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第4話

ぶっきらぼうな声。 そう言った今井くんが、タッパーの中を覗き込み、卵焼きを一切れ摘まんで口に放り込む。 「………え」 戸惑う僕に軽く溜め息をつきながら、今度は楊枝の刺さった唐揚げを拾い上げる。 「あのオッサンとは、上手くいってんのか?」 唐突な質問。 そう言った口が大きく開き、ひと口でその唐揚げを頬張る。チラッと僕を横目で見ながら。 「………うん」 答えながら、まだラップに包まれたままのおにぎりを両手で包み込む。 思い出されたのは──雨の降りしきる中で迎えた、文化祭最終日。 教室にいた数人の売り子達が、ぞろぞろと教室を出て行き……その後すぐ、スーツ姿の樹さんが現れて…… 「………ありがとう、今井くん。 あの時、今井くんが……僕と樹さんを、二人きりにさせてくれたんだよね?」 「……」 「僕、今井くんには酷い事ばかりしてきたのに……今井くんは僕の為に、色々してくれて。 ……なのに僕、今井くんから貰うばっかりで……全然、何にも返せてなくて。 色々考えて………考えたんだけど。こんな事しか、思い付かなくて──」 「……」 徐に、今井くんが空を仰ぐ。 つられて僕も見上げれば、そこには綿をちぎったような白い雲が、薄青の寒空にふわふわと浮かんでいた。 「ちゃんと、貰ってるよ」 「……」 「実雨と付き合ってる時も、別れた後も……な」 「………え」 驚いて今井くんを見れば、今井くんは既に、僕を見ていて。 その瞳は何処か優しげで、憂いでいて、照れ臭そうで。少しだけ泳いだ後、また空へと向けられる。 「──兄貴に言われたんだよ。 本当に好きなら、ソイツの幸せを願ってやれって」 「……」 「今までの俺だったら、受け入れられなかったかもな」 今井くん…… その横顔が、夏に見た時とは違って、大人びて見える。 「……」 もう、僕の知っている今井くんは、ここにはいない。しっかりと前を向いて、先へと進んでるんだ。──そう思ったら、あの頃の今井くんが懐かしくて、ふと、切なさが込み上げる。

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