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第1話出会い リヒテル視点
「リヒテル様っ!!…っリヒテル様!お逃げください!!」
護衛のタイラーの声がする。
それから馬を全速力で走らせて森の中を駆けた所までは覚えているが……それからどうなった?
水の音がする。そしてとても、寒い。寒くて寒くて死んでしまいそうだ…。
「寒い…」
「あっ!目覚めましたか?待ってくださいね、今火を起こしてる途中なんです」
目を覚ますと俺の上半身は裸でその上に小ぶりなタオルケットが掛かっていた。下は水に濡れてベトベトだったがちゃんと履いていた。
怠い体を起こしよく見ると黒髪の猫耳少年が必死に火打石で火を起こそうとしている。俺に背を向けていたが頸までかかったサラサラな黒髪が石を擦るたび揺れ長い尻尾がピンと立っている姿を見るだけで懸命な様子は伝わってきた。
「おい、ここは…」
「あっ!!!つきましまよっ火!!寒かったでしょう?どうぞ!」
俺の声を遮り、よっぽど火がついたのが嬉しかったのか勢いよく振り向いた猫耳の少年。
色白で華奢な体つき。大きな黒目がちな瞳は喜びで細められ薄ピンクの唇が口角を上げると笑窪が姿を現した。
何故だろうその瞬間、胸がキュッと鳴った気がした。
「…あの…?どうかしましたか?もしかして体調が悪いですか?」
「いやっ!すまない。わざわざ火を起こしてくれたんだな。ありがとう」
返事をしない俺を不思議に思ったのか体調まで心配してくれる少年に慌てて答えた。
そのまま彼のもとへ寄り火に手をかざした。
「いいえ、あそこからドボンって大きい音がして振り向いたらあなたが流されていて…まだ寒いですし死んじゃったらどうしようって焦りました。…でも、助かって良かったです!」
彼が指を指す方向をみるとそこは崖になっていて下は木で覆われている。
ーーなるほど…俺はあの崖から落ちたのか。下に木があって助かった。そしてそのまま川に流されたんだな
感謝の言葉を述べようとした時、少年のズボンが濡れているのに気付いた。
彼が言うように冬の終わりが近づき草木が芽吹く季節になってきたが朝夕は冷えるし水の中なんてもってのほかだ。
「君も濡れてしまっているな、本当にすまない。助けてくれてありがとう。それにこのブランケット、君が掛けてくれたんだろう?寒かったろうに…」
「いいえ、僕は大丈夫です!その…猫獣人ですし、寒さには耐えれる方なんですよ。それと、これブランケットじゃなくて僕のポンチョなんです。小さくてすいません。あなたは体が大きいから暖めること出来なかったかもしれないです…。」
形の良い眉毛を下げ。困った風に微笑む少年の横顔を見た瞬間、
きゅんっ
と、胸が鳴った気がした。
「いいや、そんなことはない。とても暖かかったよ。なにより、その気持ちが嬉しい。……こんなこと聞くのも烏滸がましいかも知れないが、君の名前を教えてくれないか?」
少年がただでさえ大きな目をさらに大きくし驚いた顔でこちらを見ている。
ーー猫獣人は人間を嫌っている種族だからな…。名前まで教えたくないか…
「気を悪くしたなら、」
「アリンです。僕の名前アリンって言います。」
謝ろうとした途端、少年はとても晴れやかに言い破顔させた。
そしてこれが永遠に結ばれる2人の出会いになろうとは、まだ誰も知らなかった。
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