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第58話決戦は今日①
次期王の任命式当日。
この日は朝から雲一つない快晴だった。
式典は王宮のメインバルコニーで行われ、この日は王宮の正門も開放され国民は入ることが出来る。殺し屋は陛下の挨拶の後、王位継承の儀式に移る時にきっと狙ってくるのだろう。だがどのようにして狙ってくるかはわからないためリヒテルは朝から飲み物も食べ物も一切口にはしなかった。
「リヒテル様……体調が悪いのですか?朝から何も口にしていないとは……。」
「いや、大丈夫だ。少し疲れているだけだ。……悪いが少し眠りたい、時間が来るまで誰も来ないようにしてくれないか。」
医師を呼びましょうか、と心配する従者を安心させようとニコリと微笑みながら話すと従者は、わかりました!と急ぎ足で部屋を出て行った。
従者が出て行ったのを見計らってリヒテルはクローゼットの戸を開けた。
「悪かったな、タイラーこんな所に閉じ込めて。」
「いえいえ、まさかこんなタイミングで従者が来るとは……。見られてなくて良かったですよ。リヒテル様、こちらが水とパンになります。」
王宮からの食事が食べられないリヒテルのためにタイラーがわざわざ町まで行き水とパンを買ってきてくれたのだ。
「あぁタイラーありがとう。」
タイラーは水とパンをリヒテルに手渡すと、そのままリヒテルの両手をぎゅっと握った。
「リヒテル様、何があっても必ずあなたをお守りします。必ず、必ず生きてください!」
「何を言っている、私も騎士団員なんだ。そんな簡単には、」
「あなたは生きなければならない!……アリンさんのためにも。」
タイラーの言葉を聞いたリヒテルはタイラーの手をぎゅっと強く握り返した。
「ありがとう、タイラー。今日は革命を起こすぞ。」
タイラーはその言葉にはいっ、と力強く答えた。
―――
「皆の衆、よくぞここに集まってくれた。今日は我が息子、ルーカスの王位継承の儀式を行う。」
陛下の挨拶が始まると、リヒテルとタイラー、ルーカスの三人の間に緊張が走った。いつ襲ってくるか、バルコニーから見える国民一人一人顔を見てくまなく探した。国民の拍手もまばらで歓迎されていないムードなのにルーカスはずっと微笑んでいてそれもまた緊張させる要素のひとつだった。
「第一王子ルーカス、前へ!」
陛下が国民の前へ立つよう言うとルーカスは国民へ手を振りながら一歩前へ出た。その際まばらながらも拍手や指笛で歓声が上がった。
「リヒテル様も一歩前へ。」
従者がそう言いリヒテルが一歩前に出ようとした瞬間、バルコニーから赤い発煙筒の煙が上がるのが見えた。
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