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第二章・8
おじいちゃん!
この私が、おじいちゃん!
「いや、杏くん。せめてお父さんか、お兄ちゃんにしてくれないか」
「ごめんなさい。僕、おじいちゃんっ子だったので」
よくこうやって、抱っこされてお風呂に入ったんです。
そう言う杏は、少し首を垂れている。
「おじいさんは? 亡くなったのか?」
「はい」
両親を早くに失くした杏は、祖父に育てられた。
その頃から、家事の手伝いを始めたと言う。
「おじいちゃんが体を壊してからは、僕が家のことを全てやりました」
「おじいさんの介護も、だな?」
「はい」
なるほど。
「だから、中卒だったのか。だから、こんなに家事が巧いのか」
「僕の、たった一つの取柄ですが、おじいちゃんが残してくれた財産と思ってます」
「うん……、うん!」
感動した、私は!
真は、杏の体を強く抱きしめた。
「今度は私が、新しいことを教えてあげよう」
「ありがとうございます! 何ですか?」
真は杏の顎に手を掛け、上を向かせた。
そして、静かにキスをした。
杏の、ファーストキスだった。
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