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愛してる

「愛してる?」 嘘だ。 だって、あの日僕を軽蔑したような目で見たじゃないか。結局、僕はあの子の二の次だ。一番になれっこない。 悲しいよ。 辛いよ。 苦しいよ。 目が覚めて、当たりを見回す。 見慣れた天井。 と、言っても引越してまだそんなに立っていないのだけど。 「夢…?」 「夢じゃないっすよ。」 「ケンタ。」 「起きましたか?慎さん。」 「うん。昨日は?」 ケンタは少し間を空けて、言葉を紡いだ。 「すみません。あいつ呼んだの俺っす。」 「なんとなく分かってたよ。何で呼んだの。」 「…慎さんにはあいつが必要だと思ったんす。俺じゃあ幸せにできない。」 「違うよ、それはっ…。」 「いいんです。事実です。あの日、俺と母さんが家を出て、慎さんを一人きりにした。あの時からもうずっと、俺は慎さんを不幸にし続けてる。」 ケンタは弟だ。 血の繋がらない弟。 僕の1番目の母親は僕を産んで直ぐ家を出て行った。父は一人で僕を育てる中、出会ったのがケンタの母だった。 2人は結婚して、離婚した。 ケンタの母はケンタだけを連れ、家を出て行った。父は僕がいることで家庭が壊れていくのだと決めつけ、僕だけ家に残すようになった。そして、他所で家庭を作った。ケンタの母はもちろん僕を愛していない。だけど、ケンタだけは僕に気を遣ってくれている。 「ケンタ、ケンタが悪いことなんて一つもない。あまり気にしなくていいんだよ。」 「違う!俺は、俺が、離婚して欲しいって頼んだんス。」 「…知ってるよ。」 「え…?」 「だって、ケンタ、お母さんのこと大好きだもんね。ケンタのお母さんが父の束縛に耐えきれなかったのを知っているよ。」 「慎さん…。」 「恨んでもないし、後悔もしてほしくない。」 ケンタを抱き寄せる。こんなにも後悔しているとは思ってもみなかった。 「ケンタ、ありがとう。」 「ごめんなさい。」 首を横に振る。 誰が彼を悪者にできるだろう。 こんなにも健気で優しい彼を。 「ケンタ、この話はこれで終わりにしよう。ケンタが僕と一緒にいたのは別に後悔の念からじゃないだろう?」 「あ、当たり前っス。絶対そんなことない!」 「じゃあ、もういいでしょ?」 「はい!ずっと側にいるっス。」 「ふふ。」 頭をわしゃわしゃと撫でると気持ちよさそうに擦り寄ってきた。子供の頃と何も変わっていない。 再度抱きしめようとした時、肩をぐいっと引っ張られた。 何かと思えば、そこには彼がいた。 「トオル君、なんで、ここに…?」 「俺がここまで運んだ。」 「あ、そう。迷惑をおかけしました。」 「…。」 「慎さん、俺、そろそろ出るっス。たぶん、もう一回話した方がいいと思うから。もし!もし、何かあればすぐ駆けつけますので、電話して下さいね。」 心配そうにでも、どこか決心したようにケンタは出て行った。ケンタがいなくなった部屋は凍てついていて少し寒い。心臓がドキドキと高鳴る。 「あの…。」 ポスっと胸元に柔らかい感触が。何かと思えば、置いて行ったウサギの人形がそこにはいた。 「お前の部屋を訪ねた時、管理人から忘れ物だと手渡された。…誕生日、すまなかった。」 「いいよ、誕生日だって言わなかったのも僕だし。」 「俺は、知ろうともしなかった。罪があるなら俺の方だ。」 「違うよ、ただ僕はさ、貪欲なんだ。僕に興味を持って欲しい。僕に愛を伝えて欲しい。その証明が欲しい。なんて、自分を伝える努力を怠っていた。」 ずっとずっと考えていた。僕は本当に愚かなほどに貪欲なんだ。知って欲しいなら自分から知って貰わないと意味がないのに。 「俺は弱い。」 「え?」 「怖かった。愛していたわたる以上に愛したい人ができることが。安い、あまりに安くて簡単な愛に俺は自分自身に呆れた。否定したかった。お前と共にいても変わらずあるわたるへの愛を証明したかった。」 「そう…。証明できた?」 「証明できたら良かったな。そしたら、お前をここまで傷つけずに済んだかもしれない。安い愛だ。それでも、お前を愛してしまった。」 「信用できないよ。」 「別に構わない。それでも俺はお前を愛していたい。今度はもう、諦められない。」 「ねぇ、それなら信用させてよ。」 唇と唇が触れる。 優しいキスだ。 悲しいほど優しいキス。 「愛してる。」

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