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第29話新たな恋敵①
アリンが泣きながら走って帰ってきた日から約1ヶ月が経った。
大きな瞳を涙で濡らし、レイと話してきたと言った様子から何かがあったのは一目瞭然だった。
アリンとレイには深い絆があるのは知っていたが、レイのそれはアリンと違うことに俺はうすうす感じていた。
ーーただ付き合うことを反対されただけであんな泣かないだろうからな。好意を伝えられたか…?…レイに限って乱暴なことはするはずはない。
無理矢理聞き出すより泣き疲れてぼんやりするアリンのそばに居てやる事が1番だと思い、その日は優しく抱きしめながら眠った。
アリンは暫く元気がなかったりぼんやりする事もあったがその度に優しくキスをしたり、抱きしめたり…自分の出来る限りの愛情を伝えていた。するとだんだんと元気を取り戻し笑顔が増えていった。
出掛ける前のキスはもう日常の一コマだ。
そして、今日はアリンの仕事終わりに迎えに行く約束をしていて、あとはこの突き当たりを曲がればアリンの店の裏口に着く、というところまで来ていた。
ーー今日はこの後デートにでも誘おうか…アリンに髪紐をプレゼントしたら喜ぶだろうか?それとも…アリンの好きな紅茶を飲みに行くのもいいな!
そう考えているとあっという間にアリンの店に着いた。
「そうーーー…で、ーーー」
「ははっーー……」
裏口の陰からアリンの声ともう1人男の声がする。
ーーロバートさんの声じゃないな。
不審に思いながら声のする方を覗くとアリンが俺の知らない男と仲良く話し込んでいた。アリンの楽しそうな表情をみていると無性にむしゃくしゃしてしまい、大声を上げてしまった。
「アリンッ!!」
「えっ…?フェアン!…お迎えありがとう!」
「アリン…その人誰?」
「フェアン覚えてない?ほら、チューリップ畑で僕が転けた時に下敷きにしちゃった人。」
「……ああ!あの時の…でもなぜここに?」
「今日ね、たまたまランチに来てくれてて。あの時の事謝りたいって待っててくれたんだ!」
律儀な方だよね、とニコニコ笑うアリン。謝るだけで仕事終わりまでわざわざ待ってるか?と思いながらもアリンの前ではなるべく紳士でいたくて冷静になれ、と自分自身に言い聞かせ心を落ち着かせた。
「そうだったのか。でも、もう別に気にしていないから大丈夫だ」
「いや、あの時は態度悪くてすいません。……言い忘れてました、僕の名前マイトって言います。」
「俺はフェアンだ…。もう話は済んだろう?俺達はこれで帰らせてもらう。」
早く帰りたくてアリンの元へ戻ろうとすると、マイトが微笑んだまま近づいて来てそっと俺の耳元で囁いた。
「アリンってとっても可愛いですね。まつ毛なんかふさふさで…。笑うと可愛い笑窪出来るんですね。」
その瞬間マイトを思いっきり振り払い睨みつけた。
どうしたの?と焦っているアリンの手をグッと引っ張り、失礼する!とマイトに言い放ち家路に着いた。
「ちょ、ちょっとフェアン!…ごめんねマイト!バイバイ!」
ーーなんだアイツは!アリンのことが好きなのか!?わざわざ挑発してきてっ…!アリンだって、なんですぐに打ち解けてる!?
俺以外のやつにあんな可愛い笑顔を見せて!!
イライラする。そして胸がずっと苦しい。アリンの前ではいつでも優しく紳士でいるつもりだったが、この感情を取り繕う事もできない。
そしてこの日、俺は困惑するアリンに対して自分の感情のまま抱いた。
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