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番外編 誕生日
誕生日。
それは恋人達にとって大切な日。
その前日は、心臓が激しく動悸する。
去年の誕生日はとても哀しい1日で終わったけれど、今年は期待してもいいだろうか。
カチカチーー
時計の針が回る。
20.21.22なんて秒針を数える。
胸が高鳴るなか、携帯の着信音が鳴り響いた。身体が飛び跳ね、携帯を手に取った。
『ケンタ』
「あっ、ケンタだ。」
期待した名前ではなかった。
ただ、その名前に落胆することはない。むしろクスリと笑ってしまった。誕生日のお祝いにしては少し早すぎる。
まだ前日だ。
「もしもし、ケンタ?」
『あっ、慎さん!誕生日おめでとうございます!』
「ケンタ、10秒早いよ。」
『誰よりも早く言いたかったんす!』
むぅと口を膨らませるケンタの姿が思い浮かぶ。
「ふふっ、まぁ、いいけど。そうだ、ケンタ。今日…。」
ピンポーン。
家のチャイムが鳴り響いた。
『ゲッ、なんか嫌な予感するっス。』
バッと立ち上がった僕は恐る恐る扉に近寄る。
「ケンタ、ごめん。ちょっと待っててね。」
もしかしたら、悪戯かもしれないし、傍迷惑な宗教勧誘かも。覗き穴からそっと覗く。
「トオル君だ。」
急いで鍵を開けて、扉を開いた。
「慎…、おめでとう。」
一言。
それを呟き、花束を渡された。
突然の、予想もしなかった出来事に唖然とする。まさか、花束なんて、トオル君らしくない。心配気に顔を覗いてくるトオル君に抱きついた。
「ありがとう…。」
瞳から無数の涙が溢れてくる。何度も想像して、何度も諦めた。いつか、叶ってほしいと、そう、思っていた…。たかだか誕生日。それでも、大切な人からのお祝いはずっと望んでいたもの。
「トオル君、ありがとう。」
温かな腕に包まれる。
優しい体温だ。
『おい!慎さんに1番にお祝いしたの俺っすから!!』
携帯からケンタの声が聞こえてくる。そういえば、携帯をそのまま放置していた。
「ごめん、ケンタ。誕生日祝ってくれてありがとう。」
『慎さん…。今度会う時は直接お祝いするっス。楽しみにしてて下さいね。せっかくですけど、今日はこの辺にしとくっス。どうせこうなること分かってたし。』
「ありがとう、ケンタ。」
『いえ、今度1日俺とデートして下さいね。じゃあ!』
ケンタの声が途切れた。
なんだか幸せな誕生日になりそうで、心躍る。
「ごめん、トオル君…?」
顔を上げてトオル君の方を見ると、ムスッとした顔で視線を逸らしていた。先程とは打って変わってこの表情。僕、何かしたかな。
「トオル君…?」
「遅れた。」
「何が?」
「また俺はあいつの後に…。」
まさかケンタの方が先に僕を祝ったことに怒っているのだろうか。まさか、とは思うけど、たぶんそのまさかだ。
「ふふっ。ケンタはフライングしてるから実質トオル君が1番だよ。それに、誰が1番とかどうでもいい。僕はトオル君に祝って貰えたことが嬉しいんだ。」
トオル君は僕にキスをした。触れるだけのキス。去年では考えられなかった行動。
「慎、愛してる。」
「僕も愛してる。」
クスクス笑って、トオル君を家に招いた。
その日の夜。
自分で作った料理をトオル君に振る舞った。
去年の誕生日のやり直しだ。
少し、いやかなりトオル君は落ち込んでいた。このウジウジも、もうそろそろどうにかならないものかと思う今日この頃。まぁ、それはそれでまた一から関係を構築していく為の布石だと思えば大したことではない。
それに、少しトオル君がシュンとした顔をするのが可愛く思えてきた。僕もまぁ、性格が悪い。
「慎…。」
誕生日ケーキも食べ終え、微睡んでいる時、トオル君は僕の手に小さなピンク色の箱を渡してきた。
「え、なにこれ。」
「プレゼントだ。」
「昨日も花束貰ったよ?」
「それとは別に。」
「そっか。中身見てもいい?」
「ああ。」
そっと、その中身を見る。箱をパカリと開けると、リングネックレスが入っていた。
「ありがとう。トオル君。」
「…本当は指輪を渡そうと思っていた。ただ、まだ早いと思った。いつか必ずお前の薬指に指輪を嵌めたい。」
それは、プロポーズですか。
冗談には到底聞こえないほど、トオル君の瞳は真っ直ぐだった。
僕は目を閉じて考える。
ちょっと訂正。トオル君のウジウジは僕がはっきりと言ってなかったからだ。
もう、大丈夫。もう、ずっと前から信じてる。
貴方の愛は伝わっている。
「トオル君。ごめん、ずっと意地悪してた。信じられない気持ちが大きくて、まだ癒えてない心の傷がトオル君の真剣な気持ちを否定してた。トオル君、好きだよ。愛してる。ネックレス凄く嬉しい。薬指に今度は指輪を嵌めてね。」
深いキスをする。
トオル君の腕を引っ張り、深い夜へと共に誘われた。
ーーー
「そういえば、どうしてうさぎの人形をくれたの?」
「お前に似ていた。」
「ええ、似てるかな。」
ベッドに座るうさぎを抱える。
「愛らしい姿が似ている。」
突然の告白に赤くなった顔を隠すように、うさぎに顔を埋めた。
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