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第2話
×××
冬の気配を感じる、冷たい空気。
吐いた息が、白く見えるよう。
首に巻いたマフラーを鼻先まで持ち上げ、教室のドアを開ける。
「……」
少しだけ緩んだ空気。冷えた僕の頬や指先が、じんわりと温かくなったような気がする。
各グループに分かれてお喋りをする女子。特に何処と連む訳でもなく、各々好きな場所で好きなように楽しんでいる男子。
その溢れる活気が、僕の心を和ませつつも、緊張もさせる。
無言で自席に辿り着くと、持っていた鞄を机の横に掛け、コートを脱ぐ。
教室の後ろで何やら楽しげに喋っている、数人の男女グループ。その中に、ガタイの良い今井くんがいた。
「………あ、あの……」
左胸に手を当てた後、意を決し、その背中に話し掛ける。
その刹那、高まっていく緊張。ドクドクと心臓が暴れ出す。
あんな別れ方をしてから、今井くんと関わる事なんてなくて。ましてや、自分から話し掛けるなんて事、今まで無かったから……
「……」
今井くんが、ゆっくりと振り返る。
その近くには、佐藤さんと石田さんもいて。僕の存在に気付いた石田さんが、鋭い目つきで僕を睨みつけてくる。
「何だ?」
ぶっきらぼうな言い方。
僕を、突っぱねようとしているのが解る。
「………今日のお昼休み、一緒にご飯……食べてもいい……?」
「……」
僕の言葉に、今井くんの両目が見開かれる。
「おいおい、何だよ白石」
「気軽に話し掛けてくんじゃねーよ、カマ野郎」
「……カマ?」
男子達の野次に反応した佐藤さんが、驚いた声を上げる。
「ああ。……前にな、猛 が冗談でコイツの胸揉んだら、カンジた顔してアソコおっ立ててたんだぜ」
「……えー、ヤダ。変態」
男子の言葉に、石田さんが軽蔑した言葉を被せる。
「……」
ズキン……
居心地が悪くなって、俯く。
揶揄 われるのは、慣れてる。慣れてるけど──
手の指先が、痺れて止まらない。
「それに、俺見ちゃったんだよね。この前の文化祭で、白石がリーマンと──」
「──っ、せぇな!!」
突然響く、今井くんの怒号。
一瞬で、その場がしん…と静まる。
緊迫した空気。
揺れる視界に映る、今井くんの左手。その手が強く握られ、怒りで震えていた。
「変態?……お前らだって、おッ立ててただろうが。忘れもしねぇぜ。大空を捕まえて、佐藤のおっ──」
「あー、てめぇ今井!」
「今井ぃー!」
「黙れ、今井!」
わっ、と男達が今井くんに飛び掛かり、次の言葉を阻止しようとする。
視線を上げて見れば、今井くんはいつもの表情をしていて。
「………はぁ……これだから男は……」
腕組みをし、事の成り行きを俯瞰していた石田さんが、軽蔑した眼差しを男達に向けていた。
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