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『ダリィなぁ』 睡眠不足で怠い身体に鞭打って出掛けた日曜日。 駅前のデパートに立ち寄った。 『立ち読みして、デパ地下で夕飯買って帰るか』 今日は俺が食事担当の日。 男3人で暮らしている我が家は、家事をローテーションしている。 3人しか居ない為スグ回ってくる当番の日。 マジ面倒臭い。 誰かお手伝いでも雇うか。 でもそうしたら色々面倒事起こりそうだしなぁ。 嗚呼、マジで鬱だ。 軽く溜め息を吐き歩きだすと、キャアキャア聞こえる甲高い声。 気が付くと周囲は見知らぬ女ばかりになっていた。 何だコイツ等。いつの間に湧いたんだ? 「ねぇ、1人なの?」 「私達暇なんだぁ。一緒に遊ばない?」 軽い女は嫌いだ。 「ねぇ、名前教えてよ」 無視して本屋へ向かった。 漸く見えてきた本屋。 群がる女達のせいで、着くのに時間が掛かった。 『ったく、無駄な時間使わせやがって』 眉間に皺を寄せ、携帯で時間を確認すると 『チッ』 もう既に12時を過ぎていた。 『腹減ったな。立ち読みの後何か適当に食べるか』 いつも購読している雑誌に手を伸ばした。 「あっ、すみません」 「いえ」 って、なんだ、この一昔前の少女漫画みたいな出会いは? 同じ雑誌を取ろうとした俺と見知らぬ美少女。 偶然同時に手を伸ばし、手が触れ合った。 スッゲェベタな展開だな、コレ。 まさかコレで恋が芽生えるとかねぇだろうな? つか、なんだコイツ。 マジ可愛いな。 目の前に居る女は異常な位綺麗で可愛かった。 こんな可愛い奴初めて見た。 見られるのに照れたのか違和感を感じたのか定かではないが 「すみません」 慌てて美少女はペコリ頭を下げ、雑誌を手にしレジへ向かった。 うっわ、マジ好みだアレ。 俺の目はその子に釘付けになった。 『何処行くんだろう?』 立ち読みも腹拵えもせず、後を着ける俺。 ストーカーか? 『あっ、ペットショップ入った』 チワワを見ながら目を輝かす美少女。 『犬好きなのかな?』 「可愛い」 ポソリ呟かれ 『お前の方が可愛いだろマジで』 心底思った。 その後、駅に向かった足。 まだ着いて行っている俺。完全に変質者だ。 『でもまだ見ていたい』 こんな気持ちになったのは初めてだった。 『可愛いなぁ』 見惚れながら後を着ける思いっ切り不審者な俺。 が、どうやら不審者は俺だけではなかったらしい。 「ねぇ、君可愛いね。名前教えてよ?」 声を掛けられた美少女。 あっ、先越された。 しまった、俺も見てるだけじゃなく声掛ければ良かった。 マジ出遅れた。 「ぇっ?あの、可愛いって誰がですか?」 キョロキョロする美少女。 う~ん、無自覚か。余計良い。 「君だよ君。俺こんなに可愛い女の子見た事ない。ねぇ、俺と付き合ってくんない?」 あ~あぁ、マジで悔しい。 今俺完全蚊帳の外だよ。 コレで美少女が[はい、喜んで]とか言ったら失恋だな俺。 「え!?あの、僕男なんですが」 「「はぁあああ!?」」 ヤベッ、ハモっちまったよナンパ男と。 尚且つ振り向かれたせいで2人と目ぇ合ったし凄く気まずい。 「なぁ~に冗談言ってんの。君どう見ても美少女でしょ?女の子にしては少し声低めだけど可愛いし」 うん、うん。 そうだよ、そうだよ。 コレで男なら世の中の女はどうなる。 芸能人や有名人以外でこんなに可愛い顔、見た事ないぞ? 「いえ、そう言われましても、実際男ですし」 ……マジか? 「こ~んな可愛い顔して嘘吐くなんて。悪い子にはお仕置が必要かな?」 オイ、なんかコイツ雰囲気ヤバいぞ? 「やっ、ちょっ、離して下さい」 グイッ、掴まれた細い腕。 なんか痛々しい。 「アッチに車あるから行こうか?」 ちょっ、コレマジヤバくね? 「嫌っ、すみません。離してぇっ」 ナンパ男に引っ張られ始めた美少女、ではなく美少年。 男、なんだよな? う~ん、どう見ても女の子だ。 これじゃあ嘘って言われても納得出来る。 じゃねぇっっ。何頷いてんだ?俺。 助けなければ。 「止めろよ。その子嫌がってんだろ?」 「なんだよお前?部外者は引っ込んでな」 うっ、確かに部外者だがそんな言い方ないだろ? 「ねぇ無理矢理車に引き摺り込んで何する気?まさか強姦?それって犯罪だよな?」 「なっ、お前には関係ないだろ?」 「へぇ~否定しないって事はするんだ?強姦。ふぅ~ん?あっ、あれ警察じゃね?」 ワザとらしく軽く周囲を見渡し言ったセリフ。 「えっ!?」 慌ててナンパ男は周囲を見渡し始めた。 なぁ~んだ、コイツ口だけじゃん。 なら容易い。 「逃げるぞ?」 美少年?に小さく耳打ちすると 「急げっ」 慌てて手を引っ張りその場を逃げた。 「待てっ!!」 後ろから怖い声がしたが、完全無視して走った。 どれ位走っただろうか。 気が付くと美少年はハアハア肩で息をしていた。 ヤバい、早く走り過ぎたか? 「大丈夫か?」 不安げに尋ねると 「すみません」 乱れた息のまま謝られた。 うわっ、なんか色っぽい。 って、待て。コイツは男だ。 何ときめいてんだよ?俺。 気を強く持て。 「あの、手」 ん? 手がどうした? ゆっくり目線を動かすと 「うっわ、ごめん。いや、悪い」 思いっ切り恋人繋ぎをしていた。 尚且つ[ごめん]なんて女の子みたいな謝り方をしてしまい、慌てて[悪い]と言い返す。 なんかスッゲェ調子狂う。 だってマジ好みなんだよなコイツの顔。 滅茶苦茶綺麗で可愛い。 こんなに可愛いんなら男でもOKかな? って、落ち着けぇ、俺。 「助けてくれてありがとうございます。僕の名前は蒼井雪夜(あおい ゆきや)です。貴方の名前も教えて頂けませんか?」 う~ん、敬語ってのも良いなぁ。萌える。 って、頼むからしっかりしろぉ、自分。 ていうか、[あおい]って名字も可愛いなぁ。 「御厨孝治(みくりや こうじ)。孝治で良いぜ?」 ふわり微笑むと 「はい、孝治さん」 ほわぁって笑われた。 孝治さんって、マジ良いよその響き。 さん付けなんて初めてされたぞ。 「あの、お礼に何か奢ります。あっ、でも僕余り持ち合わせないんで高いのは無理ですが」 苦笑され 「お金は俺が出すから何か食べようか?」 丁度ランチタイムだった事を思い出した。 「いえ、そんなの悪いです。助けて頂いたのだから僕が払います」 焦りながら言われ 「俺が払いたいんだから払わせて?それに1人で食べるのは寂しいと思ってたからさ、付き合って貰えるお礼だと思って?」 ニコニコ微笑んだ。 「はい」 意識的に極上の笑みを向けたせいか、赤くなった美少年、じゃなくて蒼井。 なんか本当に女の子と居るみたいだ。 その後、気が合った俺達。 この日を境に、毎日逢う様になった。 呼び方も[蒼井]から[雪]になったが、やはり雪は[孝治さん]のままだった。 本当は呼び捨てが一番嬉しいのだが、さん付けも良い響きだからそのままにした。

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