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第57話計画

「父上までもかっ…!」 タイラーはその日のうちにリヒテルに報告するとリヒテルは顔を真っ赤にし自分の拳をテーブルに叩きつけた。 「リヒテル様、お気持ちはわかりますがお静かにっ……。」 「わかっている……。まさか兄も父もこんな腐った人間だとは思わなかった。」 くそっと小声で呟くリヒテルの拳は怒りで小刻みに震えていた。 「この王宮を全部変えなければならないな。……そのソンブルにも一度会いたい。」 静かに、しかし決意を込めた声にタイラーはすぐに反応した。 「エリックには今日中に伝えます。後はリヒテル様の都合次第ですが……。」 「今日だ。今日の夜中にここを出るぞ。……タイラーすまないが平民の服を貸してくれ。」 「は、はい!」 そしてこの話の後すぐさまタイラーはエリックに今日あった出来事と今夜の計画を伝えた。 ――― 夜も深くなる頃、しんと静まり返った街に黒のマントを着たリヒテル達がいた。三人は闇夜に溶けるように静かにソンブル商会の前まで来ていた。 タイラーがソンブル商会の扉をトントンとノックすると扉のすりガラス部分から小さな灯りがともったのが見えた。もう一度トントンとノックすると今度は控えめな声が聞こえた。 「は、はい……どちら様でしょう。」 「今日お会いしましたタイラーです。」 返事をするとすぐさまガチャガチャと鍵を外す音が聞こえた。 「タイラーさん、こんな夜更けに……」 そう言いながらドアを開けたソンブルは目の前にリヒテルがいる事に驚き目を見開いている。 「夜中に申し訳ない。俺はこの国の第二王子リヒテルだ。急ぎの話があるんだが部屋に入ってもよろしいか?」 「も、もちろんです!どうぞこちらへ。」 お茶も出せませんで、と言い頭を下げながらリヒテル達をソファへ促した。 「それは構わない。あなたのことはタイラーから話を聞いた。」 「リヒテル王子っ……!本当に申し訳ありませんっ!」 「謝罪は私にではないだろう……。あなたに聞きたいことがある。5年前、あなたがデリアで起こした事故……猫獣人の夫婦だと言ったな?時期は6月で場所はデリアのマーケットに近い森か?」 「な、なんでそれを……」 青ざめた顔で驚くソンブルを見てリヒテルは、はぁっと大きなため息をついた。 「その猫獣人の夫婦は俺の恋人の両親なんだ。」 「リヒテル様っ…!」 それ以上話すなと言わんばかりに大声で止めるタイラーを手で静止すると、リヒテルは話を続けた。 「あなたが謝らなければならないのは俺の恋人だ。だが、あなたもラシュテにお金をせびられていたのだろう。……計画がある。協力してくれるなら今までラシュテに脅されていた金額は全て返す。……協力してくれるだろうか?」 「も、もちろんです!」 何度も首を縦に振る姿を見てリヒテルはニコリと笑い、心配しながら様子を見ていたタイラーとエリックを近くに呼び小声で計画の内容を話した。 「決行は年末に行われる次期王の任命式の日。兄のことだ、きっと国民がいる前で俺を殺そうとするはずだ。それをソンブルさん、あなたに止めてもらいたい。」 「私がですか!?」 「この内容を知っているのはここにいるタイラーとエリック、それとあなただけだ。二人は当日それぞれ護衛に着いているから犯人を取り押さえることは難しい。ソンブルさん、あなたには犯人の容姿を伝えるので居場所を特定してほしい。そしてわかったら俺たちに伝わるように合図をしてほしい。」 合図にはこれを使ってほしい、そう言ってリヒテルは持ってきた鞄の中から小型の発煙筒を何本も出した。 「タイミングは犯人が俺を殺そうとしたときだ。証拠が欲しいんだ。」 「わ、私にできますでしょうか……。」 リヒテルは不安そうな顔でおろおろするソンブルの手をぎゅっと握り安心させるように話した。 「大丈夫。あなたには仲間がいるではないか。……秘密を守ってくれるなら協力してほしい。」 「それって……。」 ソンブルはリヒテルの顔を見上げたが、リヒテルはそれ以上何も言わずただ微笑むだけであった。

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