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eat around -3-

 まさに旅館という名に相応しい部屋にはすでに布団が敷いてあった。早々に入浴だけ済ませ、テーブルへソラマチや仲見世で購入したものと酒を並べて飲み始める。  言われた通りに冷めた揚げまんじゅうも美味しくてほっこりした。  楽しい時間はあっという間に過ぎるとよく言ったもので、今日は本当に楽しかったな、と思う。  酔いも適度に回り始めた頃合いを見て葛城がテーブルの上を片付け始めた。 「せっかくだし、明日の昼飯もこの辺で食べてから帰りましょうか」 「んー」 「ほら、神谷さん。布団はすぐそこなんで」 「うーん」  寝てしまうのがもったいなくて唸っていたら、テキパキと片付けを終えた葛城はさっさと布団に潜り込んでしまう。 「なんだ、つめたいやつだな」 「神谷さんより早く起きてるんで早く眠くもなりますよ」  勝手に迎えに来たくせに、と電気を消してから倣って布団に入ろうとしてふと気付く。 「……葛城」 「なんですか」 「……一人で寝るのか」 「……社員旅行の代わりだって言いましたよね」  こちらに背を向け布団に潜る葛城の声はこもっているけれど、眠気などないことはわかる。 「代わりとは言われてないな」  そっと近付いて布団の上から覆い被さると葛城はゆっくり仰向けになった。 「俺は葛城といつもと違うことが出来るのが楽しみだった。お前は違うのか」  ずっと言葉にせずにいたことを小さく呟き、ぽすんと倒れ込む。 「嫌ならいい。俺は……最近あまり二人の時間が取れなかったから……」 「――っ……もうっ」  勢いよく葛城が起き上がったことで神谷は横に転がった。そのまま体を押さえつけられ期待に甘い息をつく。 「あんたを楽しませるのが目的だったのに、最後の最後でやったら意味無いでしょうが」  だからタチが悪いんだ、と鼻をつままれ早く寝ろと言われても納得は出来なかった。  鼻をつまむ手に触れて握りしめる。  好きな手だと思う。 「二人でいるのに何もしないで寝るなんて、もう俺には出来そうにない」  音を立てて手に唇を押し付けるとびくりとして引っ込められたのを機に、起き上がり逆に押し倒してやった。 「ちょっと、なにを……」 「葛城は寝てればいい」 「は? いや、待てよ。おい、待てって……」  口では拒否しているがなすがままなあたり、本心から嫌がっているわけではないだろう。  部屋に置いてあった浴衣を着ているため脱がせる手間はほぼない。  上半身を軽く起き上がらせた葛城の裾から手を差し入れ下着に手をかけた。 「……それ、脱がせて何するつもりなの」 「……いつも、お前が、してること」  まだ兆していないそこに触れながらもたれかかればしっかりと腕がまわされ抱きしめてくれる。 「もし、社員旅行だったらどうしてたんだか……」  ため息混じりに髪にキスをされ、そこじゃないと唇を奪った。  いつぶりだろう。柔らかく触れては離れ、優しすぎる口付けに、ただ添わせたままだった手を動かしねだる。  まわされた腕と、唇と、手の平の中のものが同時に跳ねたのをきっかけに舌が入ってきた。 「んっ……ふ……」  徐々に硬くなる感覚だけで胸がいっぱいになり、気持ちのいいキスに頭がぼうっとしてくる。 「なぁ……そんなに、俺に抱かれたいの……?」  葛城の息も熱くなってきていた。 「……俺のために頑張ってくれたから、俺も返したいんだよ」  ただしたいだけではない。  ゆるゆると扱きながらそこに顔を近付ける。  自分が能動的になればなるほど葛城が悦ぶと知ったのはいつだっただろう。  体の繋がりを求めることに羞恥を感じなくなったのも、いつからだっただろう。  届く葛城の微かな声に自身も下腹部あたりが落ち着かなくなってくるのはあっという間だった。  ゴソゴソと自ら下着の中に手を入れ扱いていると、気付いた葛城が起き上がり手を伸ばしてくるが制止する。 「されてばかりなのは性にあわないんだけど」 「返したいって言ったじゃないか」 「楽しませたいって言っただろ……敦宏」  行為のときにしか使わない呼び方をこのタイミングでするのは狡いと思う。  甘い声で呼ばれてしまったら、拒否が出来なくなってしまうから。  おずおずと伸ばされた手を掴み握りしめる。好きだなぁと実感して感触を確認してから指先を口に含んだ。  唾液を絡ませ、先程まで咥えていたものを愛撫していたようにしゃぶると、暗闇に慣れてきたらしい視界に見える葛城の欲情しきった表情。  もう期待しかなかった。  充分に濡れた指先から口を離し、下着を脱ぎ捨て浴衣の裾をたくしあげながら唇を合わせる。しっかりと勃ち上がった性器へぬるりとした感触と包まれる感覚が与えられて、腰がびくりと動いた。  重なる唇の微かな隙間から漏れる声はいやらしく、より気分が高まっていく。  腰を引き寄せられて性器から奥へと手が移動して思わず葛城の頭を抱え込むと、そのまま位置をずらして乳首を舐められた。 「あっ……んぅ……」 「……あれ、なんか柔らかい……」 「んっ……風呂、入ったときに……準備、した、から……」 「……やる気満々だったんだ……? ヤラシイ」  嬉しそうな棘のある口調で笑われるのも、気持ちのいい刺激にしかならない。  いつもよりも滑りが悪い分、指の動きが鮮明に伝わってきて、堪らず腰が揺れてしまうがどうしようもなかった。 「健人……けん、とっ……もう……っ」 「ん? なに?」  意地の悪い問いかけに悪態をつく余裕もなく、乳首を嬲る葛城の両頬を掴んで無理やり舌をねじ込み乱暴にキスをする。 「もう、いれたい……」  少し触れられただけの性器の先端からは先走りが溢れ、はだけた葛城の腹部にぬめりを塗り広げていた。  同じく硬く反り立つ葛城のものに手を添えると察したのか指先が中から離れていく。ゆっくりとあてがい少しずつ体重を利用して腰を降ろしていくが、やはりきつかった。 「いいこと教えてあげようか?」 「ふ……はぁっ……いい、こと……?」  必死に太いそれを中へと導いているせいで頭が上手くまわらない。  行為中とは思えない程に優しく頬を撫でられ耳元を擽られた。 「……俺も、一緒に旅行に行けること、楽しみにしてたよ」 「――えっ……えっ? あっ、んんっ」  驚きと喜びにふわっとした感覚がして気を抜いた瞬間に下から突き上げられて一気に怒張が入り込んで来る。  震える体を抱きしめられながら衝撃をやり過ごそうとしても、久しぶりの快楽を逃せず性器を腹部に擦り付けて更なる快感を貪ろうとしていた。 「せっかく純粋に社員旅行ごっこをしてやろうと思ったのに、台無しにしてくれちゃって」  奥まで入り込んだまま動かないことに焦れて自ら揺すり始めると、葛城の表情が歪む。 「だって、ずっと、おまえに触りたかった」  毎日会社で顔を合わせるからこそ、募る恋人としての触れ合いたいという思いが零れていった。  楽しみにしていた旅行を疑似体験させてやろうだなんて、実にロマンチックな考えだと思う。自分には浮かばない発想だ。それが余計に嬉しくもあり、愛おしくもあり、ふわふわと浮き足立ってしまう。 「俺も……健人に返したいから……」  気持ち良くなって欲しいと伝え懸命に動いていたが、しばらくすると性器に触れられ布団へと倒された。 「や、なんで……」 「頑張ってもらうのもいいけど、やっぱり俺にされて蕩けた顔してんのが一番イイんだよね……」 「あっあっ」  体勢が変わりされるがままに奥を突かれ、同時に性器を扱かれてしまえば射精感があっという間に迫ってきてしまう。  まだ達したくないと頭を振っても容赦なく攻め立てられてすぐそこまでやってきたタイミングで解放される性器。 「俺がいくまで我慢して……」 「はっ……あ……むり、むり……」 「返したいって言ったの敦宏だろ……?」 「いった、言った、けど……んんっ」  絶頂間近の快楽が続くことがこんなにも怖いものだとは葛城と出会うまで知らなかった。  性器への刺激なしに達したことはなく、その先を知りたいと思う気持ちがないわけではないが、まだ怖さの方が強くて涙が溢れてくる。 「やだ、やだ、もういきたいっ」 「ふっ……ワガママ」  耳元へ唇を寄せられ数回性器を擦り上げられたらもう無理だった。  吐精している間も腰を止めない葛城に文句のひとつでも言ってやりたいのに、言葉を発しようとしても出てくるのは嬌声でしかなくて、気持ち良くて苦しいのに嬉しくて幸せで、感情はぐちゃぐちゃだ。 「はっ……いきそ……」  間もなく葛城がそう呟き、中のものが一際硬くなったことがわかる。 「――っ……ゴム、してないから抜……」 「いやだ、その、まま……あっあっ」 「ちょっと、何言って……」 「なか、中に、出していいから、抜くな」  自分でもとんでもないことを言っている自覚はあったけれど、どうしても欲しくなってしまったのだから仕方ない。  いつもよりもはっきりとわかるこの感覚のまま、出されたらきっと。  足を体に巻き付けぐっと密着度が上がり、葛城が息を詰めた。  大きく脈打ちぶわりと熱いものが広がっていく中、堪えきれなかったようで小さく葛城が喘いだ。 「っ……はぁー……あんたはほんとにさぁ……」 「んっ……はは、すごい不思議な感覚だ」 「……初めて中出しさせられたわ……」 「そうなのか?」 「……あんたってたまにものすごく失礼だよね」  呆れたような葛城に後始末をされ、わざと敏感な場所を探られ再び体を重ねることになるのはあと十数分後。  体はクタクタでも心は存分に満たされ、心地の良い眠りについた。  夜をゆっくり楽しみすぎて朝食はバタバタとしてしまったけれど、その代わりに昼食はしっかりとお高いすき焼きを堪能し、その後も浅草の町を軽くぶらつき早めの帰路に着いた。  明日から再び仕事に追われる日々になる。  たった一日、されど一日。  日常の中で作り上げた非日常の旅路。  旅行というものは距離など関係なく、近場でも十分楽しめるものだと知ることが出来ただけでも今日は充実した一日だったと思う。  けれどまた機会を作ってどこかへ遠出するのもいい。  二人が楽しめるのであれば、それだけで。

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