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第18話 淫の刺青
大異変の翌日、吐黒山にある滝行用の滝、その岩場で、渉流は目を閉じて坐禅している。
轟と水面を叩きつける滝が流れる音。朝の白煙なる空気。山々をもやが覆う景色の中。
滝行を終え、しとどに濡れている、渉流の肌に張り付いた行衣。
昨日の面子は、全員、最清寺に住居を借りて寝ている。
青森神主以外は。
青森は何かの陰陽術法を行い、自分のダメージの治療をするため、しばらく社にひきこもるらしい。
いち早く起床し、寝床から抜け出した渉流はここに。
集中させ、目を閉じて、自分の力の向上をはかる。
機洞と対決し、力不足を痛感果たした渉流だった。
新たに悩みができた。
意識を集中させようとしたその瞬間、頭に幼馴染の淫とうな肢体の場面が浮かんでしまうこと。
地下洞で性行為に及んでいたあれは機洞と定児のシルエットだった。
嫌な気が自分の内側に湧き起こってきて、著しく、修行の邪魔になった。
➖➖➖最清寺から自分の家に戻った晩、定児は自分の肩のあたりが熱く、変に脈動するのを感じた。
ドクン、と心臓のように動いていた…………。➖➖➖
……あれから、数日が経った。
定児は気が付いたら夜、寝入る前に必ずベッドの中で、自分の体をまさぐっていた。
あの、肩に入れられた、刺青のせいだ……
突き刺されたボヤけた記憶が甦る。
夜になると必ず刺青が火傷をしたように熱く燃え疼き、いやらしい感性を責め出す。
仕方なく、毎夜、囚われていた怪しい性交を出来るだけ克明に思い起こして、体をいじくる日々が続いていた。
うっ 情けない。
森野や前山を、学校の教師や生徒達を、酷い目にあわし、あわや命を奪おうとまでした連中に受けた、淫話や淫行を、今更ながら思い返して発散の糧にしている日々なんて。
何とあさましき。
俺のからだよ………。なんて乳首捏ね回しながら格好つけてる場合じゃなくて、本気で耐えがたい、性の苦痛が毎夜毎夜襲ってくるんだって!
指先でもちろん自分の分身をいじくるけど、それだけじゃ足りないって、モノ欲しいって言ってくる!身体の奥が!!
どうすればいい、どうすればいい、これ……。
仕方なく唯一の経験がある、機洞、の分身を頭に描き浮かべて、機洞に貫かれていた当時の記憶を思い出して処理してるも
指だけじゃあ、発散しきれなくて……。
だめだ、後ろに入れられたい。
俺はふと、うっかり流しっぱなしになっていたテレビ画面に気付いてぼうと見つめた。
流れているのは深夜0時をまわってから流れるお決まりのテレビショッピング。
(通販でもう張り型とか、買うしかないかもな………)
自分で考えて、自分の一言にドップリ落ち込んでる。
。
。
。
真っ暗闇の中、妖気がひしめく。
椅子には機洞が座っていた。
そばには見鬼姫が立っている。
機洞は目を瞑り、肘掛けに肘をつき、頬に手の甲をかけ、何事かを考えているように黙り込んでいる。もしかしたら瞑想状態かもしれない。
「視える、視えたわ」
見鬼姫が突出しているのは#遠視__とおみ__#の力だ。まるでそこにいるかのように、情景をありありと掴めてしまう。
これは機洞ですら及ばないほど、遠く離れた人間の光景が精細に視える。
心を読むのにも長けているが、機洞の心だけは防御術により硬くロックがかけられていて読めない。
「機洞様のダーリン、機洞様のことを思い浮かべて、毎日毎夜、自分の体をまさぐって自分で慰めているわ。切ないわね、機洞様」
機洞は聴こえているだろうが、目を閉じて黙っている。
。
。
。
「金龍和尚、相談があるのですが」
俺は自分の体の実情を、金龍に打ち明けることにした。
「なるほど、定児君、問題の肩を見せてください」
俺はワイシャツを脱ぎ、金龍の前で、背中を向けた。
「これは……失礼」
金龍が背筋の刻印を指でなぞる。
指先の感触に、俺はびくびくとまたいやらしく反応してしまった。
「あ……すまない」
金龍が慌てて、指を離す。
「この刻印には、淫呪がかかっている」
「いんじゅ?」
「読んで字の如く、気持ちを淫らに乱れさせる呪法です。色欲を高め自制をつかないようにする愛欲呪」
「解除できないんですか?」
「かけ主がかけ主ですからね……。すんなりとは解けないだろうと思います。しばらくは難しいですが、解除のために護摩炊きをし、打破祈願をしましょう」
「しばらく毎日こうなんですか」
ガックリ肩を落とした。
「………………。定児くん、渉流君に協力を頼んでみたらどうですか」
「へ?渉流に」
「その……欲情を吐き出す、お相手のご協力をですね」
「えっ!?従兄弟に!!?あいつにっ!!!??」
「女の人じゃだめなんでしょう?」
言いにくそうに和尚が問う。
「私から話してみますよ。それとも、青森に協力を頼んでみますか?」
「それは………青森さんは………ちょっと………」
絶対協力してくれないでしょ、あの人の性格からいって。わかんないけど。
森の中でいつものように滝行をしている渉流は、背後から一人の僧が近づいてくるのを察知し、視線を向けた。
「金龍和尚!」
行衣が濡れ、一つのスポーツを終えたような、さっぱりとした顔つきの渉流に向かって、金龍はおごそかな顔つきで穏やかに述べた。
「渉流くん、お話があります」
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