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3.

どれ位時間が過ぎたのだろうか? 雪は今手術室に居る。 元々1人暮らしで、両親を早くに無くした雪には身寄りが無かった。 生活保護と父親の遺産で生活していた雪。 俺に逢う迄毎日寂しかったって切なげに言った雪が、凄く愛しく思えた。 なので今此処に居るのは、俺と俺の父親の快治だけ。 流石に子供だけで手術や入院の手続きをするのは面倒で、父を呼んだ。 かなり長い時間が流れて、漸く開いた手術室の扉。 「無事終わりましたよ」 主治医に微笑まれ 「ありがとうございます」 一気に力が抜けた。 「だが頭を強く打っているからね、もしかしたら支障が出るかもしれない。今から精密検査をするから、逢えるのは明日になるけど良いかな?」 「はい」 脳に支障が出るかもしれないと言われ、俺は物凄い不安に押し潰されそうになった。 が、落ち込んでいる暇はない。 父に病院の手続きを頼むと、急いで雪のアパートに向かった。 もし入院をするのであれば、着替えや保険証が必要になる。 が、ちょっと待て。 保険証ってあるのか? 身寄りのない雪。 保険料や税金は一体誰が払っているのだろうか? が、銀行引き落としか何かになっていたのだろう。 詳しい事は分からないが幸運な事に、保険証はスグに見付かった。 簡単に入院の準備を済ませると、再び戻った病院。 受付に居た父に保険証を渡し、雪の家庭の事情を話した。 話を聞いた父は、雪を我が家で引き取る事にした。 「雪君が退院したら、家族全員で話し合って雪君を養子に迎えよう」 優しく言われ 「ありがとう」 俺は素直に頭を下げた。 翌日 「あの、御厨さん」 病室の扉をノックしようとした俺と父。 「はい?」 主治医に声を掛けられた。 「おはようございます御厨さん」 「おはようございます」 一体何だろう? 早く逢いたいんだ。無駄話なら後にして欲しい。 「非常に良い難いんですが」 ん、何? 「昨日の精密検査の結果なんですが、やはり脳を強く打ったのがいけなかったみたいで」 だからなんだよ? 「記憶に障害が出ています」 「「はぁ!?」」 「それってどういう意味ですか?」 「彼は今迄生きてきた記憶を全て失っています。なので、もしかしたら性格も変わっているかもしれません」 はぁあぁあぁああ!?!? 何言ってんだ? 雪が記憶喪失?性格も変わったかもしれない? んなワケないだろうが。 雪は雪なんだよ。変わるワケねぇ。 「言ってる意味分かんねぇから自分の目で確かめさせて貰うぜ」 主治医の話を中断し、ガラリ開けた病室の扉。 ソコには 「誰だ?お前」 雪だけど明らかに雪でない雰囲気を持った奴が居た。 「ーーーっぅ」 頭の傷が痛んだのか、後頭部に手をやったソイツ。 「コレマジイテェな」 ブスゥっとしながら呟いた。 「なぁ、アンタ誰?俺何でこんな怪我して病室居んの?で、俺誰?」 …………あれ?俺寝惚けてんのかな、幻聴と幻覚が見える。 「ねぇ聞いてんの?俺アンタに聞いてんだけど。病室来るって事は俺の知り合いなんだろ?」 コレ誰だ? 明らかに雪なのに、雪じゃない。 別人格か何かか? まぁ一応挨拶しとくか。 「俺は御厨孝治だ」 小さくだが名前を言ってやった。 なのに 「ふぅ~ん、そう」 返されたのはスッゲェどうでも良いセリフ。 って、オイなんだその態度は? 雪と性格も態度も雰囲気も何1つ一致しないじゃないか。 可愛くねぇ。 いや、顔は雪だから可愛いんだが中身全然可愛くねぇよコイツ。 スッゲェ生意気だ。 「で、俺の名前は?」 聞かれ「蒼井雪夜」言おうとしたが 「さぁな。自分で思い出せよ」 敢えて教えなかった。 コイツが雪と同一人物なんて、マジ信じられねぇ。 雪は自分の事を[俺]だなんて言わない。 いつも堅苦しくはないが、丁寧な口調だ。 こんな言葉遣い絶対しない。 「はぁ!?何ソレ?あっ、分かった。アンタ知らないんだ俺の事」 「ちげぇよ。知っててもお前には教えない。唯ソレだけだ」 「んなっっ!?何ソレ、マジムカつく」 「ハンッ、勝手に苛ついてろ」 軽く鼻で笑うとギロリ睨み付けた。 認めねぇ。 こんな奴が雪と同一人物だなんて、俺を覚えてない雪なんて、絶対俺は認めない。 「なぁ、何か知ってんなら教えろよ。モヤッとすんだろ?」 一睨みしたのが効いたのか、少ししおらしくなったソイツ。 ほんの少しだけ可愛く見えて 「俺はお前に何も教えない」 耳元にゆっくり唇を寄せながら 「お前は唯、俺の物だという事だけ知ってれば良い」 低く甘く囁いた。 「んなっ!?ちょっ、近っ!」 一瞬で真っ赤に染まる顔。 初々しい仕草が雪と被る。 ヤバいな、スッゲェ可愛い。 コイツは雪じゃないのに、全くの別人なのに 「お前は俺のだ」 物凄く…欲しくなった。 その後我が家で引き取る事になったソイツ。 名前がないと不便だからって[シンデレラで良くね?]英治が命名した。 英治、お前ネーミングセンスねぇな。 俺はというと、未だ何1つ俺を思い出さねぇ雪に苛ついて 「喉乾いた。冷たい紅茶持ってこい。勿論スッゲェ冷えたヤツな?」 ソイツを扱き使っている。 「はぁ!?んなのねぇよ」 「なら自販機で買ってこい」 「何様だお前」 「御兄様だろ?シンデレラ」 ニヤリ意地悪に口角を上げると 「マジ性格悪いなお前」 ソイツは玄関に向かった。 だが知ってるか?シンデレラ。 俺は雪だけでなくお前も気に入ってんだよ。 だから早く墜ちて来い、俺の所に。 欲に塗れた視線を背中に向けると 「金。渡してくんねぇと買えねぇから」 振り返り手の平を差し出された。 「ほら。ついでに好きなヤツ買ってこい」 1000円札を渡すと 「……ありがと」 小さく呟かれた声。 お礼を言ったのが恥ずかしかったのか、慌てて走り去った。 う~ん。コレはコレで可愛いかな。 雪の可愛さには負けるがな。 赤くなった顔を思い出しながらクスリ小さく微笑んだ。

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