ、なんで俺こうなったんだろう?
事の始まりは2週間前。
きちんと覚えていないから聞かされた話なのだが、どうやら俺は孝治と階段から落ちたらしい。
足を滑らせた俺の巻き添えになって共に落下した孝治。
大した高さでなかった為軽い打撲で済んだが、俺は頭を強打して記憶を失った。
身元を証明する物も記憶も無かった為、俺は孝治の家に居候する事になった。
[働かざる者食うべからず]
退院し、孝治の家に足を踏み入れるなり言われたセリフ。
「は?」
見上げると
「今日からお前我が家の下僕な?」
偉そうに見下ろされた。
背が低い為見上げてしまう顔。
物凄い威圧感を感じた。
で、今に至る。
因みに名前は
[召使だからシンデレラで良くね?]
英治に命名された。
[顔も女みてぇだしな]
余計なお世話だこの野郎。
「おい、手の動き遅いぞ。キビキビ動かせよ。俺を餓死させたいのか?お前は」
最悪な出逢いのシーンを思い出していると聞こえた声。
いちいち刺々しいんだよ。
いっそ餓死しちまえ、とか思いながらも
「分かったよ。急いで作るから待ってて?」
強気に出れないのは、居候させて貰っているから。
クソォ~。いつかバイトしてお金貯めてこんな家出てってやるっ。
玉葱を切りながら涙目になった。
「「「「いただきます」」」」
声の大きさ等は違うが同時に言い、食べ始める夕食。
結局カレー・ハヤシ・ビーフシチュー、全てを作った俺。
1時間以内に作れるなんてさ、神業じゃね?
なのに誰1人感謝してない。
皆して当然って顔してマジムカつく。
あ~あぁ、どうせなら違う人生送りたいなぁ。
翌朝新聞を取りに玄関に向かうと入っていた回覧板。
回覧板を回すのは俺の役割。
取り敢えず新聞と共に義理の父・快治に渡した。
ソファーに寛ぎながら回覧板を開く快治。
「舞踏会?」
ポツリ呟いた。
「へぇ~楽しそうじゃね?」
「参加自由だって。折角だから皆で行こうよ」
盛り上がる3人。
[ぶとうかい]
ソレってなんだ?
葡萄を食べる会?
なワケないよな?
皆が盛り上がるって事は武道会みたいなヤツか?
強い奴同士が闘ったりするヤツ?
って、うっわ、ソレマジ面白そう。
「主催者は本城奏(ほんじょう かなで)か」
って、誰だ?ソイツ。
「へぇ~漸く王子もその気になったか」
王子?
ソイツ王子なのか?
主催者って事はソイツが一番強いって事?
なら話は早い。
ソイツに逢ってソイツを倒せば俺優勝?
優勝したら賞金貰えるよな?
そしたら自立出来るんじゃね?
この家出る資金出来るじゃん。
よしっ、その[ぶとうかい]とかいうヤツ行ってやろうじゃん。
「いつあんの?」
身を乗りだし尋ねると
「1週間後。けどお前は留守番だから」
日付は教えて貰えたが、留守番を押し付けられた。
くぅ~、狡いぞ皆。
俺だけ除け者にしやがって。
あっ、でも皆その日外出するんだよな。
なら鍵掛けて外出してもバレなくね?
変装とかすれば顔見えないしさ。
よし、そうしよう。
そうと決まれば早速今日からトレーニングだ。
[ぶとうかい]の為鍛えるぞ。
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