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第39話王宮①

どうやって王宮へ戻ってきてのかうっすらとしか覚えていない。 今日は人生で一番幸せな日になるはずだった。それなのに覚えているのはアリンの指輪を受け取った時の幸せそうな顔と、最後に俺と離れる時の全てを諦めたような悲しげな顔だけだった。 あの後、腕を縛られたまま馬に乗せられタイラーに体を支えられるようにして帰ってきた俺はノスティアで着ていた服を着替えさせられ休む事なく陛下…父上の元へ連れて行かれた。 華々しい重厚な扉を護衛が開けるとふてぶてしい表情のまま父上が王座に腰掛けていた。対面するように立つと父上は口を開いた。 「リヒテル…とりあえずお前の無事を喜ぶとしよう。」 「父上…。ご心配をおかけしました。」 「お前…ノスティアに居たそうじゃないか。捜索していた奴らに聞いたわ…。まったくよりによってあんな低俗な種族の所にだと…!」 「…父上!いくら父上でもその発言は撤回して頂きたい。彼らは低俗な種族などではない!」 「リヒテル…お前…子どもの猫獣人に絆されているらしいな。まさか本気じゃあるまい?」 「アリンのことは本気です!本当はここに連れてくる予定でした!」 「何を言っている!25歳にもなって…そんなこと許すわけないだろう!まったく…。お前にはやってもらわねばいけない仕事もある。……とりあえず今日は休め。」 出ていけ。と冷たくあしらわれると父上の従者は入ってきた扉をあけ無言で早く出るようにと促してきた。 「リヒテル様!」 「タイラーか。」 扉を出ると待っていたのはタイラーだった。 「大丈夫でしたか…」 「心配するな。父上の獣人嫌いは相変わらずだ。だが…俺は諦めたつもりはない。」 「リヒテル様…」 「タイラー。君に話しておきたいことがある。」 ーーー リヒテルの自室は王子の部屋には到底思えないほど簡素だ。 部屋の大きさこそあるがシングルベッド1つに書斎、来客用のテーブルと椅子があるだけだ。 「今日は内密の話にしたいんだ。わかってくれるか?」 「も、もちろんです!」 茶の一つも出せなくてすまないな、と言うとリヒテルはタイラーに椅子に座るよう促し自分も向かいの椅子に座った。 「この数ヶ月間の話を聞いてもらいたい…それと今後の事もだ。まだおまえにしか言わないつもりだ。……この意味がわかった上で協力してもらえるならここに残ってくれ。」 「…私は!ずっとリヒテル様の味方でございます!この数ヶ月生きた心地はしませんでした…。なので!私を信用してくださるなら、必ずそれに応えましょう!」 「ありがとう…。タイラー」 それからリヒテルはあの川に落ちた日からの事をタイラーに話した。黒髪の猫獣人の少年が助けてくれた事。その可愛さと健気さに惚れてしまった事。ノスティアの街は美しくまたそこに住む猫獣人は素晴らしい人達だと言う事。 タイラーはリヒテルの話全てに真剣に耳を傾けた。 「もちろん、事件にも巻き込まれた事もあったが…それは全て人間が犯した罪のせいだ。」 「そのような事があったのですね…。ですがまさかリヒテル様が恋をしたとは…」 「あぁ。……プロポーズをしてOKの返事を貰ったばかりだった。」 「そうなんで……ってえぇ!?」 タイラーは驚きのあまり椅子から転げ落ちた。

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