5 / 26

第5話 生き腐り

清町にまたしても悲鳴が轟いた。 発見されたのは社樹学園の学園長だった。 その顔は、電話口で怯えるような笑い声のような声を出して震えていた、あの男である。 今度は生きながら人が腐る瞬間を目撃者も目にしていたし、学園の防犯カメラにもきちんと映っていた。 目撃者はショックで心神喪失のような状態になっている。 事件のあった学園長室前の大廊下にはテープが張り巡らされ、人型のマークがヒモで型どられ地に描かれている。 実況見分に意外な人物の姿が見えた。 青森薔山だ。 刑事や鑑識に取り囲まれていた。 「青森総代……、やはりこれは呪詛で間違いないのでしょうか」 警察はノートパソコンに防犯カメラの映像を繋いで青森に見せている。 「とても禍々しい気が渦巻いてますねぇ~……」 青森の映像を見詰める目は険しい。 青森は防犯カメラの腐り落ちる被害者の姿を指でモニター越しにトントンと叩いて言った。 「かなり強い怨霊が被害者に重なって見えます。こいつを使役してる呪詛使いがいるようですねぇ~……」 「青森総代、や最清寺の住職と同じ位の霊力の持ち主なんですか?」 青森は意味ありげに喉だけで笑った。 「んっふふふ……、ふふ……。それはどうでしょう………。私や和尚以上かもしれませんよぉ。この力………は…………!」 喉は笑っているが目は笑っていない。 真剣にモニターを睨んでいる。 刑事達はおののいた。 「では、この犯人と戦える人物はいるのですか?」 ……………………………………………………… 朝起きていつもの通り学校に向かうと、学校が大騒ぎになっていた。 ザワザワと校門前にも校舎内にも生徒達の人だかりが出来ている。 「定児クン!定児クン!」 「前山」 「大変だよ!警察がいっぱい来てる!学園長が死んじゃったらしい!職員室と学園長室がある階には一切入れなくなってる!」 人だかりの山から現れた前山の言葉には、流石に目を剥いて飛び退くほど驚いた。 「ウチの学校までー!?」 まさか自分の安息の場まで、例外では無かったなんて。どこか他人事の距離だった呪詛事件が急に身近になってしまった。 早速、学園長が死んだ、と前山が言っていた廊下の現場へと走って向かうも、キープアウトと文字が書かれた立ち入り禁止テープがあちこちに張り巡らされてある。 ええいとくぐり抜けようとすると、早速刑事に怒鳴られ追い返された。 「くそっ」 「定児君、警察の邪魔をしては駄目だ」 警察の怒声を聞いて職員室の奥から出てきた猪狩先生が苛めた。 「猪狩先生!学園長が死んだって本当ですか!?」 「…………私からは何も言えません、まだ!」 いつになく猪狩先生も険しい。 しょうがない、と俺は退散した。 教室に入ると机に座って早速自分なりに事件の整理をしてみた。 殺害されるのは、確かこの町の名士、要人ばかりだ。 この街の地方議員、地元の立役者とも呼べる企業の社長、この街の警察署長、市長、学園長…………。 警察署長が狙われただけでも警察の威信とプライドをかけて犯人挙げに血眼だろうに、こうまで要人ばかりがいとも簡単に赤子の手を捻るように殺されているとあっては、この町の警察行政の内部はガタガタだろう。 にしても何でお偉いさんばかり狙われるのかな。 「定児君、今は学園の一大事ですからね。詳しくは言えませんが、暫く大人しーく過ごしていてくださいね」 考えこんでいると猪狩が現れた。 「定児君、君には他の人にはない強い力があるのでしょう?以前まではなかったのに、最近強く感じられます」 「先生、先生ももしかして、霊感、が?」 コクリと猪狩は頷く。 「知りたいんでしょう?定児君。好奇心いっぱいの君は、今この街で何が起こっているのか。いいでしょう、定児君。学校が終わったら先生の家に一緒に来てください。妹を見せます。妹のひもろぎをね」 猪狩は夜間の清町で怪しいものを目にして以来、眠り続けているというあの妹を見せてくれるという。 深夜0時。普段なら人気も無く静まり返っている筈の夜の校舎であるが、その日はあちこちにライトがついて人の出入りが多かった。 そう、警察関係者が足早に出入りをしているのである。 その様子を物陰から遠目に伺っている人間がいた。 「流石に学園長が殺された今日は敷地内には立ち入れないようか……フン」 ジャーナリストの機洞連だった。 しゃらくさい、とばかりの表情で校門前の人の流れを見ている。 機洞はそのまま、外縁の高い塀の周りをぐるっと周回しながら、何かを確かめるように時折目を閉じ立ち止まった。 「この学園の地下からは一際強い霊波が立っている。一体………この正体が何なのか」 塀に手をあてながら呟く。 そこへ一人の警察官が機洞の視界に映った。 周りにはお仲間がいない。 「よし」 機洞はニヤリと口角をあげ笑うと印を組む。 「オン・キリキリソワカ…………不動金縛り」  警察は立ちどころに硬直し動かないでいる。 固まる警察署員の前に機洞が現れ 「私の目を見てください……そう。いい子だ。お前の目を私に貸してもらう」 機洞は新たに印を組んだ。 学園内の学園長室にはまだ青森薔山がいる。 目を閉じて瞑想の姿勢を組み、何時間も犯人の姿を、現場に染み着いて残る怨霊の念から辿ろうとしているのだ。 警察署員はそんな青森の姿を邪魔しないように脇を歩く。 その時だった。青森がカッと目を見開く。 コンコンとドアを開け新たに入ってきた一人の若手警察署員に、青森の腕から霊符が飛んだ。 「あなた操られましたね!」 雷に撃たれたようにドサッと倒れ込む警察署員は、駆けよった刑事が尋ねてもここ数十分間の記憶が無かった。 「私の結界に異質なものが入り込んだらすぐわかりますよぉ。操り手はまだ学園の近くにいる筈だ!外を見てきましょう!」 青森は数名の刑事を伴って駆け出した。

ともだちにシェアしよう!