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2.

最近困った事がある。 「あの、孝治さん?」 雪が可愛くて堪らないのだ。 雪は男で、女の子じゃないって事は初日に理解した。 なのに 「あの、どうしたんですか?」 どうしても受け入れられない。 どう足掻いても女の子にしか見えないんだ。 「悪い、なんでもない」 「なら良いんですが、何かあったら言って下さいね?心配だから」 スッゲェベタな出逢いだったが、一目惚れだったんだ。 目が合った瞬間完全に心を奪われた。 男と分かっても消えない想い。 日に日に強くなる。 雪が欲しい。 俺だけの物にしたい。 沢山キスして抱き締めたい。 って、何不毛な事考えてんだよ?俺。 マジ病んでんな。 「なぁ雪。お前好きな奴居るか?」 「ぇっ!?ぅっ、ぁっ、あの、その」 あれ? まさか居るのか? 「へぇ~居るんだ?」 「違っ、じゃなくて、いえ、でも、その」 面白っ、吃り過ぎだよ雪。 なんか羨ましいなソイツ、雪に想われて。 こんな可愛い雪に好かれるなんてスッゲェ幸せ者だよ絶対。 「誰?俺の知ってる奴?言ってみろよ、どんな奴か」 「…………………」 あれ?なんか押し黙ったぞ。 「背が」 ん? 「背が高いです」 へぇ~。 まっ、雪低いからな。 「スッゴク優しくて、頼り甲斐あって、いつも一緒に居てくれて、僕を助けたり守ってくれたりするんです」 いつも? って、そんな奴居たっけ? 最近ずっと側に居るのは俺だけだぞ? って、まさか俺? なワケないよな?俺男だし。 「どれ位好きなんだ?」 尋ねると 「物凄く、好……き」 真っ赤になった雪。 マジソイツ羨ましいな。 悔しいな。今なら嫉妬で人殺せそうだ。 「ソイツ幸せだな、こんなに想われて。早く両想いになれたら良いな。応援してやるよ。」 クシャリ優しく髪を撫でた。 あれ? ………雪…? 突然俯いた雪。 肩が震えている。 泣いてんのか? 「雪?」 そぉっと頬に手を添えると 「酷いよ孝治さん」 ポロポロ雪は涙を流した。 「…え?」 何故雪は泣いてるんだ。 俺何か傷付ける様な事言ったか? 唯応援するって言っただけだぞ。 それの何処に傷付ける要因が? まさか雪が好きな奴って俺が知ってる奴か? 毎日勝手に付き纏ってくる奴等の中の誰かなのか? それで俺に嫌味を言われたと勘違いしたとか? って、止めてくれよ。 俺は真剣に雪の幸せを祈ってんだぞ。嫌味なんか言わない。 「ごめん雪。気を悪くしたのなら謝る。だから許して?」 流れる涙を指で拭いながら顔色を伺うと 「違います。孝治さんは何も悪くありません。僕が勝手に傷付いて泣いただけですから」 物凄く哀しそうに笑われた。 「もし僕に恋人が出来たらどうしますか?」 え? 「勿論喜ぶに決まってんだろ?」 何当然の事聞いてんだよ? 雪の幸せは俺の幸せだ。 嬉しいに決まってる。 嫌だけどな。 「………そうですか。なら、諦めますね?」 雪? 「僕、孝治さんの事諦めます」 はい? 「初めて目が逢った瞬間一目惚れしたんです。勝手に好きになってごめんなさい。おかしいですよね?僕男なのに」 って、ちょっ、ちょっ、ちょっと待ったぁっっ。 今雪何て言った? [好き]って[一目惚れ]って言わなかったか? で、[諦めます]って言ったよな? って、冗談じゃない。 今諦められたらマジ困る。 俺だって雪に一目惚れしてんだよ。 雪と恋人になれるんならなんだってする。 「雪。雪が好きなのは俺なのか?」 キスが出来そうな位近くで聞くと 「はい」 恥ずかしかったのか、雪は物凄く真っ赤になった。 「俺と付き合いたい?」 コクリ、小さく動いた頭。 「俺の恋人になるって事は俺の彼女になるって事だぞ。俺とキスしたりS〇Xしたりするんだぞ?それでも良いのか?」 「か、かの!?キス!?セッ、セッ、セ、ぇええええ!?」 うっわ、雪お前意外と大きな声出るんだな。 初めて聞いたよそんな大声。 「俺とすんのは嫌か?」 ワザと耳元で囁く俺。 「俺はしたいぜ?雪とキス」 甘く低く、女を落とす時にしか出さないエロさを加えた声を出すと 「こ、こ、こ、こ、孝治さんん!?」 耳を押さえながら激しく吃られた。 [こ、こ、こ、こ]って鶏か? マジウケる。 「嫌?」 再び尋ねると 「………嫌じゃ、ない、です」 物凄く小さな声が耳に入った。 嗚呼、もう。マジ可愛過ぎ。 なんか俺今此処でキスしたいかも。 「雪。俺の彼女になるか?」 出来るだけ柔らかく微笑むと 「……………はい」 ふわり泣きながら雪は微笑んでくれた。 「なぁ、キスして良いか?」 「は、はいっ」 いつもしているのに 「キスする時は鼻で息しろよ?」 「えっ!?が、頑張ります」 一向に慣れない雪。 凄く純粋で、愛しい。 毎日が幸せで充実していた。 そして 「好きです孝治さん」 「ああ。俺も愛してるぜ雪」 この幸せは 「離さないで下さいね?」 「当たり前だ」 ずっと続く物だと、信じて疑わなかった。 なのにどうしてなんだろうか? 俺達の幸せは凄く…短かった。 「雪っ、雪。しっかりしろっ!!目を開けてくれっっ」 雪に言われて駅前で待ち合わせをした日だった。 人身事故で電車が遅れて待ち合わせの時間に遅れたのが悪かったんだ。 「離して下さい」 「雪っ」 雪は見知らぬ男達に囲まれていた。 明らかに軽そうな男達に 「なぁ一緒に遊ぼうぜ?」 絡まれていた雪。 「すみません。ソイツ俺の連れなんで離して貰えませんか?」 頼んだが 「何だよお前」 逆に俺が囲まれた。 別に喧嘩が弱いワケではない。 だが、雪を庇いながらでは人数のせいもあって、明らかに俺の方が不利。 仕方なしに雪の手を繋ぎ、逃げる事にした。 だがやはりそれでも不利なのには変わりなくて 「待てよ」 ガツンッッ!!俺は殴られた。 ヤバい。このままじゃ雪に迄被害が及ぶ。 雪だけでも助けなければ。 そう思い逃げようとしたが、再び向けられた拳。 今度は1人でなく数人が手と足を向けてきた。 『もうダメだ』 そう思い目を瞑った俺。 だが 『え!?』 来る筈の衝撃は何1つ来なくて ダンッ!バキィーーーーッ!!ガンッッ!!! 聞こえたのは物凄い音。 『え?雪?』 今迄腕の中に居た筈の雪。 気が付くと居なくて 「雪ぃーーーーーーっっ」 雪が壁にぶつけられていた。 俺を庇って、殴られ蹴られた雪。 暴力等受けた事もなかったんだろう。 受け身も知らなかった身体は見事に吹き飛ばされた。 「嘘、なんで?」 「おい、大丈夫か?」 男達も雪には攻撃するつもりはなかったらしい。 慌てて駆け寄ったが 「雪?」 雪は完全に意識を失っていた。 壁に当たった拍子に強く打ったのだろう。 頭からは沢山の血が流れていた。 「雪。雪しっかりしろっ」 慌てて救急車を呼び、俺はそのまま病院へ向かった。

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