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第5話
「今まで、悪かったな。
お前に気持ちが無いの解ってて、強引に俺のオンナにして。
実雨を傷つけて、辛い思い……させちまってよ」
今井くんを映す瞳のスクリーンが、次第にぼやけていく。
瞬きする間もなく、溢れてくる熱いものが次々と零れ、頬を濡らす。
「……」
そんな事、ない……
今井くんは、優しいよ。
優しすぎるよ……
……僕には、勿体ない位に……
「………おい、泣くな」
僕の異変に気付いた今井くんが、慌てて僕に手を伸ばす。
涙で濡れた頬を拭う……武骨な指。
間近で合う、瞳と瞳。
その間を、冷たい冬風が吹き抜ける。
「……」
………ああ、終わったんだ。
今井くんとは……もう……
そう、感じずにはいられなかった。
鋭く真っ直ぐに向けられた、今井くんの瞳の中に──もうあの日の熱情は、何処にも見当たらない。
それに酷くホッとしながらも、何処か感傷的な気持ちにもなって。
涙で潤む瞳を、少しだけ揺らす。
「………ねぇ。今井くん」
ゆっくりと瞬きをし、深呼吸をする。
それに答えるかのように、真っ直ぐ僕を見ながら、今井くんの瞼が僅かに持ち上がる。
「……時々でいいから。
またこうして……一緒にお喋りしたり、お昼食べたり……しても、いいかな……?」
そう言い切った後、不安に苛まれて揺れていた瞳を、真っ直ぐ今井くんに向ける。
……こんなの、許される筈ない。
一度離れていった人は──もう二度と
戻ってこないんだから……
そう何処かで諦めながらも、何も無かった事にはしたくなくて。
友達にはなれなくても──目が合った時、挨拶を交わせる程度の関係では、いたくて──
「だったら。今度から皆で飯食おうぜ」
「………え」
柔らかな溜め息の後、瞳を緩めた今井くんが、真剣に答えてくれる。
それは、予想もしていなかった言葉で。頭の中が処理できずに、パニック状態になる。
「今朝はあんな感じになっちまったけど。根はいい奴等だから。
その内アイツらも、実雨の魅力に気付くだろ」
「……」
一体、何が起きたんだろう。
動揺する僕の頭に手を乗せ、今井くんが優しくよしよしする。
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