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第38話さよならは突然に
「リヒテル様…!!ご無事だったのですね!!」
「タイラー…なぜここに…」
「私は他の護衛や騎士団員と共に貴方様の捜索を日々行なっていました。今日もダリアの方を周って王宮に帰る途中でしたが…」
「……えっ…リヒテル…様って…え…フェアン?」
背中越しに戸惑うアリンの声が聞こえた。
ーーまずい…このままではっ…
「貴様っ…!猫獣人がなぜリヒテル様と居る!」
馬から降りたタイラーが剣を片手にアリンに近づいてきた。
「ひっ…!」
「待て、タイラー!彼は違うんだ!彼は私を助けてくれた…!」
剣を見て怯えるアリンを背中で守りながらタイラーに立ちはだかると、タイラーはしばらく悩んだ後、剣を鞘に納め深く息を吐いた。
「わかりました。話はとりあえず帰ってから…。あなたの無事を陛下にお伝えしなければ。さぁ仲間を呼ぶので帰りましょう!」
そう言うとタイラーは指笛を鳴らし、「ここはわかりにくいので仲間を誘導しに行きます」と、馬に乗り走っていった。もちろん「絶対にここから離れないように」と念を押して。
「フェアン…。」
重苦しい空気に包まれる中、先に切り出したのはアリンだった。
「リヒテル様って…ルシュテン王国第二王子リヒテル様のこと…?」
その名前を知っていることに驚き振り向くとアリンは悲痛な顔をしていて今にも泣き出しそうだった。
「アリン…知っているのか?」
「顔は知らなかった。それこそノスティアでは名前を聞く程度だけど…」
「フェアン…記憶戻ってるんでしょ…?」
「…っ!それは!」
「あのタイラーって人の事すぐにわかってた!ねぇ、いつからなの!?」
「……最初からだ…。記憶なんてなくしてないよ。」
「嘘…ついてたの?どうして…」
「アリンに一目惚れをしたから。もっと君を知りたいと思ったんだ…。それで一緒にいるには嘘をつくしかないと…すまない。」
自分から打ち明けるはずの話を最悪なタイミングで知られてしまった。だがこうなってしまったからにはしょうがない。アリンと共に生きていく為に一度父に会ってもらおう。そう話そうと思いアリンの手を握った時だった。
「リヒテル様!」
「本当だっ!リヒテル様だ!よくぞご無事で!」
タイラーが仲間を連れて帰ってきたのだ。
「さぁ、馬にお乗りください。陛下もお待ちしておりますよ。」
「……。帰るならアリンも一緒だ。」
「「は…?」」
アリンとタイラーの声が重なった。
「俺はアリンと離れるつもりはない。今1人で王宮に戻ればここには戻ってこれないだろう。だから父がアリンと会ってもいいと言うまで王宮には帰らない。」
「リヒテル様!何を言っているのかわかっているのですか…!?」
それからリヒテルとタイラーの言い合いは永遠にも感じるほど長く感じた。猫獣人が人間の住む場所、それも王宮になんて受け入れてもらえないことは分かりきっている。これ以上はフェアンの立場が危なくなる…それならもう諦めるしかない。
「もういいよ…。」
アリンがそっと握りしめられていた手を離した。
「フェアン…じゃなくてリヒテル王子だったんだね。お迎えが来たなら帰らないと…。」
「アリン…!何を言ってる!さっき誓っただろう!」
「一国の王子様がこんな身寄りのない猫獣人相手にしちゃダメだだよ。…リヒテル様ありがとうございました。僕…幸せでした。」
ここで綺麗にお別れをしなければいけない事はわかっているのに涙が溢れて止まらない。
「ほら、リヒテル様。この猫獣人もこう言っています。これ以上は実力行使させて頂きますよ。」
「っ離せっ!タイラー!」
それからフェアンは屈強な騎士団員に腕を縛られ無理矢理連れて行かれた。
最後まで「アリン!必ず迎えに来る!」という叫び声が聞こえていた。
僕は呆然と立ち尽くすしかなかった。
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