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僕と彼の好きな人
「結局、付き合わなかったんスね。」
ケンタがハンバーガーをむしゃむしゃと食べながらそう言った。
あれから1ヶ月。
トオル君と僕はまだ恋人関係にない。
「今は信頼回復期間かな。」
「何すか、それ。慎さんは本当に優しいっスね。コテンパンに振ってやればいいのに。」
「それはできないよ。」
「好きだからっスか?」
「まぁ、そうだね。」
前いた学校から結構遠いのに、毎日のように会いに来る彼。バイクで来るのは構わないが、少し目立ってしまっている。
「結局、慎さんを幸せにできるのはあの男なんすね。」
「それは違うよ。ケンタがいなかったら幸せにはなれなかった。僕の幸せはケンタも含まれてるんだよ。」
「慎さん…。やっぱ嫌っす。俺は慎さんをあんな男にとられたくないっす。」
ふふふと笑って、持っていたポテトをケンタの口に入れる。ケンタはそれを満足そうに食べる。
「慎さん、もう一個。あーん。」
仕方のない弟だ。
ポテトを取ってもう一度口に入れようとしたその時、腕を掴まれ、後ろに引かれた。
「何するんすか!慎さんのポテト!」
「ふんっ…。」
どこかで見たシチュエーションだ。俺の持ってたポテトはトオル君の胃袋に収まった。
「やっぱり酷いっす。この男。」
「まぁまぁ。でも、なんでトオル君、こんな所にいるの?」
「お前の居場所ならどこでもわかる。」
「何すかそれ、ストーカーじゃないっすか。」
トオル君はケンタを思いっきり殴った。痛そうだ。ケンタもケンタで殴り返そうと必死だ。まぁ、流血とかないから、トオル君も手加減はしてるんだろう。
「ケンタもトオル君もお店だからあまりはしゃがないで。」
「はしゃいでないっす!ってか、本当こいつこの前まで慎さんのこと蔑ろにしてた癖に、好きって気づいた瞬間これっすよ。まじキモいっす。」
「ああ、それはあまり…。」
「…すまない。」
最近ケンタはトオル君に腕では勝てないと察したのか精神攻撃を繰り広げるようになった。トオル君は意外にもその精神攻撃が1番参っているみたいで、今も目に見えてしゅんとしている。なんだか最近のトオル君は分かりやすい。トオル君が変わったのか、それとも僕の見方が変わったのか分からないけど、たぶんいい方向には変わっている。
「慎さん、そろそろ行くっすね。」
「えっもう行くの?」
「この後用事があるの忘れてたっす。」
「そう?気をつけてね。」
ケンタは立ち上がって、トオル君に何かを耳打ちし去って行った。目に見えて不機嫌になるトオル君。
「何言われたの?」
「別に…。」
仲良くしてくれないかな、この2人。
「お前は聞かなくていいことだ。」
『俺と慎さん一応兄弟っすけど、血は繋がってないんで。もし、また傷つけたら、今度は本気で奪いに行くっすから。』
「もう傷つけねぇよ。」
「トオル君?」
何か呟いたトオル君の顔を覗く。夕焼けが照らす。少し眩しくて目を細める。目があったトオル君はふっと微笑んだ。
「愛してる。」
突然の愛の告白に顔が赤く染まる。
「トオル君、突然どうしたの。」
驚いて尋ねるも返事は返ってこない。
「トオル君?」
「お前を愛してる。」
トオル君は優しく僕に口付けた。
「トオル君…。ねぇ、トオル君。僕はきっとあなたがまた僕を好きじゃなくなっても、それでも僕はトオル君が好きだよ。」
「俺は…。お前を傷つけた事実は変わらない。その罪を忘れることもない。だが、それでもお前を手放すことはできない。お前が俺を愛さなくなっても、ずっと俺はお前を愛してる。」
「馬鹿だなぁ、トオル君。僕がトオル君を嫌いになることなんてないのに。」
クスクス笑い空を見上げる。
澄んだ綺麗な青空だ。
きっと、幸せになれる日も近い…。
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