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第1話

 温かい湯気が立ち込めるキッチン。  1DKという広くもない部屋ではキッチンを使えば自然と部屋中にその匂いは充満する。 今朝は味噌汁…和食か。  自分が寝ている間に誰かが朝食を作ってくれている暮らしなんて、実家にいる時以来だった。ついこの間まではこの部屋に誰かが一緒に住むなんて考えてもいなかった。自分以外の誰かが部屋にいるなんて。  そう、あの日あいつが話しかけてさえこなければ。 …………  思春期なんてとっくに過ぎたんだけどな。なんだか生きててもつまらない。人生なんてクソくらえとしか思えなかった。  いつものクラブで決まった馴染みの顔と会う。その場だけの付き合いで、名前を覚えてない奴も多かった。  その場だけでも楽しめるように酒を煽り、ちょっと無理してでも笑えば楽しんでるような気分になれる。  そんな繰り返し。   女だって同じ。決まった相手はいらない。その日だけ隣にいてくれる温かい肉の塊。  ただの抱き枕にするとあいつら怒るだろ?めんどくせえから抱く。人並みの性欲はあるからな。  突っ込んでる間だけでも無になって、ただ気持ちいい感覚だけに身をまかせる。  そこまでの興味はなくても生理現象で勃つんだ。相手に1ミリの興味がなくてもな。  失礼な話だ。まぁ、向こうもその程度の気持ちでついてくるんだろ。  その夜出会った初対面の男についてくるくらいだから。  別に悲劇の主人公ぶりたいわけじゃないって事は言っておく。  こんな奴その辺にざらにいるだろ。大した目標とか夢とかなくてさ、とりあえずその場だけ楽しけりゃいいかみたいな奴ら。少なくとも俺の周りの上っ面だけで付き合ってる奴らはみんなそんなに見える。    俺はと言えば派手にブリーチして金髪にした髪。見える位置に入れたタトゥー。  就職って考えた時、俺が公務員とか想像もつかなかったから、これを彫ってもらった店に弟子入りして、彫り師になった。まだまだ下っぱの見習いの身。  まともな仕事…サラリーマンとかも勤まるとも思えなかったしな。  一応仕事は真面目にしていた。  まだまだ師匠の仕事を見学してもらってる見習いの身だけれど、真面目にやってゆくゆくは自分の店が持てれば、くらいには考えてた。夢なんて大層なもんじゃねぇけど。  絵柄を考えてる時間、練習と称した無料での簡単な絵柄を彫らせてもらってる時間は、クラブで踊ってる時と同じ感じになれた。  無になれる時間て感じかな。  空っぽの俺だって、何もしてないと考えちまうからな。  こんなだから、親とはもう何年か会ってない。  薄情な息子だと思われてるかもしれない。 でもこんな姿になった俺を見せるより親孝行ってもんじゃないか?  全部戯れ言、言い訳でしかねぇけどな。

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