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第3話
×××
昼の非常階段。
ここは文化祭の日、今井くんに手を引かれて来た場所。少し下りた日の当たる場所に、横並びになって腰を掛ける。
柔らかな陽射しは温かいものの、風が吹く度に熱を奪われ、ぶるっと身体が震える。
「……流石に、もう寒ぃな」
「うん……そうだね」
距離が近いせいか。ふわりと鼻を擽る、今井くんの匂い。懐かしい感覚。
「これ、良かったら……食べて」
手提げからお弁当を取り出し、蓋を開ける。
大きめのタッパーに敷き詰められたのは、唐揚げ、厚焼き卵、たこさんウインナー、そしてポテトサラダ。
「……美味そうだけど……凄ぇ量だな。遠足かよ」
「はは……やっぱり、そうだよね。
今井くんの事を考えてたら、いっぱい作り過ぎちゃって……」
ラップで巻いたおにぎりを渡し、照れた笑顔を俯いて隠す。と、今井くんが身体を寄せ、じっと僕の顔を覗き込む。
「………え」
驚いて見上げれば、思いの外その距離が近くて。
不意に触れられる頬。大きくて……酷く、優しい手。
「……」
俯こうとすれば、それを許さないと顎をクイと持ち上げられる。
「無自覚すぎだろ、実雨」
「……」
「お前、俺が一生懸命諦めようとしてんの、解ってんのかよ。……いちいち煽るような事、しやがって」
「………え」
「んな無防備にしてっと、キス……しちまうぞ」
「……」
言葉のトーンとは裏腹に、向けられた瞳が真剣で。不覚にも、ドキッとさせられる。
それを払拭し、目を伏せ、顔を背け……今井くんの手から逃れる。
「………だめ、だよ……そんな事……」
そういうつもりで、ここに来た訳じゃない。
声を掛けたのは……少しでも、今井くんとの関係が修復できたらいいなって。……大空がいた頃みたいには、いかないとしても。
「……」
でも、やっぱり無理だったのかも。
こんな事をしたって、今井くんを困らせてしまうだけなのに……
「解ってるよ、んな事は。
……で、何だよ。俺に何か話したい事でもあるんだろ?」
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