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第3話お誘いと自覚
アリンと名乗った少年は、焚火の近くに干してあった自分の服を手に取ると濡れていないか確認し、俺に渡した。
「あ、あの、まだ少し湿っているけど僕のポンチョよりはマシだと思います。まだこの辺は日が落ちると寒いし…」
確かに少し湿っぽかったが、俺の身体をチラッと見ては慌てて目を逸らす様子に気付き、渡された服を着て肩に羽織っていたポンチョを返した。
そして、ホッとした顔を見せたアリンに尋ねた。
「あぁ、すまない。ありがとう助かった。…ところでここは、一体どこなんだ…?」
「ここはノスティアの北部です。…あの…あなたは人間ですよね?…お名前、聞いてもいいですか?」
「ノスティア…猫獣人の町か…。それと俺は人間だ。名前は…」
名前を言いかけたが咄嗟に口を噤んだ。
相手は猫獣人だし、自分がルシュテン王国の王子だと知ったら引かれると思ったからだ。
ーーアリンには嫌われたくない
そう思ったらもう嘘をつくしかなかった。
「…名前を思い出せないんだ。名前だけじゃなく他のことも…」
「えっ…!?そんなっ…!」
徐に立ち上がり両手で口を押さえたアリン。
そんな慌てる姿さえも可愛いと思ってしまうなぁ…と見惚れていた。すると、
「あのっ、僕の家で良かったら今夜はうちで泊まりませんか?その…お家もわからないんでしょう…?なので、あの、…これから寒くなりますし。良かったら……ですけど。」
「良いのか!?助かる、ぜひお願いしたい!」
驚いたが即答していた。正直、記憶がないと嘘をついているし罪悪感があると言えばある。だがアリンの事を知りたい俺にとって、これは神様がくれたチャンスにしか思えなかった。
立ち上がりアリンのその華奢な白い手を両手でぎゅっと握り、頭を下げた。
アリンは勢いに押され一瞬目を瞠り猫耳をピンと立てたが次の瞬間、黒目がちの大きな目が細められフニャ~と笑顔になった。
「ふふっあなたとっても面白い人ですね。」
その笑顔を見た瞬間、身体中の熱がブワァッと顔に集まった。多分顔は真っ赤っかだろう。少し湿っている服を着てさっきまで体は冷たかったはずなのに心なしか汗をかいている。
ーーあぁこれは、もう……
認めよう。
これは一目惚れだ。
俺はこの小さな猫獣人に恋をしたのだ。
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