45 / 45
第45話 永遠の※
「おいで、ノア」
大きめのベッドに腰かけたフィリが、僕のことを呼んだ。
そう言われただけなのに、どくん、と僕の心臓が跳ねる。
フィリの部屋は、このヴェネティアスの中でも、最高級アパルトマンの一室だった。それはゲームでも同じだった。が、その広い部屋の中は、それはそれは汚くて、僕はびっくりしてしまった。本と服、書類が散乱していて、床も見えないほどだった。
(ユノさんの部屋みたい……)
と、考えて、ハッとした。ユノさんも、ヒューだったかもしれないのだ。
僕がフィリの前で、呆然と立ち尽くしているのを見て、フィリはちらっと部屋の中を見て、「ああ」と言うと、次の瞬間には、部屋の中は今の光景が嘘だったかのように、脱ぎ散らかされた服は消え、綺麗に整頓され、ヘリンボーンの床まで輝いているようだった。
そんな魔法ができるだなんて、天才魔術師みたいだ、と考えて、また、心臓がきゅうっとした。
(……いいのかな、、)
ちょっとの戸惑いと、すこしの期待と、緊張と、ーーーそれと、罪悪感も。
なんとなく、本当になんとなくだけど、首から下げていたユノさんにもらったお守りを、外して、デニムのポケットに入れた。
どきどきと心臓がなっているのを感じながら、フィリに手を引っ張られて、僕はフィリの膝の上に、おずおずと、跨った。
背中にまわった、フィリの手が、シャツの中に入ってきた。
指先で、すうっと撫でられて、僕の体はビクンッと跳ねた。そして、その指先から、ふわりとあたたかい風が吹いてるみたいに、濡れた服が一瞬で乾いてしまう。すごい、と思う間もなく、フィリの手が背中を這って、弱いところをまさぐられる度に、ぴくっと反応してしまった。
「あっ ん、ふぃり……」
目の前にある、大好きな顔が、目を細めた。
誘われるように、唇を近づけると、ふにっと柔らかい感触がした。
(やわらかい…)
それから、目を閉じたフィリに、ちゅ、ちゅ、と角度を変えながら、何度も、何度も啄まれる。その優しい感触が、慈しむようなキスが、気持ちよくて、僕も、そっと、目を閉じた。
(好き…好き…フィリ…)
れ、とフィリの熱い舌が中に入ってきて、ねっとりと絡めとられた。上に、下に、と絡み合って、舌の、唇の、触れ合った部分から、すこしずつ、体の中で、官能の火が灯る。
ちょっとだけ目を開けてみたら、そこには、うっそりと目を細めてるフィリがいて、僕の意識は、囚われてしまったみたいに、その水色の瞳に溶けた。いつもみたいに優しい顔じゃない。いつもみたいにつんと澄ました顔でもない。僕のことを値踏みしてるみたいな、雄の顔。
(何回も、見たことある…ヒューの、えっちな顔…)
キスの合間に、はあ、と吐き出す息と一緒に、名前を呼ばれた。
「ノア」
いつもの涼やかな声が、すこし掠れて、熱っぽい。
名前を呼ばれただけで、僕はもう溶けてしまいそうだった。
室内の、あたたかい色の光に照らされて、夜の色をしたフィリの瞳。僕は囚われたみたいに、じっとフィリのことを見ていた。フィリもじっと僕を見てて、目を合わせたまま、ちゅ、と、もう一度口づけると、フィリの唇は、そのまま、僕の顎、喉元、と唇を落としながら、下に降りて行った。
フィリの器用な指先に、いつの間にかシャツのボタンは外れていて、するりと、僕の肘まで、シャツが滑ってきた。
「あ、んっ ふぃり」
フィリの唇が、下がっていくに連れて、僕の背中はのけぞって、剥き出しの胸を差し出すみたいな体勢になってしまって、すごく、恥ずかしくて、やめて、と、手でフィリの頭をちょっと押したら、両手を背中の後ろでひとまとめにされてしまった。
フィリは魔法使いなのに、力が強くて、片手でひとまとめにされてるのに、僕は手を動かすことができなかった。余計に、胸をフィリの唇の前に、見せつけるみたいな格好になって、まっ赤になってしまった。
「あっや、やだっ 離してっ」
焦る僕のことなんて、何にも気にしてくれなくて、意地悪そうな顔をしたフィリが、目の前にある僕の乳首をあむっと口に含んだ。
「ひああんっ」
そのまま、口の中で、僕の希望とは裏腹に、淫らに腰を揺らしてしまった。僕はフィリの上に座っているのだ。「やだ」「やめて」とは口で言いながら、腰を揺らしている浅ましい動きが、多分、全部伝わってしまってる。
余計に恥ずかしくて、恥ずかしくて、それなのに、隠すための手は、甘く捕らえられていて、僕は、せめてもの抵抗に、ぷいっと横を向いた。むうっとした顔で横を向いていたら、いつの間にか、デニムのジッパーが下がっていて、フィリの手が、僕のペニスを下着ごしに、撫で上げた。
「ふぇ?! あっ やっ ふぃりっ」
僕の制止の声なんて、全く聞こえてないみたいで、フィリの指が下着の中に入り、ぶるんと勢いよく、僕のペニスが露になった。あんなに嫌がっておきながら、こんなにかちかちにしてたことがバレて、恥ずかしくて死にそうだった。
かああっとまっ赤になって、首を振って、どうにかやだって抵抗してみるけど、そそり立った自分のペニスは、「触って、触って」って言ってるみたいに、歓喜して、涙をこぼした。
「素直に、いっぱい触ってって言ったら?」
「ち、ちがっ 違うよっ あ、だめ、ああんっ」
フィリのきれいな指が、僕のペニスに絡みついて、上下する。僕の弱いところばかりを、指先で刺激されて、「ひあああ」と、のけぞって、女の子みたいな声をあげてしまった。
そのまま、ぴくぴくと震えていたら、のけぞった僕の胸を、フィリの舌が舐め上げた。王子様みたいな顔のフィリに、ぺろぺろと、犬みたいに舐められて、僕の目から涙が溢れた。暴れてみるけど、両手はしっかりと拘束されてたままで、びくともしない。それどころか、見せつけるように、目を合わせながら、なめられた。
「あっ やああっ」
(あんな、あんなにいつも、つんってしてるのに…性欲なんて、一切ありません、みたいな顔してるのに…!!!こんなの…無理!無理ぃぃっ)
「やあんっ ふぃりぃ やだ、それ、やめっ ん」
「ノア、ここいじられんの好きだろ。さっきから気持ちよさそうに、腰振ってんじゃん」
「ふぅう、ふぃ、ふぃり!」
フィリの言いように、怒ってみても、あまりの気持ちよさに、がくがくと腰が震えてしまう。その痴態を、全部、大好きな人に見られてて、恥ずかしくて、恥ずかしくて、それなのに、与えられる刺激はとまらなくて、目から涙が溢れた。
ふ、と笑ったフィリが僕の腰を持ち上げて、ベッドにうつ伏せにおろした。「へ?」と、まぬけな声を出しながら、顔だけフィリに振り返ると、フィリのきれいな指が、僕の後孔をなでた。
「ひぅっ」
いつの間に、香油なんて出したのか、とろっとした冷たい感覚と一緒に、つぷりと中に差し込まれた。流石に、びくっと体を震わせたら、フィリが尋ねた。
「|は《・》|じ《・》|め《・》|て《・》?」
涙目のまま、こくん、と、うなづくと、フィリはうっそりと目を細めて、「はじめて、か」と、言いながら、指を増やした。一瞬、頭がズキッと痛んだが、当たり前だが、今はそんな場合じゃなかった。しかし、意外にも、僕の尻は、フィリのその二本目の指をすんなり受け入れた。
(………あれ?)
散々漫画で読んだから知ってる。はじめて指を入れたときの感想は、大体「圧迫感」「異物感」「気持ち悪い」だ。その後、攻めが指を増やし、前立腺を探しあてた後は、あんあん言うタイプと、まだ痛いか慣れないタイプと別れる。あくまでも、僕の脳内インデックスの情報である。
実体験を見聞きしたことがあるわけじゃないから、本当のところは、わからないのだ。でも。それでも、ーーー。
「あっ え?! ああっ やだっ ま、待って、フィリ あっ あっ」
いつの間にかもう一本増やされた指に、ばらばらと中で指を動かされ、すごく気持ちいいところをひっかくように刺激されて、僕は嬌声をあげた。腰が勝手にびくびくと、フィリの指にこすりつけるみたいに、揺れてしまう。腰を揺らしたら、前がシーツに擦れて、余計気持ちよくなってしまった。くちゅくちゅと、濡れた音が響く。
僕の体は、明らかにおかしな反応をしていた。
(えっ どうしよう。これが前立腺?…え、気持ちいい…)
僕の中をかき混ぜているのが、フィリの指なんだっていうだけで、きゅんきゅんしめあげているのがわかる。フィリは、丁寧に、なでるように、僕の中を広げていく。あのきれいな指にかき混ぜられてるのかと思うと、それだけで、達してしまいそうだった。
「ふぇ?!ま、ああんっ ま、待って ふっ んんっ」
「どうして」
「ふぃりぃぃ、だ、だめ、変、 あっっ 」
香油でとろとろの穴に、じゅぷじゅぷと指を抜き差しされて、僕の口から「あ、あ、」と、快感にまみれた声があがる。はじめて尻に指を入れられて、すぐ気持ちよくなっちゃう受けなんて、僕の読んだどの漫画にも出てこなかった。
(うそ…あ、あ、聞いてたのと、違う……)
あまりの気持ちよさに、目をちかちかさせていたら、フィリは僕のことを、そのまま、ころんと仰向けに転がした。そして、混乱している僕の目の前で、着ていた部屋着の上を、脱ぎ捨てた。目の前にあらわになった、半裸のフィリの体に、僕は、ごくっと喉を鳴らしてしまった。多分、僕の顔は、まっ赤なはずだった。
(何、魔法使いって、あんなに体鍛えてるもの?!)
引き締まったフィリの体を、舐めるように見ていたら、すぐに限界を超えた。思わず、両手でバッと顔を隠した。それでも、見るのをやめられなくて、指の間からちらちら見てたら、フィリが怪訝そうな顔をして、首を傾げた。
僕は小さくつぶやいた。
「どうしよう…」
「え?」
「ふぃりがかっこ良すぎる。何それ。何その体。かっこ良すぎて、直視できない!きれいが過ぎる!」
「しっかり指の間から見てんじゃねーか」
バレてた。でもどうかわかってほしい。ヒューとは、慰めあってただけだったから、あんまり裸とかは見たことがなくて、いや、裸の姿まで、ヒューと似てるかはわからないけど、それでも、水浴びするとき以外、見たことはなかったから。僕は、なんだか、推しの半裸姿が、目の前にあるみたいなかんじになって、喜びが、一気に爆発してしまった。
「どうしよう。ずっと、王子様みたいだと思ってたけど、フィリは…フィリは…世界一かっこいいかもしれない。フィリ以上にきれいな人が存在するとは思えない」
「…………お前、はじめ、俺の顔見たくないって言ってただろ」
「どうしよう。もうだめかもしれない」
心底、嫌そうな顔をして、「はあ」とため息をついたフィリに、顔を隠していた両手を取られた。そして、両手をベッドに縫いつけられ、フィリの顔が近づいてきた。そして、言われた。
「じゃあ、お前は今から、その世界一かっこいい男に抱かれんだよ」
「!!!」
ちゅ、と、ゆっくり、挑むような目で、キスをされた。
僕のことを、食べようとしてるみたいな目で見られて、ドキッとしてしまう。そんな、そんな、と、フィリのヒューみたいなやらしい顔を見て、僕は、なんだかもう、どうにでもして、みたいな気持ちになった。
しかし、僕はつい、ちらっと、下の方に目をやってしまった。
そして、このきれいな顔のついたフィリから、想像もつかなかったものの存在を確認して、僕は一瞬で、涙目になった。
わかっている。僕だって相当な数のBL漫画を読んできた人間だ。
どうやら、|ア《・》|レ《・》は、色々あって、どうにか、入るらしい、という、人体の不思議は知っている。羽里が持っている漫画には、ペットボトル、だなんて表現されているのもあったはずだ。それに挑戦する果敢な受けが、たくさんいることも知っている。
もう一度、ちらっと見てみた。
流石に、ペットボトル、だなんていうことはない。でも、なんていうか、圧はすごい。存在感がすごい。フィリのだと思えば、愛おしいとも思える。あんなに、あんなになるくらい、興奮してくれてるのかと思うと、きゅん、と心臓も高鳴る。でも、それでも、ーーー僕は思った。
「は、入るわけない」
「………」
「そんな、性的なことなんて、全く興味なさそうな顔して。フィリにそんな…そんなものが…」
「………」
フィリは虚ろな瞳で、僕のことを見下ろしていたけど、怖がっている僕を見て、ちゅ、と頬に唇を落とすと、耳元で言った。
「お前じゃなかったら、こんな風にならない」
「〜〜っっ」
心臓がきゅうっとして、もう、フィリのことが好きで、好きで、どうにかなってしまいそうだった。どうにか覚悟を決めようと思ってたら、そんな間もなく、尻の穴に、固いものが当てられた。そして、ず、とそれが入ってくる。
「あっ うそっ ま、待って… あっ」
咄嗟に、ぎゅうっと、フィリにしがみつく。でも、フィリは止まってくれなくて、どんどん、体の中に、熱いものが押し入ってくる。確かに、圧迫感はある、でも、なぜか漫画で読んでたみたいに、すごく痛いわけじゃなかった。なんでだろ、と思ったけど、でも、それよりも、ーーー。
(……ふぃりの、これ……フィリのなんだ……)
「〜〜〜っっ」
そう思ったら、恥ずかしくて、恥ずかしくて、でも、うれしい気持ちが胸いっぱいに広がって、涙が溢れた。
「入ったよ」と、言いながら、フィリが、ちゅ、と、僕の頬に唇を落とした。僕がしがみついていた腕を、少しゆるめたら、優しそうな顔のフィリに、「ん?」と顔を覗かれた。
フィリの頬が、ちょっと、赤い。少し、汗もかいてて、その汗の一筋が、フィリの喉を伝って、流れた。その、フィリから溢れでる色気に、きゅんとして、それに連動するように、きゅうっと中をしめつけてしまった。
目の前の、フィリの眉間にしわがよって、フィリが、小さく「はあ」と、熱い息を漏らした。
(…あ……気持ちいいんだ……フィリも…)
そう思ったら、なんだか僕は、もう、フィリが、僕の目の前にいる人が、好きで、好きで、どうしようもない気持ちになって、堪えられなくなってしまった。大好きで、愛おしくて、本当に、大好きで、もう、だめだった。
ぎゅっと、フィリの首に手をまわして、ちゅ、と頬に唇を落とした。それから、一生懸命、伝えた。
「ふぃりの、入ってるの…うれしい」
「っっ」
「……ごめんね、、フィリ。今日は…今日は、フィリのこと、好きでもいい?…その、好きって、言っても、いい?」
感きわまって、我慢してたものが崩れてしまった。ぐすっと鼻を啜りながら、そう言ったら、フィリの優しい声が聞こえた。
「……うん。好きでいてよ」
フィリがそう言うのが聞こえたと思ったら、フィリの腰が動いて、一気につきあげられた。
熱い、固い、フィリの中心が、僕の内側をいっぱいにしていく。いっぱいで、フィリの形を生々しくかんじて、きゅうっと力が入ってしまう。
「ああんっ ふぃ、ふぃりっ」
「もう、待てない」
「っっ」
さっきまでのゆっくりなのとは違って、浅いところから、深くまで、揺さぶられる。足の指先までピンとはりつめて、全身が、性感帯になってしまったみたいだった。
(きもち、気持ちいい……)
だめだった。自分の体の中を、誰の、何が、揺さぶっているのか、考えるだけで、声が抑えられなくて。目の前にある、余裕のなさそうな顔。眉間に皺を寄せ、何かに耐えるみたいに、きれいな顔が、荒く息を吐いているのだ。いつものすました顔からは、想像もできない、その壮絶な色気に、僕はもう、見ているだけで、とろけてしまいそうだった。
「あ、 あ、あんっ こんなのっ 」
そして、ぐっぐっとフィリが腰を動かすたびに、さっきのすごく気持ちのいいところが擦られて、僕の口から「あっあっ」と、あられもない声が上がる。最奥を貫かれて、背筋がそりかえった。
「ひあああっ」
(絶対嘘。こんなに気持ちいいとか、絶対嘘…!)
フィリのペニスが、深く浅く、僕の中をこすりあげて、その度に、悲鳴みたいな声をあげてしまう。
あまりの気持ちよさに、だらしなく開いた口から、よだれが垂れる。手の指も、足の指も、ぴりぴり痺れて、つながった部分からの快感だけに、全部を支配されてしまいそうだった。
だと言うのに、もっとフィリとつながりたくて、もっと深くまで一緒にいたくて、もっと、もっと、て、腰が貪欲に動いてしまう。
「ふぃりぃぃ、だめ、気持ちいい。きもちいっ とけちゃう あっ あっ とけちゃうよぉ」
「ほんと…淫r……や、敏感だな」
「あんっ ちゅーして、ふぃり、い、いっちゃう で、でちゃう」
フィリの舌がぬるりと僕の唇を割って、入ってくる。
上も、下も、フィリに侵されて、僕の頭は、気持ちいいことしか考えられなくて、フィリのペニスが気持ちいいところを擦るたび、自分でも腰を揺らしてしまっているのがわかる。
(きもちっ ふぃりの、きもちいっ。好き。好き。幸せ。だめ、あ……だめ、もう)
「ん、 んぅ んんんーーーっ!!!」
フィリのペニスが、浅いところから、一気に奥までをこすり上げた瞬間、びくんっと僕の体が大きくしなって、僕のペニスから白濁が漏れた。びくっびくっと震えながら、全部を吐き出す。中にある、フィリのペニスをぎゅうううっとしめてしまったら、その大きさも、硬さも、形も、全部が伝わってきて、「ああっ」と、もう一度大きく震えた。
僕はもう、とけた。溶けたチョコレートみたいに、とろとろだった。
とけきった頭で、思ったことだけを、言った。
「……だめ、ふぃり、すき、好き、だいすき…」
「うん、知ってるよ」
噛みしめるみたいな、優しいフィリの声がして、僕の目から涙がこぼれた。その涙は、つーっと、フィリの舌で救われて、それから、ちゅ、と目尻に唇を落とされた。じゅぽ、と、フィリのペニスが抜かれるのがわかって、「ふあ」と、声を上げた。そして、ころん、と、うつ伏せにひっくり返され、ぽやんとした頭で、「…ん?あ?」と、振り返ろうとした。
が、後ろから覆い被さられて、耳元で、フィリがささやいた。
「じゃあ、その大好きな人がイクまで、付き合えよ」
そんな不穏な声が聞こえた時には、もうフィリに、体の奥深くまで、侵されていた。ずちゅっと濡れた音がして、パンッとぶつかる音がした。そのまま、すごい勢いで腰を打ち付けられる。
「ひあっ やああ! や、やだ! まだ、いま、いったば、ばっかりだからあっ」
「後ろからされんの好きだろ」
「ふぇ?!や、うそっ やだあっ ふぃり ふぃりっ あ、ああっ あああんっ」
よだれがシーツに垂れた。助けてほしくて、何かに縋ろうとして、シーツをぎゅっと握りしめたら、上からフィリの指が絡まった。きれいな手に、押さえつけられて、閉じこめられてるみたい。フィリの荒い息が耳元で聞こえて、頭の中まで侵されてるみたい。中を思いっきり擦られて、もう全部が、体の全部が、僕の全てが、フィリのものだった。
「ふぃりっ、ああっ だめっ だめっ またいっちゃう なんか へん! へんん」
「俺も、」
「だめ ふぃり らめ あっ あ、あ、あああーっ!」
「っ」
僕の頭はまっしろになった。目の前がちかちかした。
「あ あ あ あ」と、意味を成さない声を、ただ断続的にあげながら、僕は、びくっびくっと体を震わせた。
(うそ…せーえき…でてなっ これって……)
僕は背中を反らせたまま、目も口も大きく開いて、「あ、あ」と、ただのその強すぎる快感が、巡るのを感じていた。
フィリが、くっと息を止めて、最後にもう一度、最奥を貫かれた。
「ひやああんっ」
そして、ーーー。
「ノア、、」
耳元で、甘い、甘い声が聞こえた。
背筋が、震える。
じわっと熱い何かが、僕の中に広がったのがわかった。後ろにいる、愛しい人の、鼓動が、僕のそれと、重なった。
しばらくして、じゅぷっという恥ずかしい音が聞こえて、体の中から、フィリが出てった。それから、僕の横に、どさっと勢いよく、フィリが倒れてきた。
僕はもう、半分、夢の中だった。
僕は、重いまぶたをあけ、フィリを見つめた。
汗で張りついた前髪、まだ呼吸は荒くて、でも、ーーーその、優しそうな、慈しむみたいな、大好きな顔を見たら、きゅん、と心臓が跳ねた。そこにいるのは、フィリなのに、僕にはどうしても、ヒューにしか、見えなかった。
寝ぼけた頭で、そのまま、つい、口にしてしまった。
「ーーーすき、好きだよ、ひゅう…大好き」
「うん、知ってるよ」
噛みしめるみたいな、すごく柔らかいヒューの声が聞こえた気がした。ちゅ、と、優しくヒューの唇が触れたような気がした。あれ、ヒューだったっけ?と、うとうと、しながら、もう、ーーー。
僕にはもう、意識がなかった。
←↓←↑→↓←↑→↓←↑→
僕がぱちっと、目を覚ましたとき、まだ、朝の早い時間だった。
薄明るい、朝の白い光が、部屋を少しだけ明るくしていた。
横ではすうすう眠っているフィリがいて、僕はそっと、そのきれいな水色の髪を撫でた。さらりとした感触は、ヒューと一緒だな、と思う。それに、ヒューと一緒で、朝はすごく弱くて、起きない。フィリの寝顔を見ながら、思う。
「…生きてないわけ、ないよね」
自分に言い聞かせながら、言ってみたけど、ちょっと声が震えてしまった。
「ヒューだもんね」
きっと、大丈夫だと、もう一度思い直す。それと、もうひとつ、不安なことも。
(これって…浮気になるのかな……)
(でも、うれしかった…すごく幸せだったな…)
(あれ、、僕は前にもこんな朝を迎えたことがあった…?)
ズキッとまた頭が痛んだ。
そして、その時、ふと、思い出したのだ。ヒューに渡された小さな箱のことを。大切にとっておいてと、異空間収納袋に、ずっと、眠っているそれのこと。
ーーいいか、ノア。これは大切に持っておいてくれ。だけど、俺が行くまでは、絶対に開けるなーー
開けるなと言われたんだから、開けてはいけない箱のはずだった。
だというのに、僕は、一度考え出したら、止まらなくなってしまった。昨日は、一心不乱に走ってきたから、荷物も何もなく、全部置いてきてしまったのだ。「荷物取りにいかないといけないし」と、自分に言い訳をしながら、そっとベッドから抜け出した。ちょっと、体が気だるくて、重かった。でも、ーーー。
ちら、と、フィリを見て、多分、まだ全然起きないだろうな、と思う。そして、ベッドサイドのメモに、念のため、「フィリへ、すぐに戻るから ノア」と、一言書いて、僕は自分の宿へと向かった。
土曜日の朝早くだ。まだ街は、眠そうな気配で、人もちらほらいるだけだった。僕は、その朝の匂いのする街を駆け抜けて、自分の部屋に戻ると、異空間収納袋から、ヒューから渡された小さな箱を取り出した。
銀色の小さな箱には、とても繊細な蔦の模様が彫られている。ところどころ、薄い紫色のきれいな石が、はめこまれていて、朝の光に透かしてみたら、キラキラといろんな色に、輝いた。
(きれい…ヒューの色。何が入ってるんだろう)
もし、ヒューが生きていなかったら。もし、また会うことができなかったら。そんな不安がまた胸をよぎった。
それは出来心だったのだ。
僕は、大好きな人の残してくれたその箱に、何が入っているのか、知りたくなってしまった。「開けてはいけない」だなんて、玉手箱みたいだな、と少し思う。震える指先で、その留め金に、そっと手をかけた。
少し、怖くて、恐る恐るちょっとだけ開けてみる。煙は出ない。そして、中には、ーーー。
「指輪……?」
きれいな銀色の指輪。シンプルで、何も装飾がなかった。ただ、内側に、見覚えのある筆跡で、ユクレシアの文字が紡がれていた。
『永遠の愛を、ノアに』
ドクンッと、心臓を叩かれたみたいな衝撃があった。
僕は、ハッと息をのんだ。
驚きすぎて、しばらく、僕は動きを止めた。あんなに、違うって、嫌いだって言ってたのに、もしかして、もしかして、ーーー。
(ヒューも、、ヒューも、僕のこと、好きでいてくれたのかな……)
目頭が、熱くなる。ふうっと、湿った声がでた。
うれしくて、あったかくて、切なくて、好きで、好きで、好きで。
知っている筆跡。魔法陣を描いているヒューを見るたびに、ミミズみたいな字だなと、思ってた。あんまりきれいな文字ではないけど、それでも、丁寧に、描かれているのがわかる。
ぎゅうっと心臓が絞られたみたいな痛み。そして、走りすぎた時みたいな、詰まるような痛みがあって、それから、うれしさと、なつかしさと、大好きな気持ちと、それから、不安と。
どき、どき、と、心臓が、いつもより大きく鳴るのを感じながら、一つ一つ指にあててみる。
なんとなく、薬指にもあてて、少し恥ずかしくなった。サイズ的には、薬指が合いそうだけど、ユクレシアでも、指輪を送る慣習があるのかなあ、と、不思議に思う。
(つけてみても…いいのかな…)
そして、その指輪をつけた瞬間、ーーー。
カチリと頭の中で、鍵が開くような音がした気がした。
僕が、「え?」と思ったのも束の間、オーロラみたいな色の、美しい光の筋がくるりと僕の体を囲み、一気に頭の中に注がれた。その光の筋を見て、「ヒューの魔法だ…」と思いながらも、僕は、その光の奔流に飲みこまれ、そして、ーーー。
「え、え、わ、わあ、あ、あ、あ、あ、あ、う、うわああああ」
ともだちにシェアしよう!