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第59話決戦は今日②
「リヒテル様っ!」
パンっ乾いた音が鳴るのとタイラーがリヒテルに覆いかぶさったのは、ほぼ同時の事だった。
リヒテルは発煙筒の煙が見えたと同時に体を低くしながらバルコニーの柱まで走ったが一歩手遅れだった。リヒテルの腕は弾がかすったのか服が血で滲んでいる。
「リヒテル様っ……血が!」
「そんなことはいいっ!エリック!!」
大声で叫ぶとエリックは一目散に発煙筒の煙が立ち昇った場所まで駆け出した。
タイラーに守られている状況の中、辺りを見渡すと陛下はただただ驚きと不安で慌てふためいていただけだったがルーカスは悔しそうに唇を噛み顔を歪ませていた。
リヒテルは周りの制止も聞かず滴る血を押さえながら国民の方を見ると一人の男が何人かに取り押さえられていた。そしてその中にエリックとソンブルがいるのを見て確信にかわった。
――やったぞ!……後は私の役目だ。
リヒテルは同じく国民を見ているルーカスの方をぐっと見据えゆっくりと歩き出した。
「な、なんだリヒテル。なぜ近づいてくるんだ。」
リヒテルの額には青筋が張り目はキッと釣りあがっている。その見たこともないリヒテルの剣幕にルーカスは狼狽え、リヒテルが近づくたびに一歩ずつ後ろへ下がった。
そしてルーカスの背中がバルコニーの手すりに着き動けなくなった瞬間、話を切り出した。
「ルーカス!あなたは俺を二度も殺そうとしたな。」
「……はあ?何を言っているんだお前は……。」
「お前が殺し屋を雇い俺を殺そうとしていたことは知っている。一度目は盗賊を装い、森で襲ったな。そして二度目は今、お前が雇った殺し屋が俺を狙い銃を撃った!!」
その発言に話を聞いていた国民は動揺し、中にはルーカスに向けたブーイングや野次を飛ばす者もいた。
「ち、違うんだリヒテル!私はそんなこと……」
「リヒテル様!連行してきました!」
そこにエリックの大きな声が響いた。エリックはあの夜に会った全身黒で固めた殺し屋を縄で縛り、リヒテルとルーカスの前に突き出した。
「ルーカス、この人間を知っているな。」
「……っ知らん!そんな人間、早く連れていけ!」
苛立ち、口調が乱暴になるルーカスにそれまで静かに聞いていた殺し屋が口を開いた。
「知らないとは酷いですねぇ。そりゃ失敗した身、何も言い返せませんが……。もう逃げも隠れもできませんからねえ、あなたがそんな態度ならもう全てお話しましょう。」
「おまえ!ま、待て!」
ルーカスは慌てふためき話を遮ろうと殺し屋に近づこうとしたが、護衛に止められそれは叶わなかった。その様子を見ていた殺し屋はニタアと薄ら笑いを浮かべ話を続けた。
「森で盗賊を装ってリヒテル様を殺そうとしたのも、先ほどの発砲も私ですよ。ねえ、ルーカス様。えっと……リヒテル様が生きていると都合が悪いんでしったっけ?」
「黙れ黙れっ!」
「あぁ、そこにいる護衛の方も知っていますよね。」
殺し屋の発言で視線は一気にエリックに注がれた。
「はい……。知っておりました。今日のことも。そして、リヒテル様もご存じです。」
それを聞いたルーカスは茫然となり、リヒテルの方へ視線をむけた。
「ルーカス、俺は決して王になりたいわけじゃなかった。ルーカスが次の王になると思っていたし、俺は弟としてそれを支えていきたいと思っていた。それなのになぜっ……!」
リヒテルの疑問にルーカスは苛立ちを隠せず声を荒げた。
「それだよ、その態度が嫌なんだ!王になりたくないと言いながら国民に近づいて人気を得ようとするその態度が!お前さえいなければっ……。」
そ個まで言うルーカスの目には涙が溢れていた。
「俺の存在が疎ましかったんだな。……それでも俺にとってあなたはたった一人の大切な兄弟だったよ、兄さん。」
それを聞いたルーカスは膝から崩れ落ち、地下に連れていかれるまで小さなすすり泣きをこぼしていた。
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