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第2話出会い アリン視点
「悪いね、アリン。それを届けてくれたらもう今日は終わりでいいから。」
「いいですよ!ロバートさん。むしろいつもより早く帰ることになって…お店大丈夫ですか…?」
申し訳なさそうに言う店長のロバートさん。
僕は両手を顔の前で振って笑顔で伝えた。
僕は5年前、突然の事故によって両親を失った。
当時僕はまだ13歳で猫獣人の子供たちが通う学校で授業を受けていた。両親は週に1回猫獣人の町・ノスティアと人間が住むルシュテン王国の最端にあるデリアという町の境で行われている大きなマーケットに出かけていた。
そこには、ノスティアにはない便利な日用品などもたくさん売っていて、両親たちは人間が怖くてマーケットに行けない猫獣人達のために、荷車に買ったものを詰め込み片道1時間掛けてノスティアまで運んでいた。
報せはちょうど僕が給食を食べている途中だった。
「アリン。落ち着いて聞いてくれ。」
職員室から走ってきた担任の先生が慌てて教室の扉を開けた。急かされて校長室まで行くと校長先生以外にも教頭先生とか他にも何人か先生がいて何事かと驚いていると、校長先生が静かに僕に言った。
帰り道の途中だったらしい。人間の貴族の馬が暴走して荷車を押す両親に突っ込み倒れた両親の上に荷車が倒れてきて、そのまま亡くなった。
目撃者も居たが、相手は貴族だったし名前も分からない。
そして猫獣人の立場は弱く訴えても相手にされず泣き寝入りすることが多かった。
その日はどうやって帰ってきたかわからなかったが、両親が勤めていた定食屋のロバートさんや先生たちの助けもあり、なんとか学校は卒業できた。
卒業して3年、ロバートさんの定食屋でウエイターとして働かせてもらっている。仕事はとても大変だけどロバートさんはまるでお父さんみたいに親しくしてくれてるし他の従業員のみんなも親身に接してくれる。なによりこのお店には両親の思い出も詰まっていて、それを感じることが出来てとても嬉しいのだ。
ーーほんと…みなさんには感謝しかないや…
ロバートさんに頼まれた配達を終えて1人でいると両親の事を思い出してなんとなく寂しさを感じる
けど、ヒューと自分の頬に当たる風を感じて早く帰ろうと川沿いの道を、踏み出した瞬間だった。
バシャンっ!!!!
ーー!?、今、すっごい音した!?
僕は音がした方を向くと何やら大きな物体が浮いてこっちにむかって流れてきている。初めは熊か鹿かと思ったが近づくにつれそれは人だ気付いた。
ーーた、大変!!!陸にあげないと!!
ズボンが濡れるのも構わず急いで駆け寄り、自分よりも遥かに大きな体に手を回し必死に陸にあげ、声をかけた。
「はぁっ…はぁはぁ…だっ大丈夫ですか!?」
陸にあげる時は必死で男の顔なんて見ていなかったが改めて見ると日に焼けた褐色の肌、肩までかかるキラキラ光る金色の髪、そして猫獣人にはいないがっちりとした体躯…。
「綺麗な人…」
思わず見惚れてしまっていたが、よく見ると濡れた体が震えている。
ーー息はしてるから大丈夫かな…でも体が冷たい…
それからなんとか上の服…僕が見たこともない制服みたいな服を脱がして僕のポンチョを掛けてあげた。
ーーあとは体を暖めないとっ…火をおこさなくちゃ!
近くにあった小枝を集め石を使い火を起こそうとするがなかなか上手くいかない。それでも何度も何度も石を打っていると
「寒い…」
呟く声が聞こえた。
首だけ振り返るとそこにはあの綺麗な人が自分の掛けたブランケットを掴んで眉間に皺を寄せている。
早く火を起こさないといけないと火打ち石を何度も擦るとやっと火種が着いた。
僕は嬉しくて
「あっ!!!つきましまよっ火!!寒かったでしょう?どうぞ!」
と話しかけるとその美しい人は僕を見て何故か驚いた顔をしていた。
猫獣人に急に話しかけられるなんてそりゃびっくりするよなと、思いながらも僕を見ながら全然動かないからどうかしたのかと首を傾げた。
彼の服を乾かすため焚き火の近くで経緯を説明すると、美しい人は僕を金色の瞳で見つめ何度も感謝の言葉や、謝罪の言葉を掛けてくれる。
ーー人間だけど…この人怖くないなぁ…
僕の両親は人間は悪い人ばかりじゃないって言ってたけど、ロバートさんや他の猫獣人は人間は怖いって言ってた。だけどこの人は悪い人じゃないような気がして、心がフワフワする感覚になった。
と、その時
「君の名前を教えてくれないか?」
今度は僕が驚く番だった。
一瞬、名前を教えるなんて…とも考えたけどこの心がフワフワする直感を信じてみたくなったんだ。
「アリンです。僕の名前アリンって言います。」
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