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第9話来訪者

パジャマ姿で走っていくアリンを慌てて追いかけていくと玄関先から大声が聞こえてきた。 「アリン!お前無事なのか!?」 「な、なんのこと…?」 「なんのことってお前…」 そこまで聞いて理解した。相手のことは誰かわからなかったが間違いなく自分の存在がバレていて、それゆえにこんな早朝に押しかけられているということ。ここで逃げ隠れするのはアリンにとって良くないということ。 ーーバレているのならきちんと説明すればいい。きっとわかってくれるだろう… そう願い、彼らの前に進み出た。 ……だが、その願いは一瞬で崩れ去った。 『レイ』と呼ばれた少年はアリンより少しだけ背が高く茶髪で今時の若者という感じがした。 彼は一目見るなりアリンを背中に隠し、毛という毛を逆立てて威嚇してきた。 「お前か!!アリンになんの用だ!!人間がノスティアに何しにきた!!」 人間が猫獣人にとって嫌いな存在だということはわかっていた。 ある程度はそういう反応もあると覚悟はしていた。 だが、まるで親の仇かのように凄まれ威嚇され挙げ句の果てにアリンを触れさせないようにするその姿に沸々と怒りが湧いてきた。 「そうだ。俺は人間だ。それで君は誰なんだ?こんな朝早くに何の用なんだ?」 彼の背中で眉毛を八の字にして困っているアリンをこれ以上動揺させないよう冷静に言ったつもりだったが、それが余計に彼の気に障ったらしい。 「っ!だから!なんで人間がここにいるんだ!!」 「…まずは俺の質問に答えてもらおう。君は誰なんだ?」 「てめぇに教える筋合いはねぇ!!」 「では俺も教えない。」 「はぁ!?なんでだよ!!」 言い争いがヒートアップする中、それを遮るかのようにアリンが叫んだ。 「ちょ、ちょっと!2人ともやめて!!!こんな朝早くに近所迷惑!!いいから2人とも部屋に入って!!…レイにもちゃんと…話すから。」 アリンに促され部屋に入る。それからアリンが入れてくれた温かいアップルティーを飲みながら話し合いが始まった。 「ねぇレイ、今日朝の配達よかったの…?」 「あぁ…実は今朝配達行く前にリリアから昨日の夜、お前が人間と一緒に居たって聞いてな。それ聞いて心配で…配達は兄貴に代わってもらってその足でここに来た。」 「リリアちゃんに……。あぁー…そうだったんだ。」 どうやらこの少年の妹が昨夜、俺とアリンが一緒に居るのを見たらしい。すぐに伝えなかったのは、アリンだったということを信じたくなかったのと怖かったから…だそうだ。 そこからアリンは昨日の出来事を詳しく話した。 川で流されているところを助けたこと。 落ちた衝撃で記憶がないこと。 放っておけなくて一晩だけ泊らせたこと。 終始レイは俺のことを睨みながら聞いていたがアリンの話を聞き終えると俺の方へと体を向き直した。 「で。お前、これからどうすんの?」 「俺は…一晩だけという約束だ。一度ノスティアの街を出ようと思う。」 「自分の名前もわかんないのに?どこ行くんだよ。」 ずっとアリンと一緒に居たい気持ちはあるが、一晩だけという約束なのだ。これ以上アリンに迷惑をかけるわけにはいかない。 だから一度王宮へ帰り、記憶を取り戻したという事にし改めてアリンと向き合おうと思っていた。 「まだわからないが、とりあえずデリアの方へ向かおうと思う。」 「ふーん。……アリンは?お前は?それでいいの?」 「ぼく?!…え、えーと僕はフェアンがそうしたいなら…。でも、正直心配なんだ。自分の名前もわかんないみたいだし…。このまま追い出すみたいなの、良くないよなって…だからせめて名前を思い出すか誰か探しにきてくれるまでここに居た方がいいと思うんだ!」 驚いた。まさかアリンがそこまで思ってくれてるなんて!! 感動し思わずアリンの手を両手で包み込んだ。 「アリンッ…!君はなんて優し…」 レイが思いっきり俺とアリンを引き離したから最後まで伝えることは出来なかった。 「うぜぇ!手を離せ!」 「レイ!そんな乱暴にしなくても…」 「アリンは人間に優しすぎなんだ!お前…あの日のこと忘れたのか!?」 「そ、それは…忘れるわけないよ…」 「俺はな、正直今すぐこいつに出ていって欲しいんだ!でも、リリアも俺も人間がノスティアにいるってことを知ってる。もしかしたら他にも知ってるやつがいるかも知れねぇ。そうなるとアリン、お前も危なくなるぞ。」 「……!!」 「だからな、こいつをどうするか…。とりあえず村長に会わせる。それからどうするか決める。…異論はないな?」 俺とアリンは頷くしかなかった。

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