日が落ちてからまだ寝静まるには早い時間帯。満月に近付きつつある月が夜の帳を照らしている。 寺の敷地内にある離れで、間接照明のみが照らす室内、定児と渉流は二人、並べられた二人用布団越しに向き合い鎮座していた。 二人とも白装束同士、向い合い、おごそかに正座する姿は、一見新婚初夜のように神聖な儀式然ともしている。 渉流は、何も喋らない。 （何で、こんなことになってるんだろうな……） 頭の中が遠い目になった。 ちょっと前の、魍魎とか妖魔とか関係なく二人で学校に通っていた時代の自分達の姿が無性に懐かしく思えた。 俺達はただの従兄弟で、渉流は俺のだらしない面を人一倍目撃している誰よりも見知った幼馴染で、こんなことするなんて微塵も思い浮かべない、熱っぽい間柄ではなかったのに。 健康的な間柄だったのに。 二人して世にも奇妙な世界の話に突然迷い込んでしまったというか、唐突にいきなりボタンをかけ違えて、あまつさえボタンが高速で弾け飛んでしまった。 そんな、あ～あな気持ち。 残念感で満たされている。 クールな表情のまま、押し黙っていたはずの渉流が、急に沈黙を破り口を開いた。 「そっち……いっていいか」 「う、うん……」 俯きながら目線を合わせられずギクシャクどきまぎ答えてしまう。 渉流が俺の背後に回り込んできて、自分の着物で俺を引き寄せ、抱き寄せる。 渉流の体温が背の胸板から伝わる。 トクトクと、心音まで聴こえるようだ。 抱き寄せたまま、そのまんま、動かない。 「…………」 「…………」 「定児、……怖いかよ。俺とするのが」 「うん、怖い、怖いよ。だって俺達従兄弟なのに、してしまったらこれから一体お前にどんな顔で、どんな風に接すればいいっていうの」 「俺は怖くない」 そういって渉流は、俺の前髪を指ではらい、俺の腰をぎゅうと強く抱き締めてきた。 「俺は、いずれ、おまえを貰おうと思っていた」 そういうと、初めてちょっと気恥ずかしそうな顔に変化して、渉流は、布団の上に俺を寝かせるように柔らかく倒してきた。 渉流が抱え持っていた底意にビックリする。 「そんなの初耳だよ。全然そんな感じしなかったよ、渉流は」 「そっか。俺って……分かり辛いんだ」 そういうと渉流は俺に向かってふ……と優しげに微笑んだ。 全身の力を抜くように。 そんな、なんていうか、湿っぽい言葉をかけられるような仲じゃなかったでしょ、俺達、という戸惑いがひどい。 もし渉流と性交をした後はずっとこんな風に、あー……なんて言えばいいんだ、生半可な接され方、あー、ヒロインに向けるような接され方、やわな接され方、あー。 あー、もうなんか、的確な言葉が生まれないや。 俺に対して、恋愛対象とか、交際相手に接するような濡れた対応になってしまうのかと考えると、頭がクラクラする。 元の渉流がいいよ。 そのような俺の気持ちはお構いなしに、目の前の相手は顔を俺の耳元に寄せ、耳朶をやわく自らの唇で噛んできた。 （ウワー。始まってしまう。あの、性行為が……！） 渉流の長い指先が俺の顎をクイ、と捉えながら、軽く息を吹きかけるように、呼吸をしながら唇が、耳から首をなぞり、ゆっくりとなめらかに滑り下りてくる。 反射的に、唾をゴクリと飲み込んだ。 #胸鎖乳突筋__きょうさにゅうとつきん__#だ……！コレ。 胸鎖乳突筋とは、首筋を代表するもっとも有名な斜めを走った首の側面に存在する筋肉である。 人の呼吸を感じながら、胸鎖乳突筋ぞいを沿ってつたう濡れた感触を、吐息と共に唇がなぞり下りる感覚を、集中して鋭敏に肌身に受ける。 胸鎖乳突筋を濡らす唾液の筋がナメクジのように緩慢に横に引かれ。 ぞわ、ぞわっとするようなむず痒い、こそばゆい、疼きを得る。 とうとう俺の懐に手をかけた時、渉流が自分自身の着物を肩まであらわにはだけさせ脱ぎ崩している。体が熱くなったのだろうか。 よく鍛えた男の筋肉が眼前にある。 渉流の手によって俺の懐はがば、と大きく明かされ、公になった肌に渉流の顔と唇が寄せられる。 従兄弟の後頭部の動きを黙って見つめた。 胸に吸い付かれ、水に濡れた舌が俺の平らな胸を踊り、彼の片手はもう一方の空いた乳頭を摘まむ。 モテるだけあって、指の動きは非常に小慣れていて、思わずため息のような声が唇の開きから抜き漏れてしまう。 つい先日の、地下洞の繰り返しの性交体験によって、俺の意識は上手く働かずとも俺の体は性的な神経を開発をされてしまったので、胸を指でなぞられるだけですら、下腹部にあるそれや、体の内側の奥に潜むあれが疼く感覚が、#犇犇__ひしひし__#と湧き起こってたまらなくなる。 「あ…………っ。あ…………っ。あ………………っ。………っあっ」 ふいに渉流が俺の顔と自分の顔を至近距離に寄せ合い、俺の口に自分の口を近付け、俺の唇に自分の吐息を飲みこませながら呟いた。 「……………おまえは淫ら、だ」 渉流が眉を寄せ、何かを堪えるような切なげな顔をしてちょっと怒ったように吐息をかけながら囁いた。 「俺の定児は、本当に淫乱だ」 彼は上半身の着衣を全て脱いだ。 途端に強く覆い被さり、俺の頬を押さえ、深く、口付けをしてくる。 雄のスイッチが入ったように、力強く。だ。 「うんっん………んぅ………！」 渉流の髪の毛が俺にかかり、こそばゆく、吐息を絡めた深い口付けにお互いの昂った欲情が交差しあう。 渉流の手が着物の脇から俺の下半身に差し込まれた。 着物の下は下着など着けず、ダイレクトに肌だ。 絡め合う口付けをしながら、俺の、肉欲が集まって形状が変化したもの、を、さすり掴む。 男の手の圧力が、俺自身を強く握りしめる。 「ンアッ！は…」 「知らない間に体が変わっちまったな」 ちょっと口惜しそうな声。 唇で唇を愛撫しながら、渉流は呟くと、一層激しく腕の動きを強めしごいた。 「ん！アッ！あっ！強……渉流！強い！！」 苦痛とは反対に俺の欲情には火がつく。 「アッく……あっう！あっ！っ……フアッ」 手の動きが、緩急をつけ、強さともどかしい弱さとを入れ替えながら変化させる動きに変わる。 やにやにとした小痛と、瞬間の火花のような大きな痛みと、穏やかな心地良い喜悦と、物足りなさと、の繰り返しの波に、我を忘れ、飲まれ、溺れ、喘ぐ。 「ふぅッはあッ、あっ、アッハぁ…… う～っ！！う……っうう」 「腰が動いて、俺の手を、ねだってる、、ぞ。もっと動かして、ってさ」 「あうっ………こんな従兄弟は、ガッカリするか……！？なんか、俺じゃないって感じ、するか……！？」 「全然。おまえなら ……全部、好きだ」 また口付けをしてくる。 キスをしながら渉流の手は激しく俺の自身を揺さぶり、臆面なく意識が視野をはじけて止まらない。 とうとう渉流の握りしめた手の内側に、出してしまった。 渉流は手を引っこ抜き、出された掌のそれをペロっと舐める。その表情が、なんだかとっても格好良く見えた。これから食われるとよくわかってしまう嗤った狼のような表情をしていて、冷えた目が月明かりと呼び合い反射しあって輝いていた。 一旦自分の下半身を支配していた身体が自分から離れたかと思うと、平たい低い文机に置かれた複数置かれたビンを二つ持ち戻ってきた。かたわらの同じ位置に戻ると、着物がめくられ、俺の股が表に晒される。 蓋を開けてビンの中身を俺の股の間に、下の布団を濡らすのも構わずぶっかけた。 ぶっかけながら、窄みへと指を差し込み、音を鳴らすようにグチュグチュクチュクチュとかき混ぜられる。 「ンッ！ンうっ！」 力強い骨を持つ指が、割り入り中で折れて、時にまわすように動かされ、繰り返し内臓を摩擦し、早く上下される。 「んアッ！ンは！うあんっ！うハんんッ！」 2本の指に内側のいい部分を劇しくギュウギュウ押し潰される。 「ンあっ！だめだー！そ"れっ！渉流ッ！気持ち……いっい……」 グチョングチョン！と激しい音を立てられ更にいい部分を指でスクリューされると、俺は痙攣しガクガクと達してしまった。 幼馴染の従兄弟の手により、あえなく。 布団に五体を投げ、腹の底からの深いため息が何回も喉を抜ける。 渉流は達し震えるそこに、もう一つビンの蓋を開けて、その直接細い先を突っ込んだ。 「あっふあっ！」 ドクドクと中に注ぎ送られるぬるいとろけた液。 注がれるだけで精を注がれた時のように、目がトロンと恍惚とし、腰が動いてしまう。 ビンを無造作に床に捨てると、渉流が俺の腰を持ち上げ、抱えた。 そして、正常位の姿勢で、自分の硬くなった男性自身を、指で緩くなり液体のぐぷっと溢れ出す入り口へとあてがい、俺の中へと挿入した。 男性自身はヌルヌルと中に簡単に入っていく。 何の障壁も無く水を得た魚のように尻から腰のあたりまで泳ぎ入り込む異物。 そしてそのまま肉襞の中を、ヌルヌルと、だが早く、内側の道を動く。 「んっハァーっ………！！渉流ぅぅっ！！そ"れ駄目だァ！っ好"きぃ……！」 散々入れられ続けた、あの、体が待ち望んでいた期待のモノだった。 「気"持ちがいい！！……ああ………ううっんんう……っ」 ヌルヌル感と大きな異物に前立腺を抉られるえぐい快感が背筋を通って、快楽が次から次へと新幹線のように烈しく速く、何線も交差して一度に走ってくる。 「あはぁっ！好きっ！もうダメだぁ、はぁ、き"もち、いい"っ、うあううっっ！！ 渉るぅぅっっ！もっとえぐって！！ 俺を、俺を、……裂いてくれ！！おおおぉおっ！！」 強い男から押し付けられる後ろの孔の重さと圧迫感。深いところに到達すると、戻るときにカリ首が引っかかる感触。 ズリ、と擦れると起こる浮き上がる快感。 そのどれもが求めてやまないものだった。忘れられない快の記憶を再び掘り起こしてくれる、太くて長く逞しい、熱く濡れた鍵だった。 初めてでこんなにおかしく乱れる俺の姿は渉流にどう映ってるんだろうか。 体とは裏腹に頭の隅がなんだか悲しい。 そんな俺の悲しい気持ちが伝わったのか、渉流は俺の顔に顔を近付けて 「大丈夫だ……綺麗だよ……」 と安心させるように囁いてくれた。 俺は感極まって、渉流の顔に自分から唇をつけて舌を入れ、涙を垂らしながら自分からキスをしてしまった。 俺の舌に自分の舌が擽られた渉流は、そのままひくく呻くと、抽送をしていた腰を俺の中で一層逞しく動かし、俺をガッチリと掴んで更に烈しくピストンした。 「アッー！アッッッー！アツッあああ！」 「定児……！定児！！」 「アッッッ！！！ッ！！ァァア！！！オオッ！！！！！！」 「くっ……食いちぎられそうだ、出ちまうぞ……こんなんじゃ……」 「アッアッ！クゥゥゥううう！！はぁっ……はぁっ…………うおぉ……！！」 後ろ孔に熱い男根が幾度も叩きつけられる。 「クゥーッ、あああっああああああ！！！」 俺は限界に再度達して、全ての力みがうなだれ、気を全部体外に吐いてしまった。 締まったために、渉流も俺の中に全部自らをぶちまけ、暫く動かず、汗ばむ体を弛緩させながら大きなため息を俺の肩でついた。 渉流の汗を感じている。 ……………だけど、しばらく経っても抜いてくれない。やむを得ず腰を動かして引き抜こうとすれば、また腕で掴み寄せられ、結合を固定される。 「…ッ……わた………る？」 「まだまだ夜はこれからだ。和尚達から与えられた時間はタップリある。 定児。こっちにこい……」 そういって口の端を跳ねて笑い、また耳を甘く噛む。 あ、ダメだこれ。 完全に火が点火いちゃってるようだ。 こうして、俺達の健康的な間柄は、この夜に何遍も破壊された。