次々と真っ白なワンピースが運ばれていくのを見てた。 　気に入ってたカップや、スリッパはいらないらしい。必要なのは、ワンピース、靴、バッグ、アクセサリー。金魚は？　と聞いたら、曖昧な笑顔で濁された。いらないらしい。たまに帰ってきた時には、可愛いわね、とよく声をかけてたのにな。 　引越し作業中はドアを開け放しにしているからクーラーをつけられない。暑さに耐えかねた彼女は、じゃあ私はもう行くわね、と僕に言った。僕はうなづく。 　部屋から彼女の荷物だけを運び出し終えた引越し業者が、少し気まずそうに僕に話しかけてきた。 「ええと、本当は、その・・・妹さん？　のサインの方がいいんですが」 「ああ、さっき、先にタクシーで引越し先に向かいました。苗字は同じなので、僕でもいいですか？」 「あっ　ハイ、助かります」 　サインしながら、気づいた。ああ、気まずそうなのは、彼女が僕の恋人だと思っているからか。僕が捨てられたと思って、気を回して妹だと言ったんだな。僕は言う。 「でも、妹でも彼女でもなく、母ですよ」 「えっ」 　驚かれるのはいつものことなので気にならないけど、今回ばかりは母の若い外見に驚かれたんじゃなく、やっぱり僕が捨てられることに驚かれたのかもしれないなあ。 　引越し作業が終わり、お礼を言ってドアを閉めると、限界がきた。僕は玄関にしゃがみ込む。 　母さんが家を出ると言ったのは三日前だ。小学校に上がった頃から母さんが家に帰ってくるのは三日に一度で、中学に上がると月に一度になり、高校になると殆ど帰っては来なくなった。父さんの顔は知らない。母さんはずっと誰かの愛人をしていて、僕の生活費も学費もその人から出ているらしい。だから、僕がひとりで生活ができるまでかろうじて僕のそばにいた母さんは、親切だったと言えるだろう。大人たちは僕を見捨てはしなかった。ただ、さほど気にもかけなかったというだけで。 「うう・・・」 　さみしくて、悲しくて、僕はうなってるんじゃなかった。 　さっきから、お尻の穴に入れたままのアナルプラグが気持ちよくて仕方ないからだ。僕の趣味はお尻でオナニーをすることだ。今も、とうとう母さんが出て行ってさみしい気はするけど、お尻でいってしまえば、気分が安らぐことを僕は知っている。一度で収まらなければ、もう一度やればいい。ひとりの長い夜が辛ければ、朝までやればいい。どうせそのうち朝はやってくる。 「ん、んん」 　犬みたいにずるずるとお尻を床に擦り付けて、体に一気に駆け上がってくる快楽に身を委ねようとした時だった。 「すいませーん！　やっぱりドレッサーも引き上げたいと妹さんから連絡がありましてー！」 　だから、妹じゃないって。ええと、何？　ドレッサーも持っていく？　仕方なく僕はドアを開ける。再びどかどかと業者が家に上がってきた。寝室にあるドレッサーまで案内すると、困り顔で業者が相談しだした。ドレッサーは一部解体しないとドアから抜け出せないらしく、手こずりだした業者に僕は焦って言った。 「すいません、少し用事があって、家を出ます。すぐ戻るので、鍵は開けたままで結構ですから」 　僕は足早にマンションの部屋を出る。このままじゃ勝手にいっちゃう。やばい。どこに行こう。ぐるぐると思考を巡らせる。ひとりになれる場所って？　屋上、公園のトイレ、ネットカフェ？　だめだ間に合わない。 　重めのドアを開けてマンションの非常階段に出た。隅っこにしゃがみ込むんで、僕は下着の上から指を局部に当てた。 「ふう・・・」 　なかに入っているアナルプラグをぐりぐりと押し込む。ああ、もう、もっと、ゆっくり、いきたかったけれど、早くいっちゃわないと、部屋の鍵が開けっぱなしだ・・・。 「誰がひとりでイっていいって言った？」 「えっ」 　突然、背後から声をかけられて、驚いて振り向く。顔を見て、何か言おうとしたら、大きな手で口を塞がれた。 「む、ぐぅ・・・」 　塞がれた手を剥がそうと、両手で掴んで力を込めるけれどもわずかも動かない。なん、なんで、なんでこの人が僕にこんなひどいことをするんだろう？ 　背中から体重をかけてのし掛かられて、僕はたまらず膝を折る。ぴったりと彼のお腹と僕の背中がひっついて・・・、こんな状況で僕は馬鹿みたいなんだけど、彼の存在がすごく懐かしくて、多分、ちょっと、嬉しかった。 「んっ　んっ」 　でも、どうして突然こんな乱暴なことをされるのかも分からないし、さっきから一言も発さない彼が本当に怖くて、僕はもがいた。 「んっ　あっ？」 　彼の手が僕の股間に触れた途端、恐怖に縮こまっていたはずの僕は急に熱くなって、視界がぐにゃりと歪んだ。身体中の感覚がざわざわし出して、凄い気持ちいいのが体の中を駆け上がってきた。えっ　何これ、何これ。 　下着に手をかけられて、お尻をむき出しにされる。 　お尻の奥を指で押さえつけられたせいでアナルプラグが刺さって、痛いのに気持ちよくて体が勝手にのけぞった。何が何だかわからないうちに、僕はずっと我慢していた快楽の波にわずかも抗えず、いやらしい声が漏れた。あっという間に僕はいってしまった。 　ずるりと、僕がお尻の奥に入れてたアナルプラグが掻き出され、準備がいいなあ、と笑われた。僕はぺたりと非常階段の冷たい金属の床に座り込む。僕から垂れた液でできたシミを見て、人前でいってしまった恥ずかしさに体がぶるぶると震えて止まらなかった。 　僕は振り返り、何年かぶりに名前を呼んだ。 「陽流(ハル)ちゃん・・・なんでこんなことするんだよう」 　ハルちゃんが、楓？　と僕の名前を呼んだ。 「・・・ごめん！　無理やり後ろから犯して欲しいって依頼だったから、依頼者と間違えた。今、LINEを確認したら、やっぱり怖いからやめとくって返事が入ってた！　本当にごめん、楓、痛くなかったか？」 　非常階段でへたり込んだままの僕を覗き込み、ハルちゃんが本当に申し訳なさそうに僕に謝る。優しげな顔に穏やかな声をした、僕の知ってるハルちゃんだ。 　ごめんね、はいこれ、と返されたアナルプラグを僕は慌ててポケットにしまった。ハルちゃんは僕の奇行にはひとつも動じずに、きっとひどい顔をしているだろう僕に優しく声をかけてくれた。 「どうしたんだ、楓。何かあったのか？」 　僕はぐっと言葉に詰まる。何かって、何から話せばいいんだろう。非常階段でこっそりオナニーしようとしていたこと？　アナルプラグなんて日常的に入れていること？　ずっと泣きそうなこと？ 　僕は、とりあえず、今日あった大きな出来事だけを口にした。 「母さんが、出て行ったんだ」 「霧子さんが？　・・・そっか」 　僕の家の事情を少なからず知っているハルちゃんはしんみりとして、僕の背中を撫でてくれた。僕はその手の温もりで、さっき僕に乗っかってきたハルちゃんを思い出して震え上がったり、さっきの犯して欲しいって依頼だったとか話してなかったけ？　とか、ああ、でも、久しぶりのハルちゃんだなあ、とか、忙しく思った。 　次々と真っ白なワンピースが運ばれていくのを見てた。 　気に入ってたカップや、スリッパはいらないらしい。必要なのは、ワンピース、靴、バッグ、アクセサリー。金魚は？　と聞いたら、曖昧な笑顔で濁された。いらないらしい。たまに帰ってきた時には、可愛いわね、とよく声をかけてたのにな。 　引越し作業中はドアを開け放しにしているからクーラーをつけられない。暑さに耐えかねた彼女は、じゃあ私はもう行くわね、と僕に言った。僕はうなづく。 　部屋から彼女の荷物だけを運び出し終えた引越し業者が、少し気まずそうに僕に話しかけてきた。 「ええと、本当は、その・・・妹さん？　のサインの方がいいんですが」 「ああ、さっき、先にタクシーで引越し先に向かいました。苗字は同じなので、僕でもいいですか？」 「あっ　ハイ、助かります」 　サインしながら、気づいた。ああ、気まずそうなのは、彼女が僕の恋人だと思っているからか。僕が捨てられたと思って、気を回して妹だと言ったんだな。僕は言う。 「でも、妹でも彼女でもなく、母ですよ」 「えっ」 　驚かれるのはいつものことなので気にならないけど、今回ばかりは母の若い外見に驚かれたんじゃなく、やっぱり僕が捨てられることに驚かれたのかもしれないなあ。 　引越し作業が終わり、お礼を言ってドアを閉めると、限界がきた。僕は玄関にしゃがみ込む。 　母さんが家を出ると言ったのは三日前だ。小学校に上がった頃から母さんが家に帰ってくるのは三日に一度で、中学に上がると月に一度になり、高校になると殆ど帰っては来なくなった。父さんの顔は知らない。母さんはずっと誰かの愛人をしていて、僕の生活費も学費もその人から出ているらしい。だから、僕がひとりで生活ができるまでかろうじて僕のそばにいた母さんは、親切だったと言えるだろう。大人たちは僕を見捨てはしなかった。ただ、さほど気にもかけなかったというだけで。 「うう・・・」 　さみしくて、悲しくて、僕はうなってるんじゃなかった。 　さっきから、お尻の穴に入れたままのアナルプラグが気持ちよくて仕方ないからだ。僕の趣味はお尻でオナニーをすることだ。今も、とうとう母さんが出て行ってさみしい気はするけど、お尻でいってしまえば、気分が安らぐことを僕は知っている。一度で収まらなければ、もう一度やればいい。ひとりの長い夜が辛ければ、朝までやればいい。どうせそのうち朝はやってくる。 「ん、んん」 　犬みたいにずるずるとお尻を床に擦り付けて、体に一気に駆け上がってくる快楽に身を委ねようとした時だった。 「すいませーん！　やっぱりドレッサーも引き上げたいと妹さんから連絡がありましてー！」 　だから、妹じゃないって。ええと、何？　ドレッサーも持っていく？　仕方なく僕はドアを開ける。再びどかどかと業者が家に上がってきた。寝室にあるドレッサーまで案内すると、困り顔で業者が相談しだした。ドレッサーは一部解体しないとドアから抜け出せないらしく、手こずりだした業者に僕は焦って言った。 「すいません、少し用事があって、家を出ます。すぐ戻るので、鍵は開けたままで結構ですから」 　僕は足早にマンションの部屋を出る。このままじゃ勝手にいっちゃう。やばい。どこに行こう。ぐるぐると思考を巡らせる。ひとりになれる場所って？　屋上、公園のトイレ、ネットカフェ？　だめだ間に合わない。 　重めのドアを開けてマンションの非常階段に出た。隅っこにしゃがみ込むんで、僕は下着の上から指を局部に当てた。 「ふう・・・」 　なかに入っているアナルプラグをぐりぐりと押し込む。ああ、もう、もっと、ゆっくり、いきたかったけれど、早くいっちゃわないと、部屋の鍵が開けっぱなしだ・・・。 「誰がひとりでイっていいって言った？」 「えっ」 　突然、背後から声をかけられて、驚いて振り向く。顔を見て、何か言おうとしたら、大きな手で口を塞がれた。 「む、ぐぅ・・・」 　塞がれた手を剥がそうと、両手で掴んで力を込めるけれどもわずかも動かない。なん、なんで、なんでこの人が僕にこんなひどいことをするんだろう？ 　背中から体重をかけてのし掛かられて、僕はたまらず膝を折る。ぴったりと彼のお腹と僕の背中がひっついて・・・、こんな状況で僕は馬鹿みたいなんだけど、彼の存在がすごく懐かしくて、多分、ちょっと、嬉しかった。 「んっ　んっ」 　でも、どうして突然こんな乱暴なことをされるのかも分からないし、さっきから一言も発さない彼が本当に怖くて、僕はもがいた。 「んっ　あっ？」 　彼の手が僕の股間に触れた途端、恐怖に縮こまっていたはずの僕は急に熱くなって、視界がぐにゃりと歪んだ。身体中の感覚がざわざわし出して、凄い気持ちいいのが体の中を駆け上がってきた。えっ　何これ、何これ。 　下着に手をかけられて、お尻をむき出しにされる。 　お尻の奥を指で押さえつけられたせいでアナルプラグが刺さって、痛いのに気持ちよくて体が勝手にのけぞった。何が何だかわからないうちに、僕はずっと我慢していた快楽の波にわずかも抗えず、いやらしい声が漏れた。あっという間に僕はいってしまった。 　ずるりと、僕がお尻の奥に入れてたアナルプラグが掻き出され、準備がいいなあ、と笑われた。僕はぺたりと非常階段の冷たい金属の床に座り込む。僕から垂れた液でできたシミを見て、人前でいってしまった恥ずかしさに体がぶるぶると震えて止まらなかった。 　僕は振り返り、何年かぶりに名前を呼んだ。 「|陽流《ハル》ちゃん・・・なんでこんなことするんだよう」 　ハルちゃんが、楓？　と僕の名前を呼んだ。 「・・・ごめん！　無理やり後ろから犯して欲しいって依頼だったから、依頼者と間違えた。今、LINEを確認したら、やっぱり怖いからやめとくって返事が入ってた！　本当にごめん、楓、痛くなかったか？」 　非常階段でへたり込んだままの僕を覗き込み、ハルちゃんが本当に申し訳なさそうに僕に謝る。優しげな顔に穏やかな声をした、僕の知ってるハルちゃんだ。 　ごめんね、はいこれ、と返されたアナルプラグを僕は慌ててポケットにしまった。ハルちゃんは僕の奇行にはひとつも動じずに、きっとひどい顔をしているだろう僕に優しく声をかけてくれた。 「どうしたんだ、楓。何かあったのか？」 　僕はぐっと言葉に詰まる。何かって、何から話せばいいんだろう。非常階段でこっそりオナニーしようとしていたこと？　アナルプラグなんて日常的に入れていること？　ずっと泣きそうなこと？ 　僕は、とりあえず、今日あった大きな出来事だけを口にした。 「母さんが、出て行ったんだ」 「霧子さんが？　・・・そっか」 　僕の家の事情を少なからず知っているハルちゃんはしんみりとして、僕の背中を撫でてくれた。僕はその手の温もりで、さっき僕に乗っかってきたハルちゃんを思い出して震え上がったり、さっきの犯して欲しいって依頼だったとか話してなかったけ？　とか、ああ、でも、久しぶりのハルちゃんだなあ、とか、忙しく思った。 「あ！　部屋に戻らないと」 　部屋の鍵が開け放しだったことを思い出して、僕はズボンをずりあげて部屋に向かう。ハルちゃんが心配そうに後ろからついてきた。 　玄関は鍵がかかっていて入れなかった。首をひねる僕にハルちゃんが言う。 「オートロックだから間違えて閉められたんじゃないか？」 「あ、そっか・・・」 　ポケットを探っても、アナルプラグしかない。さっきは慌ていて鍵のことをすっかり忘れていた。管理人室に解錠を頼みに行くと代理の人しかいなくて、そのうえハルちゃんの顔を見ると血相変えて怒り出した。またあんたか！　とか、ここで商売するな！　とか言われて何故か僕も一緒にマンションから追い出された。ええ・・・。 　ばつが悪そうにしているハルちゃんに、母さんに連絡がつけば大丈夫だから、とフォローしつつも、僕は携帯電話すら持ってない。仕方ないな、僕の顔を知っている管理人さんが帰ってくるまで待つか・・・。 「楓、家に来る？」 「え？」 　ハルちゃんにそう言われて、気づいたら僕はうんと頷いていた。