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第10話レイの想い

アリンと俺はこの小さいノスティアの街で生まれて、お互いの親が仲が良かったから、それこそ赤ん坊の頃から一緒に居た。 猫獣人は多産だから兄弟が多いのか普通だけど、アリンは確かお母さんが体が弱いからだったからか、一人っ子だった。 だから俺たちはいつも一緒だった。俺だけじゃない。兄貴も妹のリリアもアリンを兄弟のように思ってた。 学校も放課後もアリンの親が仕事が遅くなる時も、いつでも側に、当たり前のように近くにいた。 ーあの日までは。 5年前。 みんなで昼飯食べよーって、席引っ付けていつものように過ごしてたんだ。そしたら、担任の先生が血相変えてアリン呼びに来てそのまま連れ去っちまった。みんな、『どうしたんだろう?』って言ってたけど、帰ってきたら聞けばいいかくらいに思ってた。 そしたら帰ってきたアリンはただでさえ色白の顔が真っ青になるくらいに白くてガタガタ震えてた。 どうしたのか聞こうとしたけど、先生が「アリンの鞄はこれか?」って聞くと、そのままアリンの肩を抱いて教室を出て行ってしまった。 午後の授業中もずっとその様子が気がかりで、今日は家帰ってから母さんにアリンが好きな『母さん特製クッキー』作ってもらって、様子見に行こうと思ってたんだ。 俺がさ、そんなこと考えながらも友達と喋ったりふざけ合ったりしてる間にお前はすごく大変なことになってたんだよな。 それで帰宅したら、普段いつも笑ってて泣いたり怒ったりしない母さんが床に蹲まって絶叫しながら泣いてて。親父が泣き喚く母さんを抱きしめてた。 「イヤーー!!!なんでっ!なんでなの!どうしてこんなことに…」 「え…?なにこれ?」 「お前…聞いてないのか…?」 「は?なにが?」 それからアリンの両親が亡くなったことを聞いた。母さんはアリンの母さんと親友で『絶対わたしたちは前世で姉妹だったのよ』とか言うくらいだったから相当ショックを受けてて見ているこっちが辛かった。 でも。それよりもまずアリンが心配で一目散にアリンの家に向かった。何であの時無理にでも話聞かなかったんだ、とかなんでアリンが苦しい時に気づいてやれなかったんだ、とか色々後悔したけど、でも今あいつの手を握って支えることが出来るのは俺しかいないって、それしか頭になかった。 昼に会った時以来に見るあいつはボロボロで大きな目は真っ赤に充血しパンパンに腫れていた。今にも崩れ落ちそうにわんわん泣いているのに慰めの言葉一つも出てこなくて、俺はただ抱きしめることしか出来なかった。 ーーアリンって…こんなに華奢だったのか? 俺と同じように育ってたはずなのに気づけば俺より華奢で細い肩は、この時とても頼りなく感じた。 『アリンは絶対に俺が守る』 俺はそう思わずにはいられなかった。 そして胸元で泣き続けるアリンをグッと引き寄せた。 ーー俺がいるから。必ず守るから。 アリンに届くように、そう想いを込めながら。 アリンの両親が亡くなってから1ヶ月経って、アリンは両親が働いていた定食屋で働き始めた。今まで放課後は一緒に遊んでたけど、今は学校が終わればすぐ働いている。生活のためだからしょうがない。俺がもっと大人だったら…ってのも何度も思った。でも実際はまだ子供だ。今はできるだけ近くであいつを見守るしかできない。 これが、兄弟愛なのか友情なのか、はたまた恋なのか…まだ自分でもわからないんだ。 でも…。 絶対に、絶対に!人間なんかにアリンを傷つけさせない。

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