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ウチの店に来ませんか

「ウチの店に来ませんか」 そう言った彼は、白生地に薄桃色の桜が大きく刺繍された羽織をふわり、風に膨らませながら目線を合わせるためにしゃがむ。 綺麗な笑顔だ。 紅い瞳は街の灯りに照らされて輝いているはずなのに、その奥は光のない真っ黒な闇が広がっているように感じた。 それが、憂いを帯びているようにも見える。 この人から目が離せない。 このままでは吸い込まれてしまいそうだと思うのに、『危険だ』と背筋を流れる冷や汗が警告しているのに、この美しい男性から目が離せないのだ。 「今夜は冷え込みますから。お風呂と敷布一式用意しますよ」 言葉が上手く出てこず無言で見つめていると少し惑ったように微笑んで、白粉の塗られた手を差し伸べられた。 「大丈夫…ちょっと休んでるだけだから」 そう断ったのは一種の防衛反応のようなものだった。 このままこの人について行ったら、何やらもう戻れない気がする…… 「ふふ、そんな警戒しなくても。樋田は評判通りの悪い店ばかりじゃありませんよ」 「で、でも…」 「ね、お食事を取ってお休みになるだけでいいんです、オレに御返しをさせて頂けませんか」 「…わかった。夕食食べて寝るだけなら、」 結局その綺麗な笑顔の圧に負けてその手を取ってしまった。 食事と寝床くらいなら……大丈夫、だよな? 「あっ、ァあ、んっ、ん、っぅ」 うっ、嘘つき〜〜!! こんなのっ、こんなの俺は聞いてないぞ!! 最悪だ、最悪だ最悪だっ、もう嫌……嫌だ、よ……っ一織、助けて、!! 「………………」 廊下に控えてるだろう一織は、すぐそこに居てこの声も聞こえているはずなのに止めに来てはくれない。 きっとそれが一織の仕事で、これが俺の仕事だから。 「んんっ、ぁ……」 『嫌だ』それすらも言えないこの立場が憎い。 れろぉと分厚い舌が、鱗越しに肌を伝う。 気持ち悪い、気持ち悪い、早く終われ、早く早く早く……! そもそも歌で食いつなぐために上京して来た俺が、なんでこんな身体を売るような仕事についているかと言うと、数ヶ月前とある綺麗な芸者に店に誘われた事から始まった_________。

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