1 / 164

第一章 掃除機、無いんですか!?

 北條 真(ほうじょう まこと)は、困惑していた。  もう30代も半ば、滅多なことでは取り乱したりしないαの男が、だ。  端正な顔の眉間をひそめ、インテリジェンスパーマの髪に指を差し入れ、口をぽかんと開けていた。    場所は、彼が店長を務めるボーイズ・バーの事務所応接室。  真ともう二人、副店長と人事部長が同席していた。  今日は、新しくスタッフを一人雇い入れるための、面接日なのだ。  これまでに、もう6人の候補者たちが面接を済ませていた。  皆、ぴしりとスーツに身を包み、それぞれのオーラを放って自己PRをしていった。  しかし、誰もが魅力的だが、今一つ個性に欠ける。  そんな印象を、真は彼らに持っていた。  そこに、その個性に富みすぎる少年が現れたのだ。 「津川 杏(つがわ きょう)です。よろしくお願いします!」  彼は、スーツを着てはいなかった。  スウェットにジーンズ、それからエプロン。  そして手には、大きなパイナップルを持っていた。  真以外の二人は、立ち直りが早かった。  しどろもどろながら、質問を開始していた。  だが、真は何も言えなかった。  ユニークすぎる杏の姿に、すっかり目を奪われていたのだ。

ともだちにシェアしよう!